幕間 月と太陽
グレンが風呂場でアウラとキャッキャウフフしていた頃、スミレは縁側で赤い月を見上げていた。
月が輝くのは太陽の光を浴びているから、月は独りで輝くことは出来ない。何かの物語でそう表現されていたのを思い出していた。
スミレは孤独を感じていた。
イルザ達と生活しているが主を失った神界器と人間、月を象徴としている"極光の月弓"は今見上げている月と同じで孤独で寂しい。他の人間を見ていてより一層強く感じてしまう。
淡く、赤く、輝く。青髪の少女はただ月を見つめていた。
ふと目を横にやると、無言でもう一人スミレの横に座り込んだ少女が居た。
「ふぇっ!? コルテさんいつの間にいたですか!?」
昨日出会った時はメイド服というものを着用していたが、今日はゴシック調の白と黒を基調としたドレスを着ている。メイド服に似ているが細かな装飾が印象的だった。
「たった今」
目が隠れている前髪のせいなのか、コルテの表情が読みにくい。言葉も無機質なのも、後遺症でそうなってしまったらしい。
スミレは人見知りである。イルザ達とは事件の関係で成り行きで打ち解けたが、正常な意識で他人と接するのは初めてだ。
気まずい無言が続く。
この空気をどうしたものか、そもそもなぜ隣に座って無言なのか、用事があるのではないか、こちらから聞き出すべきなのか、目まぐるしく脳内会議がスミレの中で行われていた。
「可愛い服、見せて」
脳内会議を強制終了させたのはコルテの服を見せてという一言だった。やっぱり用事があったのかとフル回転していた脳がため息を吐いたようだ。
「いいですよ、た、立った方がいいですか?」
「うん」
立ち上がると、スミレの服をマジマジと見つめる。自分が着ている服が珍しいのだろうか? ふむふむ、なるほどと独り言を口にするコルテ。
「私の服、交換」
「え、ええっと・・・。今だけ着替えるということです?」
「ううん、物々交換」
そう言って能力を使って取り出したのは青色のシンプルなドレスだった。
「ええ!? わ、私には似合わないですよ!?」
スミレとコルテの体格はほぼ同じで服のサイズは問題無かったが、少し露出が多めの服装を常にとなると躊躇ってしまう。
「・・・」
コルテが無言になってしまった。
「あ、あの、普段着が今着ているのしか無くてですね、それに、ええっと、私なんかが似合わない服を着るのがちょっぴり恥ずかしいなって、思ったり思わなかったりしてですね」
コルテの厚意を無下にしてしまったことに申し訳なく思うあまり、言い訳がつい早口になってしまう。
「試着、する?」
あまり気にしていないのか、慌てふためくスミレの言い訳を遮った。
場所は縁側からエルザの私室に移る。
ドレスの着替えを手伝うコルテ、嬉し恥ずかしい様子で着飾られるスミレ。コルテの青いドレスはスミレの体にピッタリで、体のラインが美しく強調される代物だった。小柄なスミレでも脚が長く見える素晴らしいデザインだった。
「似合ってる」
スミレを姿見の前へ誘導し、自身の目で確認させる。
目の前に映ったのは、少し違う自分。服を変えるだけでこうも印象が変わるものなのかと驚いた。
「少し、大人になれたみたいで嬉しい・・・です」
「髪、結い直す」
続いて化粧台の前へ連れられる。ツインテールを解いて、ヘアブラシをかける。
「スミレ、新しい主、見つけない?」
無機質な声は、的確に、正確に、スミレの悩みの核心を突いた。
「それは・・・、その・・・」
「私も、同じだった」
コルテの手が止まる。鏡越しに見るコルテの表情は明らかに悲しそうな表情をしていた。
「もしかして・・・ヴェンデさんは最初の主様ではないということですか?」
コクリと頷く。
「元の主、苦痛の日々、解放してくれた。主失った私、ヴェンデ、アウラと共に引き受ける、言った。スミレ、私と似ている。イルザ、お願い、してみない?」
コルテとスミレの境遇は似ていた。コルテが元の主から解放されたあと、ヴェンデが二人目の、二人の主となった。ヴェンデが二つの神界器を扱う理由がそれである。
「それも・・・、少しは考えたです。ですが、正体の分からない神界器を二つも所持してもらうのは迷惑ではないかと思ったです。もちろん少し寂しいですが、負担にならないのなら今のままでも良いと・・・」
神界器は主が強くなることで従者の人間が扱う神界器も同等の出力を得る。今の主を持たないスミレでは脆弱な矢を真っ直ぐ射ることが出来るかどうか、という具合である。この先、より戦いが激しくなれば足を引っ張るのは明らかだ。だが、イルザ達に負担をかけたくない想いもある。その葛藤が、スミレを悩ませている。
「スミレ、私と同じ考え。だけど、本音、隠せない。寂しさ、心、壊す。誰かに、甘える、悪いことじゃない。これだけ、覚えて」
「ははは・・・。コルテさんも同じ考えだったのですね。はいです。ですが、もう少しだけ考えてみるです」
「うん」
再びコルテの手が動く。スミレの髪を編み込んでいき、根元を編み込みで巻いたツインテールが完成した。
「・・・ス、スミレ」
振り返るとそこにエルザの姿があった。もちろんエルザの私室なのでそこに居るのは自然なことであるが、様子が不自然だった。
「エルザさん?」
ぬるりと、コルテにエルザが迫った。
「・・・コルテあなた」
空気が凍る。
「・・・あなたを見た時から思っていたのだけれど」
コルテは無表情を貫く。
「・・・あなたの服、とても、ええ、とっても素敵だわ。・・・スミレがこんなにも可愛い。もしかして、他にも持っているのかしら? ・・・良ければの話だけれど、見せてもらえないかしら。服作りの参考にしたいわ」
いつもは物静かに話すエルザが興奮気味に饒舌に話している。
「構わない、沢山ある。そのかわり、要求」
「・・・要求?」
スミレは冷や汗をかいた。もしかして、スミレの主になれとでも言うのではないかと。
「スミレの服、同じモノ、作って」
そう思っていたが違ったようだ。スミレの少し考える時間が欲しいという思いは汲んでくれている。
「・・・お安い御用よ。早速取り掛かりましょう。コルテ、スミレに次々着せていってちょうだい」
「了解」
「ふぇっ!?」
趣味で意気投合したエルザとコルテはその晩、スミレを着せ替え人形のように次々と飾っていった。
それはそれで楽しい時間で、無表情で無機質なコルテも、素直なようで感情が読み取りにくいエルザも、心の底から楽しんでいた。
登場人物 ③
「グレン・フォード」
性別:男性
年齢:16歳
身長:164cm
体重:58kg
種族:人間
紋章:右手の甲、彼岸花
趣味:罠の開発
好きなもの:肉料理、冒険譚
嫌いなもの:一対一の戦い、自分が罠にかかること
妖精の輝剣と共に召喚された人間。
召喚される前の記憶を失っているが狩猟を生業としていたことはぼんやりと覚えている。
そのおかげで罠を仕掛けることが得意。罠に関する知識と情熱は人一倍強いと自負しているが、自分が罠にかけられるのは嫌う。
戦闘能力は人並み。正面から戦うのが苦手で、なるべく目立たないようにしている。(臆病な性格だからが口癖)
躍進する者の能力判定は不明。そもそも魔力を扱うことが出来ないので判定が出来ない。(妖精の輝剣を扱う程度の魔力操作しかできない)
年相応のすけべ心を持っており、イルザ達の入浴を除いたが失敗している。




