女性は怖い
「あ~満腹満腹。イルザの飯、久々に食った気分だぜ」
朝食のメニューは香味野菜のうま味がたっぷり入った具沢山スープと、シロップ漬けしてあるオグリの実のパイだった。疲労回復をメインに考えてある献立で食べるだけで力が湧いてきた。
食事を取りながら、戦いの顛末をイルザから話してもらった。ブランは死んでしまい、スミレは落ち込んでいると思っていたが、どこか吹っ切れたようで年相応の少女らしい明るい笑顔を見せていた。
「・・・姉さん、今日はどうする? 家の補修?」
エルザの皿に山盛りだったパイは誰よりも早く空っぽにした。頬をリスの様に膨らまして最後の一口を更に放り込んだ。
「話すときは食べ終わってからにしなさい。」
やれやれと、姉としてきっちりエルザを注意してからオホンと咳払いをする。空気が引き締まり、真面目な雰囲気に変わる。
「ブランとの戦いで思ったのだけれど、私達は神界器についてあまりにも知らなさすぎるわ。もっと調べる必要があると思うの」
「・・・確かに。ブランの暴走、あれは故意で起こしたものとは考えられない。このまま姉さんが妖精の輝剣を使い続けるのは危険だと思う」
暴走・・・。まるで神界器に操られているような様相だった。妖精の輝剣に固執しているようでもあった。
四人はしばらく黙り込む。イルザも同じく暴走してしまうのでは、と想像してしまった。
「あの・・・」
スミレが小さな声で沈黙を破る。
「第一研究所・・・に研究資料がたくさん残ってると思うです。暴走の原因までは分からないと思うですが、何か手掛かりがあるかもしれないです」
「うん、いい案だな。でも大丈夫なのか? 建物の半分はエルザがぶっ壊したんだろ? 資料も灰になってるんじゃねぇか?」
エルザがムッとした表情をみせたがグレンはわざと目を逸らした。
「え、ええと、大丈夫です。エルザさんが破壊したのは主に実験室なので、資料の保管室はギリギリ残っているです」
「ギリギリ・・・。ま、まぁ残っているならとてもいい案だと思うわ。今日は研究所へ行きましょう」
エルザはどこか不機嫌そうだったが、研究所へ行くことには賛成した。
食卓を片付けに入ろうとした時、グレンが何か思い出したかのようにイルザに問いかけた。
「そういえば、キッチンに入ったとき少し焦げ臭かったけど、珍しく料理に失敗したのか? 今も若干匂いが残ってるが、イルザが失敗だなんて珍しいもんだな!」
愉快に笑い飛ばしながら、イルザの肩を叩くグレン。
「・・・? 焦がしたりなんてしてないわよ? でも、言われてみると若干匂いが・・・」
突然イルザが固まったと思えば、自分の体を嗅ぎ出した。その様子を見ていたエルザとスミレも同じように自身の匂いを嗅ぐ。
女性三人が必死に自分の体の匂いを嗅ぐ異様な光景に引き気味のグレン。
「お、おい・・・」
「・・・グレン、女性は清く、美しくないといけないことを千の言葉、いえ、万の言葉で教えてあげたいところだけれど今はそれどころじゃないわ」
珍しくエルザが饒舌になっている。事態は一刻を争うのか、とグレンに緊張が走る。
「行くわよ! エルザ、スミレ!」
「・・・うん!」
「はいです!」
鬼気迫る表情で二人を呼ぶイルザ。三人は嵐の如く浴室へ走っていった。
「あー・・・、食器の片付け・・・」
残されたグレンは仕方なく一人で全員の食事を終えた食器を片付けた。おそらく昨晩は風呂に入らずそのままベッドに入ったのだろう。焦げ臭いのも戦いで焼けた布や髪のせい。女性の美に対する執念の恐ろしさの片鱗を見たのであった。




