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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第八話 新たな足音
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力の欠片


 昼食を終え作業を再開してから数時間後、青色の空は橙色に染まり始めていた。閲覧テーブルの周りは大量の書物が積み重なったり、散らばったりしていた。


 「最初に持ってきたもの以外は大した情報なかったわね」


 「・・・資料の大半がブランの能力開発関連だから仕方がない」


 大きく伸びをするダークエルフの姉妹はくたびれた声で愚痴と言い訳をこぼす。


 神界噐(デュ・レザムス)に関する資料はほとんど無かった。スミレとブランが出会った時期を考えると実験する時間が無かったのだろう。そう思うようにした。


 「とりあえず引き上げましょうか。最初の三冊は貰って帰りましょう、他の魔族に神界噐(デュ・レザムス)の存在を無駄に知らせることを防ぎたいし」


 「ああ、その方がいいな、俺たちの危険も少なからず減るだろうよ。よし、パパっと片付けて"躍進する者(エボブラー)"だったか? そいつの適正判断やってみようぜ!」


 「随分と活き活きしてるじゃない。この疲労感をあんたの心臓に直接ねじ込んでやりたいわ・・・」


 「おお、おっかねぇおっかねぇ。なんせ、文字も読めねぇからやること無かったからな。許してくれ」


 グレンはケケケと意地悪そうに笑って返した。有り余った体力でテキパキと一人で片付けを始めたグレンのおかけで、あっという間に資料室は片付いた。


 テーブルに頭を伏せているイルザ、壁際で気持ち良さそうに眠っているスミレ、そのスミレの頬をぷにぷにと摘んだりつついているエルザ。


 「おーいエルザ、そろそろ起こしてやれー。イルザもさっさと用意しろー。」


 珍しく場を取仕切るグレンの掛け声で姉としての威厳に火がついたイルザは素早く立ち上がる。


 エルザもスミレの頬遊びをやめて何故か眠っているスミレをお姫様抱っこをした。


 「おいエルザ、お前は何をしてるんだ?」


 「・・・?」


 「そのお姫様抱っこをして何か? みたいな表情をやめろ。俺は起こしてやれと言ったはずなんだが」


 「・・・寝顔が可愛いから起こす必要は無い。可愛いは正義」


 「ならせめて、おんぶにしてやれよ。それだと家までもたないだろ」


 「・・・顔が見えないから断る」


 「あのなぁ・・・」


 グレンとエルザのやり取りのせいか、眠っていたスミレが目を覚ました。


 「私眠ってたです・・・か、えっ、え!? どうして抱っこされてるですか? エルザさん、下ろしてくだ・・・ひゃあっ!」


 意識の戻りたての体に不可解な出来事が起きれば、無意識にじたばたしてしまうのは当たり前で。その結果、スミレはエルザの腕から零れるように地面に落ちた。


 「なにやってんのよあんた達は。ほらスミレ、大丈夫?」


 帰り支度を終えたイルザは倒れ込んでいるスミレに手を差し出して起き上がらせた。


 「ありがとうございますです。もう、資料はいいのですか?」


 「ええ、役立ちそうなのはもう無さそうだから必要な資料だけ持って帰るの。それと帰るついでに今から実験ね。外に移動しましょうか」


 「さてさて、イルザとエルザはどういう結果になるかな?」


 グレンは楽しげに外へ真っ先に出ていった。それに続くように残された三人は部屋を出る。


 「・・・なんか楽しそう」


 「意外と占いの類が好きなのかもね」





 「確か、木の葉で出来るんだったよな? どっちからやる?」


 グレンは適当な葉を手に取り、イルザとエルザに一枚ずつ渡す。


 「・・・私からやってみる。姉さんは資料をみて適性を判断して」


 「ええわかったわ」

 

 エルザは両手に木の葉を乗せ、全身を集中させて魔力を注ぎ込む。膨大な魔力を注ぎ込まれた葉は青紫色の魔力に包まれる。


 「凄まじい力を感じるです」


 建物を半壊させる程の魔力量の持ち主。万全の状態のエルザの魔術行使をまともに目にしたのは初めてのスミレは、ブラン以上の魔力の質に息を吞む。


 エルザの魔力の高まりが最高潮に達した瞬間、木の葉に変化が起こった。葉柄の切れ目から蔓が再生し、延びた蔓から新たに葉を次々と茂らせる。一枚だけだった葉の数は、倍の数に増えていた。


 「すっげーな・・・」


 「神秘的・・・です」


 「・・・姉さん、どう?」


 「典型的な創術型ね。そういえば、ブランと戦った時に幻獣召喚・・・だっけ? に成功していたけど、もしかして既に“躍進する者(エボブラー)”の能力を得ていたの?」


 「・・・あの時は無我夢中だったから出来ただけ。同じことをもう一度って言われると出来る自信ない」


 変化した葉を受け取ったグレンとスミレはどうなっているんだ、とまじまじと観察している。それをよそにダークエルフの姉妹は考察を続ける。


 「無意識的に使用していたのなら再現は難しいわね・・・。エルザは六属性の魔術はどの程度扱えるようになったの?」


 「・・・闇属性と光属性以外は最上位魔術まで使える。だから条件まではあと少し」


 「我が妹ながらそこまで魔術を習得していたなんて驚きだわ・・・。土壇場で幻獣召喚を行ったのも納得がいくわ」


 今までの生活の中では中級魔術を使用できれば問題は無かった。つまり、わざわざ苦労してまで最上位魔術を習得する必要はないのである。実際イルザは、得意の火・風属性の中級魔術とその他初級魔術しか習得していない。


 「次はイルザの番だろ? やってみせてくれよ!」


 手に持っていた蔦をスミレの頭に巻きつけながらグレンはイルザに急かすように野次を飛ばす。


 「見世物じゃないっての、まったく」


 イルザは妹のエルザより魔術に関してはあまり得意ではない。それを自覚しているので、魔術行使を人前でするのは少しだけ恥ずかしかったりする。


 だが、強くなるためには必要なことなので余計なプライドもとい、見栄は捨てることにした。


 大きく息を吸って身体を巡る魔力を集中させる。体内で練り上げた魔力の波を捉えて、最も大きくなる瞬間を狙い、手のひらにある木の葉へ注ぎ込む。


 「え?」


 魔力を注ぎ込んだ葉は中央の葉脈に沿って、真っ二つに切り裂かれていた。いや、切り裂くというよりは引き離されたようにも見えた。


 「変な裂き方をしたな・・・」


 「エルザ、今ので当てはまる型はある?」


 イルザが資料に目を通した時は、葉を裂くという事例は見当たらなかった。念のため、見落としがあるかもしれないのでエルザに該当する型を探してもらう。


 「・・・ないわ。事例が無いということは、異術型なのかも?」


 全員が葉を裂くところを見ているということは幻術型でもない。得意の風属性で裂いたようにも見えなかった。


 「私が異術を・・・」


 「異術を扱う奴って滅多にいないんだろ? すげぇじゃんイルザ!」


 喜ぶべき・・・なのだろうが、イレギュラーな出来事には必ず更なるイレギュラーを引き連れてくる。ただでさえ神界器(デュ・レザムス)などというイレギュラーを抱えている。これ以上の不確定要素は出来るだけ避けたい。


 「イルザさん?」


 スミレが深く考え込んでいるイルザの顔を覗き込んだ。


 「ああ、大丈夫よ。でも、私自身の魔術の習得度はまだまだだから異術型と決めるのは早いかもしれないわ。魔術の修行もやり直さないとね・・・」


 「・・・グレン達はやらないの?」


 「うーん・・・、魔術の使い方なんてわからねぇからなぁ。スミレはどうなんだ?」


 「魔術は使えなくもないですが、イルザさん達のように自在に魔力を扱うのは出来ないです・・・」


 「人間族の魔術行使はブランの資料にある通り、魔族とは根本的に違うみたいね。まぁ何はともあれ日も沈んできたし、そろそろ家に帰りましょうか」


 賛成! と各々が口にする。沈みかけた太陽が橙色を紅蓮に染める。世界が揺れる狭間の時間の中、イルザ達はそれぞれの目標を胸に掲げるのであった。



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