愛憎
「くそっ! くそっ! うおおおおおあああああ! 何故だ! 何故解けた!? 私の“隷属の鍵”は完璧なはずッ! 私のスミレに何をした!?」
“極光の月弓”で自らを射出し、館から東にひっそりと建つ第二研究所へ逃げ込んだブラン。
予想外の出来事、スミレの能力解除が理解できず怒りを露わにする。
破綻
ブランは察していた。“隷属の鍵”無しでは心を繋ぎ留めておくことができない。主従関係ではあるものの、それは形式上のものでしかなかった。
恐れ
ブランは恐れていた。初めて出会った時からスミレの存在を恐れた。愛に飢え、愛を求め続ける彼はいつしか他の存在を恐れるようになった。
誰も愛してくれない。
ああ、きっとこの少女も愛してくれないのだろう。
だけど愛を知りたい。神界器を得た先にある愛を。それを得るチャンスは目の前にある。
ならば
神界器がすべて集まるまで少女に鍵をかけよう。インキュバスとしての魅了を昇華させた能力である“隷属の鍵”で。
「どうする、どうする。退くか? いや、スミレを取り戻さねば意味がない。あの電撃娘は魔力が尽きただろうが、“妖精の輝剣”の持ち主と従者が揃ってしまった。勝ち目はあるのか奥の手はまだあるが・・・」
研究室の中をうろうろしながら独り言を呟く。傍らで隷属化され檻に閉じ込められている様々な魔族や魔獣が唸り声をあげている。
「持ち駒を全て費やす覚悟で挑まねばならぬか・・・。ははは・・・! いいね、この緊張感! いきり立つッ!」
きっと自我を取り戻したスミレは裏切るだろう。初対面で心を奪ったのだ、当然のことだろう。となれば・・・。
「再び心を奪うまでだ。単純明快だろう?」
自我を失い、ただ唸るだけの奴隷と怒りと恐怖で混沌としている自分にそう言い聞かせた。




