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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第七話 神月は輝き
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小さな勇気


 「到着したです。この中に主様が待っているです」


 第二研究所最奥に辿り着いたイルザ達。目の前には身の丈より二回りほど大きな純白の扉がそびえ立つ。今にも邪悪な魔力が飛び出さんとする、禍々しい気配を扉の奥から感じる。


 イルザは扉に手を掛ける。その手はあまりの禍々しい気配に震えていた。


 「・・・姉さん」


 震えている手を重ねた。恐怖心を抱いているのはエルザも同じらしく、小さく震えている。


 「大丈夫、どんな困難も二人で乗り越えてきた。今はグレンもスミレもいる・・・。行くわよ!」


 大きく息を吸い、純白の扉を押し開ける。


 「ようこそ、私の第二研究所へ」


 大地が唸るような低い声が大広間ともいえる真白な空間に響き渡る。何もない寂寥とした部屋には、椅子に座っている声の主ブランとイルザ一行のみ。


 「ブラン・・・っ!」


 余裕を見せるブランに対して警戒態勢に入るイルザ。


 「まったく君たちには驚いたよ。私の自信作であるガルビーストを倒してしまうのだから。ああ、体の芯からゾクゾクするだろ? それに妹君の幻獣召喚も素晴らしい。その若さで幻獣を、しかも属性強化の状態で召喚してしまうのだから本当に素晴らしい、はああ、あの時は軽くイきかけたよ」


 ブランは椅子から立ち上がりながら、独り言のように熱弁する。仕掛けてくる気配は一切無いが、突き刺すような殺気は次第に大きくなっていく。


 「ああ、あまつさえ、私の、私の! スミレを、スミレを奪った! 返せ、返すのだ、私の愛おしいスミレを!」


 鋭い眼光と殺気がイルザに向けられる。今まで感じたことのない、心臓を直接つかまれているような恐ろしい感覚だった。


 「主様!」


 スミレはイルザの一歩前に出て声を張り上げた。


 「おお、スミレ。さぁ私の元へ戻ってきなさい。私の愛の実現の為に共に歩もう」


 ブランはスミレに向けて手を差し伸べる。そう見せかけて“隷属の鍵エスクラブ・オブ・キー”を矢にして、“極光の月弓(アルテミス)”で放った。


 矢は正確にスミレの喉元を狙い一直線に軌道を描く。ブランは再び隷属化を試みていた。しかし、その企みも一瞬のうちに砕かれる。


 スミレの目の前で光が弾けた。


 ブランの矢をグレンが投擲した短剣型の“妖精の輝剣(アロンダイト)”が撃ち落としたのである。


 「殺気が収まったからって油断してんじゃねえぞ。危ない危ない」


 イルザは決して気を緩めていた訳ではなかった。突然消えた殺気に驚いた隙を突かれたのである。それに対してグレンは、相手の気配より挙動を重点的に観察し、予測していた。相手の一手先を読むことに長けていた罠師であるグレンだからこそ、ブランの不意打ちを防ぐことが出来た。


 「今のを防ぐか、これは一本取られた」


 静かに笑うブラン。


 「やはり主様は私を拘束するのですね・・・。どうして、私を正面から見てくれないのです? どうして、私から逃げようとするのです?」


 思いの丈をブランにぶつける。初めて自分の意思で思いを告げたスミレは震えていた。それでも、大地を踏みしめて恐怖心と戦う。


 「逃げる・・・だと? 私は誰からも逃げてはいまい。追いかけてるのさ! 今だ手にしたことのない愛を求めてね。その為には君が、スミレが必要なのさ、わかるだろ?」


 「・・・まるで話が通じていない」


 「ええ、どうやら会話のキャッチボールを知らないみたいね」


 姉妹は再び武器を構える。これ以上の会話は無駄だと判断した。


 「戦いは苦手なんだがね、これも仕方あるまい。力尽くでもスミレを返してもらおうか」


 するとブランは“極光の月弓(アルテミス)”を上に構えて魔力の矢を射た。


 「くるぞ!」


 「・・・私に任せて。“守護方陣”!」


 頭上で矢が弾け、無数の雨のように矢が降り注ぐ。


 「主様・・・」


 エルザの守護方陣による防御結界は降り注ぐ矢を傘の様に防いだ。その中でスミレは、どこか虚し気にブランを見つめていた。



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