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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第八話 新たな足音
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妖精の祭壇


 イラエフの森はヴィアーヌ湖を中心とした広大な森林地帯である。湖の南方にイルザ達の家、北東にはブランが根城としていた第一研究所が位置する。


 橙色の空の下、イルザ一行は帰路に就いていた。


 「・・・お腹空いた」


 「帰ったらすぐにご飯にするから我慢なさい」


 「・・・今日の夕飯はなに?」


 「テポトとハクナのスープかなー? あとは漬けていたメウの実が食べ頃だから、それを使ったパイね」


 おおっ! と嬉しそうな表情を見せるエルザ。話し声からは感情が読み取りにくいが、その代わり表情に現れる。


 「さすがにそろそろ肉とか魚が食いてぇな・・・」


 夕飯のメニューを姉妹の後方で聞いていたグレンが小声で、聞こえないように呟いた。はずだったが。


 「私の作ったご飯がそんなにも嫌なのかしら?」


 「地獄耳かッ! 前にも言ったけどしょうがねぇじゃん、そもそも味覚が違うんだしよ! もちろん、イルザの作る飯はうめぇよ、最高だよ。だけど、食いたいもんは食いてぇんだよ! な? スミレ?」


 「ええっ!? なんでそこで私に振るですか!?」


 「スミレも俺と同じ人間だろ? なら肉の一つや二つ食いたくなるよな? な?」


 鬼気迫る表情でスミレに迫るグレン。あまりの勢いに後ずさりするスミレ。


 「・・・グレン、スミレが引いてる」


 「うるせぇ! 人間なら肉を食ってなんぼのもんじゃい!」


 完全に暴徒と化してしまったグレン。そんな騒ぎの中、一羽の森兎が横切る。


 狩猟本能に目覚めたグレンはそれを見逃すはずもなく、俺の夕飯と叫びながら茂みへと逃げた兎を追いかける。


 「ちょ、ちょっとグレン! まだ結界の外なんだから待ちなさい!」


 イラエフの森は様々な魔獣が住み着く危険な森である。イルザの家を中心に東西南北をひし形状に魔獣避けの結界を張っているが、今イルザがいる場所はその結界の外である。魔獣避けの魔法石をイルザが所持しているので傍に居れば安全だが、効果の範囲外に出るといつ襲われてもおかしくない。


 無我夢中で兎を追いかけるグレンを追いかける珍妙な光景。その傍らに黄金の蝶が舞っていた。





 「待てや肉オラァ!!」


 イルザが護身用にと携帯させていた短剣を片手に兎を追いかけていたが、森の空気が変わったと同時に見失った。


 「ここは・・・」


 予期せぬ光景に立ち尽くすグレン。


 「やっと追いついたわ、勝手に行動しないでって言っ・・・」


 遅れてイルザ達三人がグレンに追いつく。


 エルザとスミレは辿りついた場所の澄んだ空気と風景に見とれていたが、イルザは違った。


 「ねぇグレン、ここって」


 「ああ、俺達が出会った祭壇だ」


 花畑の奥にひっそりと佇む石造りの祭壇。グレンに出会って以降、何度か訪れようとしたが何故か見つからなかった場所。


 「・・・どうしたの?」


 「ここが、前に話した祭壇。でもどうして今なの・・・?」


 「・・・ここが。いい機会だから少し調べてみましょう」


 物怖じしないエルザは祭壇の周りをじっくりと観察しながら回る。


 「綺麗な、とても澄んだ場所です・・・」


 橙色に染まった空も相まって、花々のグラデーションがより鮮やかに映える。スミレは目の前の風景を心の中に収めるように五感全てで感じ取る。


 「スミレが召喚された祭壇もここと似ていたの?」


 「いえ、私が召喚された場所は砂と岩の灰色でいっぱいでした。ここはイルザさんの神界器(デュ・レザムス)の名前の通り、妖精さんが住んでいそうな場所です」


 瞳を輝かせて花畑の中を無邪気に進んでいくスミレ。心を奪われる風景なのはイルザも納得する。イラエフの森には木はあれど、愛でるような花はあまり生息していない。一輪くらいなら持ち帰ってもいいだろうと考えていた矢先。


 すっかり黙り込んだグレンが祭壇の宝玉が祀られていた所へ歩み寄る。


 「グレン?」


 「・・・・・・」


 イルザが呼びかけても返事がない。異変を察知したのか、エルザとスミレはイルザの元へ駆け寄る。


 「・・・何かあったの?」


 「わからない、グレンの様子がおかしいの」


 ゆっくり祭壇に上がり、宝玉の台座の前で止まる。そしてグレンの右手には"妖精の輝剣(アロンダイト)"が握られており、その剣を台座に突き刺した。


 祭壇は蒼白の光に包まれる。


 突然の輝きに目を眩ませる一行。奪われた視界が徐々に回復し、再び色鮮やかな花畑が目前に。しかし、祭壇には違う姿が現れた。


 剣の柄を掴んだまま倒れ込んでいるグレンの前に、二メートル程の青白く輪郭がぼんやりとしている像があった。中性的な顔立ち、幻想的な蝶の羽、花々をあしらったドレス。そこに在るようで無い存在感は畏怖の念すら感じる。


 「我は剣に宿りし妖精神(フィーディア)である。」


 透き通った覇気のある声色で告げる。自らを妖精神(フィーディア)と名乗るその存在はさらに言葉を続ける。


 「我が力を振る魔の子よ。その力を持って何を為すか。」


 突然の問いかけに動揺するも素早く頭を切り替えて、思いをそのまま口にする。


 「私は・・・私の今を守るために戦うわ。神界器(デュ・レザムス)だの千年戦争だの魔王なんてどうだっていいわ。この子達との平穏が続けばそれでいい」


 「愚かな。その愚かさもまた愛おしいものでもあるな。よかろう、汝らの平穏とやらをその手で為してみせよ。我が力を、我が加護を、存分に振るうがいい」


 「そんなことより、グレンはどうなっているの? 無事なのよね!?」


 「無論。現界の所有権を剣を通し、一時的に譲り受けている。生命に害はない」


 グレンが一応無事であることを知り胸を撫で下ろす。だが、イルザはこの妖精の神を名乗る高圧的な存在を好きになれそうになかった。


 そして妖精神(フィーディア)はイルザの後ろで小さく怯える青の少女、スミレに目をやる。


 「月女神(ユエディア)の子か。己が欲に溺れし憐れな魔の子。だが、好都合。我が庇護下に在ればその力に蝕まれる事は無かろう」


 憐れ? その言葉に苛立ちを覚えたイルザだったが、気になる台詞が出てきたので感情を飲み込み、大切な情報を聞き出す。


 「この子の主だった魔族は神界器(デュ・レザムス)に操られていたみたいだけど、あれは何? 神界器(デュ・レザムス)は魔族を化け物にでも変えるつもりなの?」


 「神界器(デュ・レザムス)とは主の感情を糧とし成長する器。負の感情が昂ればそれもまた力となり、宿りし我ら神が肉体を蝕もう。安心せよ、我は汝を認め、力を授けた。神蝕(しんしょく)は起こるまい。だが、月女神(ユエディア)の力を振るおうならば、精神は常平常を保て。それは他の神界器(デュ・レザムス)も同じこと」


 「つまり、“妖精の輝剣(アロンダイト)”は私を蝕まないけど他の使い手は蝕まれることがあるかもしれないということなのね」


 「然り。我が力を振る魔の子よ。己が平穏を守りたいのであらば、他の神界器(デュ・レザムス)をより多く手にせよ。我は常、汝ら・・・見・・・」


 妖精神(フィーディア)の姿が霞み、言葉が掠れる。やがて蒼白の光に包まれ、妖精神(フィーディア)の姿は消えていた。


 「・・・? 俺は、いったい」


 剣が消え、座り込んだ状態で目を覚ましたグレンは記憶の欠如に違和感を覚える。放心状態となっている彼の元にイルザ達が駆け寄る。


 「グレン! 体は平気?」


 「あ、ああ。ちょっと混乱してるが問題ない。一体何があったんだ?」


 「詳しいことは家に帰ってから話すわ。とりあえず今はここを出ましょう」


 「お、おう・・・」


 橙色だった空は宵闇に染まりつつある。夜の森は魔獣が活性化し、危険度が上昇する。


 イルザは妖精神との会話を頭の中で整理しながら、祭壇を出たのであった。



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