エントランスホールの攻防
“極光の月弓”から放たれる一筋の光の矢は、ガルビーストの心臓めがけて飛んでいく。
しかし、その矢はガルビーストの腕の一振りで掻き消されてしまった。
ガルビーストの攻撃に体勢を整えることに精一杯だったイルザ、エルザ、グレンはそれぞれ動き出す。
「エルザ、お前は下がって防御に徹してろ。ここで魔力を消費するのはもったいないから、俺とイルザで何とかする」
「・・・わかった。もし危なくなったら私も戦うから、無事に倒してね」
「ああ! 任せろ!」
グレンは“妖精の輝剣”を逆手に持ち、ガルビーストの元へ走り出した。
(弱点は心臓。だが、位置が高すぎるな。・・・体勢を崩すために脚を狙うか)
「イルザさん、少しの間時間を稼いて貰っていいです? ガルビーストの倒し方は私がよく知っているですので」
「わかったわ。スミレを信じる。グレンも動き出したみたいだし、やってみるわ」
イルザも“妖精の輝剣”をしっかりと握り直す。
「準備が完了したら合図をするので、私の所へ戻ってきてくださいです」
「ええ、だけど私も倒すつもりで戦うから競争ね!」
イルザはウインクを送り、走り出す。イルザの言葉に驚いたスミレはきょとんとしていたが、すぐに我に戻りガルビーストを倒すための仕掛けを組み始めた。
「イルザ! 脚を狙って体勢を崩すぞ!」
「ええ! スミレに考えがあるみたいだから二人で時間を稼ぐわよ!」
左右両方向からガルビーストの脚を二人同時に斬りつけた。
(なんて硬さなの!? まるで岩みたい)
イルザとグレンが斬りつけた部分はとても浅く、ガルビーストの表面の皮膚を傷つけた程度だった。
変貌を遂げたばかりのガルビーストの動きはまだ鈍かったが、足元で小突いてくる何かに気がついた。
うろちょろする虫を振り払うのと同じように、ガルビーストは両の拳に魔力を込めて、怒涛の連撃を地面へと繰り出した。
「きゃぁぁっ!」
「っぐ!」
直撃はしなかったものの、地面への衝撃で二人は吹き飛ばされてしまった。
「なんつー力してんだ、あの化け物。地面が穴だらけじゃねぇか」
ガルビーストの足元は数々のクレーターが出来上がっていた。直撃していたと思うと冷や汗が垂れる。
そして、ようやく自身が倒すべき獲物を察知したガルビーストは戦闘態勢に入り、相手に休む暇を与えない。
初めに狙った獲物はイルザだった。ガルビーストは地面を強く蹴り、巨体に似合わぬ速さで吹き飛ばしたイルザに突撃する。
「イルザ! 来るぞ!」
拳による衝撃をグレンよりも強く受けていたイルザは態勢を元に戻すのに時間がかかっていた。
「っ! 早い!?」
ガルビーストはもう目の前まで迫っていた。イルザに残された選択肢は剣で受け止めることだけだった。
拳を振り上げ、突進のスピードを乗せた打撃をイルザに向けて振りかざした。
イルザは腰を落とし、両手で剣を支えて打撃を受け止めた。圧倒的質量を誇るガルビーストの打撃は凄まじい威力のはずだった。
「攻撃が軽い?」
吹き飛ばされるのを覚悟で受け止めた拳は弱かった。
「間一髪・・・間に合ったな!」
グレンの“妖精の輝剣”は連結刃へと変形しており、ガルビーストの腕や脚など、関節を固めるように巻き付いていた。
「ありがとうグレン! 反撃するわよ!」
イルザは受け止めた腕へ飛び乗り、腕をつたって胸部へ近づく。大きく跳躍し、ガルビーストの弱点である心臓部へ剣を突き刺した。
「ブラスト!」
巨体から飛び降り、着地と同時に剣に爆裂魔法をかけ、心臓部を爆破した。
「やった! さすがイルザだぜ」
喜んだのも束の間。エントランスホールに雄叫びが響き渡る。
「確実に仕留めたはずなのにまだ生きてるの⁉」
爆破による土煙から姿を現した胸部に傷は無く、青黒い結晶が剣を突き刺した部分に浮き上がっていた。
「なるほど、硬いだけじゃなく、再生能力も最強レベルってことか」
グレンから乾いた笑いが漏れた。
連結刃が強く引っ張られ始めた。
「嘘だろ!? 間接に巻き付けて動けないはずなのに・・・クソっ!」
ガルビーストの拘束を仕方なく解いた。このまま拘束し続けていれば、相手の懐まで引っ張られていただろう。
「やっぱり、スミレに頼るしかなさそうね・・・」
体力の消耗を抑えつつ戦うにはそれしか方法がないと悟ったイルザとグレン。攻めの態勢から守りの態勢へと移る。




