たたかう鬼2
「どういうことかしら? 私の知っている限りでは、人間界・魔界・神界の三つが存在しているのだけれど」
「それは自分の目で確かめた事実なのか、あるいは書物かなんかの入知恵か? どちらにしろ、事実は事実だ。俺たちが今、立っている大地はひとつで世界は区切られているってぇことはない。人間も魔族も魔獣もカミサマもみんな同じ世界に生きていたんだよ」
それからヴェンデは証拠と言わんばかりに、今までの旅の中で人間が暮らしていたであろう廃墟群や灰色の砂漠、密林となった孤島での発掘品を次々とテーブルへ並べていく。中には人間が使用する文字で書かれた石板があった。
父が残していった書物、森に迷った魔族から譲ってもらった書物、そしてブランの研究資料。その全てが間違いだったということになる。
「さっき私が見せた資料の中に人間についての考察があったけれど、それも間違いだというのかしら?」
「考察つっても生態調査みてぇなもんだろ? それに、だ。こいつを書いたっつー奴は信用に足るのか? これを事実として誰が保証できる? 謎だらけの中で情報を少しでも集めようとする精神は結構だが、それを全て鵜呑みにするのはいただけねぇな。情報の取捨選択も謎解きの重要事項だぜ嬢ちゃん」
ことごとく正論で返されてしまい、何も言い返せなかった。ヴェンデの言うことは正しい。だが、悔しい。今まで信じてきたことが覆されるというのはどうにも認めたくないものである。
少し間をおいて一呼吸。
悔しいが、ヴェンデの正論に納得した。煮え切らない部分もあるが、自分の目で確かめていないことには仕方がない。それに、納得しなければ次へ進むことはできない。
「まーたイルザさんにいじわるしてるっスね~。正論を振りかざしすぎると嫌われ者になるっスよ~」
「嬢ちゃん達のこれからを考えてちょいとからかっただけだ。どちらにしろ誰が信用できて、どの仮説が正しいかだなんて分からねぇんだ。情報の大切さと危険性を知ってもらうにはいい機会じゃねぇか」
アウラに咎められたことを豪快に笑い飛ばす。
イルザの悔しかった感情は頭痛に変わり、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「やっぱりあなたのことは少し苦手だわ・・・」
「嬢ちゃんぐれぇの年ならおっさんは苦手、ってぇ相場は決まってんだよ。とまぁ、嬢ちゃんらの神界器についての認識度合いは大体わかった。俺達からはもう聞くことはねぇが、他に聞いておきたいことはねぇか?」
気掛かりなことが一つあった。イルザが口を開こうとするより先に、エルザがヴェンデに問いかけた。
「・・・旅をしてきたと言っていたけれど、この世界に神界器で召喚された以外の人間は見た?」
ダークエルフの姉妹の共通認識だった人間界。そしてその人間界に住む人間は滅んでいた。ヴェンデが見せた魔界だと思っていた世界での人間の生活の痕跡。神界器に召喚された人間はどこからやって来たのか。エルザもイルザと同じ疑問を抱いていた。




