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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十話 氷河の国
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尋問


 目が覚めるとそこは城壁と同じ素材で出来ているであろう翠蒼の部屋だった。調度はそれなりに質のいい物が揃えられており、部屋も暖かい。しかし、部屋にはイルザ一人だけだった。


 (牢屋・・・にしては、豪華すぎるわね。まるで客室のようだわ)


 イルザはベッドから起き上がり、ぐるりと部屋の中を見渡す。


 窓には格子がかかっている。扉に近づき、ノブを回すが、外から鍵がかけられている。一応は囚われの身であるようだ。


 扉は破壊することも出来なくは無さそうだが、余計な騒ぎは安否がわからない三人を危険に晒す可能性があるので、大人しく待つことにした。


 (なんだか捕まってばかりな気がするわ、物語のお姫様だったら王子様的なのが助けに来てくれる展開を期待するけれど。生憎、そんな男性はいないのが悲しいわ)


 一瞬だけ、グレンの顔が頭をよぎったが、それは無いな弟みたいな奴だしと否定した。


 さて、時間はどのくらい残されているのか分からないが状況の整理くらいはしておこう。


 武器や携行品は全て没収されている、幸いにも革手袋はそのままだったので紋章を見られたということは無いだろう。


 そして、何故好意的であったリグが突然自分達を捕らえたのか。スミレが問い質したとき、「今は何もしていない」とリグはそう言っていた。つまり、動機自体はそれよりも前の段階で企てていたと推測する。


 やはり、旅の目的についての会話が不味かったのだろうか。遺跡になにかがあるのか、あるいは初めから捕らえるつもりで接触してきたのか。


 様々な思案を巡らせていると、扉からノック音が聞こえた。


 (どうする・・・大人しく従うか、眠った振りを続けて時間を稼ぐか)


 「イルザ様、我らが騎士魔王ニルス様が面会をご所望です。お連れの御三方も既に謁見の間へ向かっております」


 丁寧な口調の女性の声が扉越しに聞こえる。


 エルザたちは既に解放されているということなのか、ここは大人しく応じることにした。


 「分かりました」


 そう応えると、扉が開かれた。現れたのはプラチナブロンドの眼鏡が良く似合うメイドが立っていた。


 「私はこの城のメイド長を務めております、ルクセア・ノルタークと申します。謁見の間はこちらです」


 一方的な簡素な挨拶を済ませ、イルザを誘導する。城内は翠蒼の結晶で出来ており、壁や階段どこをとっても心奪われる美しい建物だ。


 一際大きい扉の前までやってきた。


 「こちらが謁見の間でございます。尚、お連れ様との私語は騎士魔王様の許可無しではなさらぬよう、お願い致します」


 「はい、わかりました」


 つまり、無駄口を叩くと問答無用で殺されるかもしれない。ごくりと生唾を飲み込み、謁見の間へと足を踏み入れる。


 先に来ていた三人と目が合った。お互い無事を確認でき、それぞれ安堵の表情を浮かべる。


 四人は結晶で作られた腰までの高さのある柵の前に並んで立つ。


 これから一体何が始まるというのだろうか。


 「これより、我が国の騎士魔王ニルス様、リグ様による尋問を開始致します。旅の者よ跪きなさい!」


 謁見の間に響く声、それと同時に体が急激に重さを感じ、強制的に膝をつく態勢となった。そして、背後から何者かが近づき、四人全員に首輪を装着した。


 「その首輪は魔導具"真実と嘘(ダウトトラスト)"、質問に対する回答に虚偽があれば徐々に首を絞めていきますので発言にはご注意くださいませ」


 厄介な物を取り付けられてしまった。どうやらかなり警戒されているということだけは理解出来た。


 「さて、この(わっぱ)共がティア・・・リグが捕らえたという者達か。面を上げても良いぞ」


 「一同、面をあげよ」


 号令とともに、膝をついたままだが頭は自由に動かせるようになった。翠蒼の玉座に座するはショートの翡翠の髪色をした、妖艶的な美女であった。そのすぐ横に立つは白髪の眼帯の女性、リグ。


 リグと騎士魔王ニルスは一瞬、グレンを見た気がしたがすぐさま議題に移る。


 「其方らにはいくつか余の質問に答えてもらう。もちろん虚偽の回答は文字通り己の首を締めることになるから覚悟せい」


 魔王、と呼ばれるだけあって言葉の一つ一つがとても重く威圧的である。ヴェンデの強者の風格もかなりの重圧だったが、桁が違いすぎる。反抗的な態度を見せれば死は免れないことを四人は確信した。


 「初めの問は・・・そうじゃな、名はリグから聞いておるが、種族は聞いとらんな。出身国と種族を名乗るがよい。まずは銀髪の女、イルザ・アルザスから答えよ」


 イルザ、エルザ、グレン、スミレの順にそれぞれ偽りなく答えた。


 「真実と嘘(ダウトトラスト)が反応しておらぬな、人間族であるか。イルザよ、そなたは神界器(デュ・レザムス)を所有しておるな?」


 「はい、私はグレン・フォードの契約者でございます。所有しているのは剣。スミレ・オーバーンの神界器(デュ・レザムス)は弓でございますが、現在契約者は居ない状態でございます」


 「ふむ、二振りの神界器(デュ・レザムス)。それでだ、この国にどういった用件で参ったのだ。よもや余の首を狙いに来たなどと戯言を抜かしてはくれるなよ」


 「滅相もございません。理由はスミレ・オーバーンの元主が残したレポートに千年戦争の遺跡と神界器(デュ・レザムス)に反応する石板の存在があると知り。召喚した人間の失われた記憶の手がかりを調査するために訪れたまででございます」


 冷や汗を流しながら魔王の問いに答えるイルザ。気分としては最悪だ、薄氷の上で無理やりタップダンスでも踊っているようなギリギリの精神を保つのが精一杯だ。この苦痛とも言える時間が無限に続くような気がして、気が狂いそうだ。


 騎士魔王ニルスの顔が一瞬だけ歪んだような気がした。そして、隣に立つリグとこちらに聞こえないよう何かを話している。


 「スミレとやら、そなたは千年戦争の遺跡に侵入したということになるが、具体的に何をしたか申せ」


 「わ、わたしはその時、主様に術をかけられていましたのではっきりとは覚えていないです。で、ですが、主様が残した資料で、神界器(デュ・レザムス)が遺跡の石板に反応して何かの文字を読んだそう、です」


 緊張と恐怖で言葉がたどたどしくなっているスミレ。発言するだけでも怖気付く状況の中、精一杯言葉を返したスミレの精神力は日に日に強くなっている証でもあった。


 再び、魔王とリグが話す。


 「尋問はこれにて終結じゃ、こ奴らはこれより客人としてもてなす。早々に拘束を解くのじゃ」


 魔王ニルスの一声で全身にかけられた拘束魔術が解かれ、メイド達が真実と嘘(ダウトトラスト)を外す。物理的に自由の身となったイルザ達はひとまずは命の心配は無いと一安心。


 「メイド長、リグ、客人イルザとその連れの者達を応接間へ案内せよ。余も後に参る。」


 魔王ニルスはそう言い残し、謁見の間から去った。どうやら魔王との対談はまだまだ続きそうだ。


 「イルザ様、エルザ様、スミレ様、グ、グレン様。先程の無礼をお詫び申し上げます。神界器(デュ・レザムス)の関係者と判断した上での行為、お望みとあらばどんな罰もお受け致しましょう」


 イルザ達の前に膝をついて謝罪の言葉を述べるリグ。獣人族特有の耳と尾が垂れ下がっている。


 「あ、頭を上げてください。素性を隠していたのは私たちなので、罰なんてとても・・・」


 多少なりとも理不尽さを感じてはいるが、リグの様子から察するに誠意を感じられる。そして、自分の素性の隠し方にも問題があったと反省する。


 「いえ、素性を隠しているのは私も同じでございます」


 確かに、出会ったときに旅人と名乗っていたリグ。国に侵入しようとする者に対して、自ら正直に名乗りをあげる必要も無い。


 「・・・名前、違うの?」


 「はい、エルザ様の仰る通りです。私の名はリスティア・フォックロイと申します」


 「すげぇなエルザ、なんでわかったんだ?」


 迷いなく言い当てたエルザの推理力に驚くグレン。


 「・・・魔王様がリグのことを間違えて愛称で呼んでいた」


 思い返せばそうだった気もするが、緊張と恐怖で余裕がなかったグレンははっきりとは思い出せなかった。


 「そして、今お見せしている姿も仮の姿」


 リスティアの全身が白金の魔力に包まれる。それを見たイルザ達は、リスティアは躍進する者(エボブラー)だと確信した。


 白金の魔力が宙に散り、本来の姿を表したリスティア。黒色の毛に白色の毛が入り交じったショートヘア、背丈と瞳の色は変わらず、耳や尾も髪とおなじ色に、胸部は若干膨らみが増している気がする。顔立ちは頼れるお姉さんというよりは生真面目そうな才女という感じの美女。


 「すごい・・・全くの別人みたいだわ」


 「仕事柄この能力は重宝するのですよ。では、参りましょう。メイド長、私が案内しますので、お茶菓子の準備を頼みます」


 「了解致しました」


 客人というのは建前かと警戒していたが、それなりに対応してもらえるようで安心するイルザ達。それに対するかのように、出会った頃のリグと名乗っていたリスティアと今のリスティアの対応が違うことに少し寂しさを覚える一同だった。



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