首の紙
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エルザ、アウラ、コルテの三人はスミレをジュデッカの工作員に引き渡す為、施療院へと向かっていた。
自我を失い、神界器を所有するアウラとコルテを狙うラ・ヴィレスの民を制圧しつつ、なんとか施療員前まで辿り着いた。
「まったく…面倒くさいくらい数が多いっスね! 無駄にタフなのが余計にムカつくっス!」
金髪の美少女—、美少年のアウラは襲ってきた暴徒の顎に強烈な回し蹴りを入れて沈黙させた。
アウラは細身の割にずっしりと重い攻撃を確実に当てている。それも神界器無しでだ。
道中の殆どはアウラが倒したようなもので、人間の身でありながら魔族に引けを取らない強さを発揮している。きっと、ヴェンデの元でみっちりと鍛え上げられたのだろう。
エルザはアウラの戦いぶりに感心していた。
「…待って、静かすぎる」
ひっきりなしに暴徒が襲ってきた道中と違い、施療院の周囲は誰一人見当たらない。
杖を振り、エルザは索敵方陣を広域に展開した。
魔力の波を円周上に飛ばし、見えない位置に隠れている敵の魔力を感知する。エルザの両手には自分を中心とした魔法陣が展開される。探知にかかった魔力は点として示される。索敵方陣に反応した魔力の数は、味方を引いて———、約二十。
「…待ち伏せされているわ。知性なんて無くなっていると思ったのだけれど意外だわ」
「敵は暴徒だけじゃないってことっスよ」
「…この国の支配権目当て? そんな情報を鵜呑みにするなんてバカとしか言えないわ」
「まぁまぁ、この国も結構ギリギリだったってことっスよ。てなわけでコルテ、フラッシュ・バンが込められた魔法石を三つ寄越すっスよ」
「わかった」
コルテは宙に描いた魔法陣に腕を入れて魔法石を取り出した。
フラッシュ・バン———光属性中級魔術であるそれは、発動すると耳を裂くような爆音と眩い閃光で相手の聴覚と視覚を狂わせる魔術である。
「エルザさん、隠れている大体の位置を教えてほしいっス。こいつを投げ入れてやるっスよ」
アウラは悪戯な笑みを浮かべる。
「…ん、倉庫裏に六人、窓裏に四人、あそこの茂みの陰に五人、残りは施療院の中」
「なるほど、ならちょうど外のやつらは魔法石で片付くっスね。コルテ、エルザさん! 耳塞いで目閉じといてくださいっスよ!」
アウラはエルザが指定した場所に向かって勢いよく魔法石を投げ入れた。
一箇所目は魔法石を投げ入れられたことに気づかずそのまま沈黙。二箇所目と三箇所目は、投げ入れられたと同時にパニックが起こったが成す術なく同様に沈黙。
「うまくいったみたいっスね〜」
手際良く順調に敵を排除していく。残すは施療院の中、この調子であれば難なくスミレを引き渡すことができるだろう。
「…スミレが連れていかれる前に急ぎましょう」
「カチコミっスね! おりゃあー!」
アウラは勢いよく施療院の扉を蹴破る。可愛らしい顔をしている割に意外と破天荒な性格をしているのかもしれない。
エルザは再び索敵方陣を展開する。敵は二手に分かれてスミレを探しているようだった。
「…スミレの場所を探しているわ。先に回り込んで迎撃しましょう」
エルザたちは施療院の階段を駆け上がり、二回のスミレの病室へ向かう。敵は一階で病室を一つ一つ虱潰しで捜索しているので見つかるまでまだ余裕がある。
「…よかった。なんとか無事みたい」
「ういうい! それじゃあボクは廊下で迎撃の準備でもしておくっスね」
『ガハハっ! なーにが迎撃だぁあ?』
甲高い男の声が病室内で響く。
『テメェらのおかげで使える人形がめっさり減っちまったじゃあねぇかよ。だが、俺様の能力”義体軍隊”は既にテメェらを取り囲んでるぜぇ!」
「…索敵方陣にかからなかった!?」
魔力はどんな生物でも僅かながらに体内に保有している。エルザの索敵方陣は精度を上げれば虫一匹まで探知する。だが、エルザの魔術ではスミレの病室にそれらしい気配はない。
「敵襲、多勢」
「どう数えても五人以上湧いてるんっスが! が!」
狭い通路には大勢の魔族が押し寄せていた。中には道中、アウラが倒した者も混じっており、自我どころか意識すらない。意識は無いが意思を感じさせるそれは操り人形のようだった。
「ぐええ…ますます気持ち悪いっスよ、ゾンビみたいっスよ!」
「…仕方がないわ、私が道を開くからアウラはスミレをお願い」
エルザの言葉に従いアウラはスミレを背負う。そして、エルザの周囲の魔力が激しくざわめきはじめた。
「―泥を洗う運河、岩を削る水流」
魔術における詠唱は効果の増幅。言葉にし、耳で聞き取ることで己が想像する魔術行使の結果はより強固なモノへ。
―――だが、
『ハハハハハっ! 魔術なんて使わせるかよぉ! 捕らえろ! 義体共ッ!』
何十という人々が雪崩のようにエルザたちへ襲い掛かる。
コルテは先頭の何人かの足を拘束し動きを封じたが、誰が倒れても構い無しに踏みつけて、後列の魔族は前へ前へと押し寄せる。
「駄目、足止め、出来ない」
「―荒れ狂う水塊」
詠唱が完結するまであと一節、だが義体と呼ばれる魔族たちの手は目前まで迫る。
「わわわ! もうだめっス!」
『幽玄の鎖檻!』
義体の動きは止まる。
複数の闇色の鎖が義体の関節に絡まり、義体の身体に食い込んでいた。
『俺様の義体共が!? なんだこの鎖は!?』
甲高い男の声は慌てふためく。
「浄化せよ、蒼き猛威! ”アクア・レイジングストーム”!!」
エルザの詠唱が完了とすると共に巨大な魔法陣が浮かぶ。
全てを押し流す水は義体を全てのみこみ、施療院の外へ強制的に吐き出した。
水属性最上位魔術―アクア・レイジングストームは対象を水の球体の中へ閉じ込め、更にその中で激流で打撃にも似たダメージを与える魔術。呼吸できない苦しみと縦横無尽に行きかう激流によって、並みの魔族では数日間再起不能になる。
『クソったれがぁっ! 俺様の義体が無くなっちまったじゃぁねぇか! こうなったら見つかる前に撤退―――」
「へぇ? ほぉ? 逃げるってんなら、とっとと逃げな。ま、逃げられるなら、のハナシだがなぁ?」
病室の窓枠に二つの影。赤髪のリーゼントの青年と黒髪の三白眼の少年。
「バジルさんとラウドさんじゃないっスか!」
鎖鎌の神界器、”幽玄の裂鎌”を携えてバジルはニカっと笑う。
「よっ! 首の紙一枚繋がった感じか? 遅くなっちまってわりぃな」
「首の皮だ、ド低能め」
「んだとてめー! 紙も皮も似たようなもんじゃねぇか!」
「ふん…」
登場するや否やいきなり口喧嘩を始めるバジルとラウド。二人はイルザが大会への参加を止めると聞いてからは、正式参加するために別行動を取っていた。
「…どうしてあなた達がここへ?」
バジル達の口論に割って入って疑問を投げる。
「ああそうだ、そんなことは後だ後! 今はこいつから聞き出すのが先決だぜ」
よっ、という掛け声と同時に”幽玄の裂鎌”の鎖を引っ張る。
エルザは魔術行使直前に義体の動きを止めたのはバジルの”幽玄の裂鎌”による能力だと、闇色に輝く鎖をみて気がつく。
そして、引っ張られた闇色の鎖は天井へと延び、金属音と共に鎖は真っ直ぐに張り詰めた。バジルが力いっぱい鎖を引くと、天井から木の板を突き破る音が何度か聞こえたのち、目の前にどさりと鈍い音をたてて落ちてきた。
「んんーーーーっ!! んーーッ!!!!」
鎖に繋がれていたのは、緑肌の単眼魔だった。全身が鎖に巻き付かれ、猿ぐつわとしても鎖が使われている。
「ラウド、後は任せたぜ」
ラウドは鋭く目を光らせ、「ああ」と短く言葉を返し、単眼魔を肩に担いで別室へ連れて行った。
「…アレをどうするの?」
「なに、あいつは聞き上手だからよ。ちょっとばかし座談会を開いてんのさ」
ああ、なるほど。それはいわゆる尋問というやつか、とエルザは心の中で納得した。お気の毒に。
「それで、バジルさん達はなーんでここに来たんスかね? ま、大体想像はつくっスけど!」
「昨晩に頼まれたんだよ、ヴェンデの野郎にな。神界器の所有者は必ず追われる。俺達はともかく病院で寝込んでる嬢ちゃんは自分の身を守れねぇ。ってな。似合わねぇ真面目な面しながら金と一緒に寄越してきやがった」
「金銭授受?」
「おーっと誤解しねぇでくれよ? 金は受っちゃぁねぇぜ。無防備な子供を問答無用で傷つけようなんて俺が許さねぇ」
バジルは拳を握り怒りを露わにする。そもそも彼は故郷の恋人の病を治療するための費用を稼ぎに来ているのだ。彼の心は炎のように熱く燃える正義が確かにあった。
「終わったぞ」
静かな冷ややかな声でラウドは病室に現れる。
「おう、早かったな」
「ふん、雑魚ほどよく吠える」
「吠える…って言う割には随分静かだったきがするんスけど…」
どういう風に尋問したかは聞かない方がいいだろう。
ラウドがご丁寧に聞き出した情報によると、単眼魔はロウの部下でスミレを直接誘拐するように命令されたらしい。そしてロウの居場所は城ではなく、闘技塔。
「なるほど、俺は闘技塔にいってロウって野郎をぶっ飛ばしに行くがおめぇらはどうするよ?」
「うーん、たぶんっスが闘技塔は行かなくても大丈夫だと思うっスよ。それよりもバジルさんにはお願いしたいことがあるっス」
アウラは闘技塔を一瞥し、その後イルザ達が向かった城を見る。
(信じてるっスよ、ヴェンデ)




