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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十話 氷河の国
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青と銀の瞳


 ダークエルフ姉妹の妹、エルザは他人の感情に敏感、つまるところ察しがいい少女である。


 グレンがいきなり家にやってきた日、警戒こそはしたものの、姉を守るというのは本心から言っているのだろうと感じ、受け入れた。躊躇い無くスミレを助けたのも、彼女の本心に悪意がないことを何となく察していたからである。ヴェンデら三人組も、好意的に接してくるのは根が優しい鬼と人間だったから彼らを信じた。


 そして、今共に行動しているリグという女性は何となく嫌だなと。綿が水に濡れるような、心が縮むような思いを抱いていた。


 きっかけは、リグのグレンに対する反応。怒ってはいない、別の感情を抱いているんだろうな、という程度。


 もやっとした。


 決め手は姉のイルザとの旅の目的に関する会話。お互い素性を隠しているのは仕方がない。だけど、最後の反応。あれは私達四人に向けられた感情では無く、グレン個人に向けられているのだと感じた。


 嫌だった。


 では、エルザ自身の、グレンに対する感情というのはどういう風に抱いているのか。姉は家族だと言う。スミレは頼れる兄のように接している。


 私は、私は・・・。


 わからない。


 姉が言うように大切な家族の一員とも思うスミレが接するようにグレンは兄のようでもある。だけどそれ以外の感情を抱いているのは明らか。この想いが、わかる日がくるのだろうか。


 リグという女性は、なんとなく好きになれそうになかった。





 北国ジュデッカ、王都前雪原。


 洞窟を抜けた先は銀色に輝く雪原が広がっていた。食料の補給を兼ねて街に寄り、特産品の果実を堪能したりもした。


 「雪が多いし、寒いけど、平和で素敵な国でしょ? 王都はもっと素敵なんだから!」


 リグの言う通り、騎士魔王直属の騎士団が統治しているお陰か、街は活気に溢れ治安が良い。


 イルザ一行はそんなジュデッカの街に住むのも悪くは無いかも、と思いつつ目的地である王都の近くまで来ていた。


 「ここが王都グリシノゼルグよ」


 イルザ達は感嘆の声を思わず漏らした。銀色の雪原にそびえ立つ城壁は翠蒼の結晶、それを囲うように透き通った水が流れる河。氷河の北国。文字通りの過酷で最も美しい北国だと全員がそう思った。


 「私、旅に出て良かったと改めて思ったわ・・・」


 「ああ、そのあたりはヴェンデに感謝しないとな」


 世界は広い。自分たちがどれほど狭い世界の中で生きてきたのか改めて痛感したイルザ。


 「・・・」


 何故か、突然黙り込むリグ。その様子に既視感を真っ先に感じたのは。


 「・・・姉さん、グレン。武器を構えて」


 錫杖を構え、前に出たのはエルザ。


 「エルザちゃんは察しがいい子なのね。その感覚はこれからも大切にしなよ?」


 リグはスミレの方に振り返り、片目の青い瞳で見つめる。その瞳は力強い。ヴェンデがイルザを見た時と同じものを彷彿とさせる。


 「私たち、なにかしたですか?」


 エルザの次に既視感を感じていたのはスミレだった。以前の自分がそうだったように、誘い込み、捕らえる。その手法をリグが行おうとしている。


 「ううん、君たちは何もしていない。今は、ね」


 リグは頭の後ろに手をやり、眼帯の紐を解いた。


 「グレン! アレを使ってひとまず逃げるわよ!」


 「ああ、それしか無さそうだ」


 イラエフの森には様々な植物があり、その一つである煙樹の種。衝撃を与えると濃い煙幕を発生させ視界を遮る。煙樹は視界を奪われた獲物を捕食する樹木である。


 グレンは煙樹の種をバックパックのポケットから取り出そうと手を伸ばす。


 「残念だけど、何もさせないよ」


 冷たい声、リグの声はどこか悲しみを帯びている。眼帯から開放された右目が、開かれていた。


 その瞳は銀。やがて青い左の瞳も銀に染まる。


 「・・・ッ!」


 グレンの手はバックパックの手前で停止した。まるで時が止まったように、身動きひとつできない。声も、出ない。動きが止められたのはグレンだけではなく、他の三人も同じだった。


 「しばらく君たちには眠ってもらうね」


 寒い。


 冷たい。


 体温が異常な速度で低下していくのを感じる。


 イルザ達は抗うこと無く意識を失った。その姿は氷で出来た像のようだった。


 「ごめんね、君たちが無実だったら改めて謝罪させて欲しいな・・・」


 眼帯を結び直し、左目は元の青に戻っていた。


 そしてリグは城門を警護している騎士に凍結させた子供たちを牢に運ぶよう指示を出し、騎士魔王が待つ城へ一人寂しく向かった。



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