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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十一話 輝く星の魂
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歪なセカイA


 ラ・ヴィレス魔王国は都市そのものがひとつの国である。区画が整理されているおかげで張り巡らされた水路を辿れば行きたい場所へスムーズに移動できる。もちろん、徒歩ではなく水先案内人が操るゴンドラに乗ればの話である。


 「お客さん視ない顔だね~。もしかして観光デートかい?」


 「なはは~! そうなんっスよ~、せっかくのデートだっていうのにむすっとした顔するなんて酷いっスよね?」


 「バカ野郎! お前は男だろうが!! 周囲に誤解を与えることをいうな?」


 水先案内人のおじさんがアウラの姿をきれいな二度見をして驚愕の表情を浮かべる。見た目こそはつり目の整った顔立ちをした美少女なので女と間違えるのは仕方がない。髪も黄金色で艶やか、肌も色白く本当に女であれば文句の出ようがない。厄介なのはアウラ自身がそれを自覚して男でありながら少女趣味に全力疾走していることだ。 


 「おじさん驚いたな~、本当に男の子なのかい?」


 「残念ながら男っスよ~。 あ、この辺で降ろしてもらっていいっスか?」


 グレンとアウラは水路の船着き場に降り立ち、水先案内人のおじさんに運賃を手渡す。よい一日を~、と挨拶を残して船着き場から去ったのを確認して目的地へと向かう。


 国立中央図書館。


 調べものがあるから着いて来て欲しいとアウラに頼まれ来たのはいいものの、どうも街を歩くのは落ち着かない。


 街路地は地元の住民で賑わっている。その街並みの風景は北国ジュデッカでも見られたので別段違和感は無いが、路地裏へ一歩入ると魂を抜かれたように虚空を眺める小汚い服装をした者や、酒に溺れて酩酊している者、弱者を連れ込んで金品を強奪している者など治安の質がガラっと変わる。


 「なんかこの国おっかねぇな」


 「そうっスね、一応保安隊もいるみたいっスけど、ほらあれ」


 アウラが目線で指した方向には保安官二人といかにもガラが悪い男が取り調べられていた。


 へへへ、と気味の悪い笑いをするガラの悪い男の手にはこの国の紙幣が数枚。保安官のポケットへ慣れた手つきで忍ばせていた。


 保安官はそれを気に留めることなく書類を手早く書き終え、男を解放した。


 「うげ・・・賄賂じゃねぇか。そりゃ治安も悪いわけだ」


 「この国全体が腐敗してるっぽいっスね。せっかく綺麗な建物が多いのに残念っス」


 「確かに白煉瓦の建物が多くて歴史的って感じがするよな」


 六角形の石で出来た道に白煉瓦の家々。水路の水は澄んでいて、ゴンドラが滑るように街を行き来する。その光景は芸術的と言ってもいいだろう。


 「それはそうと! 今のボクの格好を見て何か感想はないんスか?」


 くるりとステップを踏んでこちらに振り向くアウラ。


 胸のボタンに沿って延びるレースがついた純白のシャツ。柔らかなベージュ色のふんわり感のあるスカート。そして明るい赤色のリボンがついたツバ広帽子。黄金色の髪は降ろしており、その風貌は花畑を優雅に散歩するお嬢様を彷彿とさせる。


 「はいはい、美少女美少女」


 「ダメダメっスね~。可愛いと思ったら素直に褒めないとモテないっスよ」


 「くだらない事言ってないでさっさと行くぞー」


 溜め込んだ息を吐いてさっさと図書館へ向かおうとすると、アウラはムッとした表情を浮かべ。


 「くだります〜! ったく、可愛くない人っスね!」


 なんて言葉をぶつけてきた。なんなんだくだりますって。






 

 国立中央図書館はとにかくでかい。石造りの建物に、入口は二体の石像によるアーチが掛かっていた。グレンとアウラはその壮大な外観に目を奪われていた。


 「こんだけでけぇと本の量も多そうだな」


 「なんでも、古書の保管倉庫も兼ねているらしいっスよ? 図書館へ乗り込む前に、あそこのカフェで軽く食事なんてどうすか? お腹がペコペコのペコなんで栄養と糖分欲してるんスよ〜」


 ぐいぐいと抱きついてカフェの方向へと押し進めようとするアウラ。アウラからいい匂いがして、変な気分になるからやめてほしい。こいつ男だから。


 「わかった、わかったってば! 抱きつくな気持ち悪いな!」


 アウラを引き剥がしカフェのテラス席へと座った。テーブルに置かれたメニューから柑橘のジュースとサンドイッチをチョイス。店員に注文を通し終えて一息ついた。


 「聞きそびれてたが図書館に何を調べに行くんだ?」


 「ん~、ちょっと思うところがあってっスね。二つほど気になることを調べられたらな~と」


 「それは?」


 「一つはボク達が召喚された意味っスね。北の魔王さんの話を聞いてから妙な違和感を感じるんス。神界器(デュ・レザムス)はこの星の神を信仰している神子の魂を贄にして外の神を封印した。そうなると今現時点で召喚されたボク達人間はその神子の魂から生まれたようなものじゃないっスか。確かに、召喚されている人間は少年少女なんで辻褄は会ってるっス。だけど肝心の記憶の部分が曖昧なのは何故なのか。ボクは召喚される前の記憶は意図的に植え付けられた偽の記憶だと睨んでるっス。何故なら神子とは全く縁がない農家の子供だったという朧げな記憶。神界器(デュ・レザムス)の人間を召喚する機能が意味するものがなんなのか、とりあえず神学とかそのあたりを探ってみようと考えているっスよ」


 アウラが話し終えたと同時に注文していた食事が運ばれてきた。アウラが注文していたのは蜂蜜がたっぷりかかったパンケーキだった。ナイフで一口大に切り分け、クリームをたっぷりのせて美味しそうに頬張っている。


 「なんつーか、その、意外だったわ。結構難しいこと考えてんだな」


 ローストされた鶏肉と野菜のサンドイッチを口に運ぶ。野菜が新鮮でシャキッといい音が鳴る。


 アウラの言うことはもっともだ。グレン自身の記憶も、山で狩りを生業として生活していたというただそれだけの曖昧な記憶。だが、身に付けている罠に関する技術は実際狩猟に役立つものばかりだ。神子の"み"の字も縁もゆかりも無い。


 スミレの記憶はどうだろうか?


 詳しくは聞けなかったが、召喚される前は巫女のようなことをしていたと言っていた。曖昧ではあるが神に仕える者ではある。このちぐはぐとした感じが違和感をより一層強めている気がした。


 「コルテの記憶はどうだったんだ?」


 「それがこっちに召喚されて酷い目にあったせいか記憶そのものが欠如してるんスよね。ちょっぴり話し方がぎこちないっしょ? 実は心と身体にでっかいダメージ受けたせいなんスよ」


 「何があったかあえて伏せるということは聞かねぇ方がいいってことだな。でもまぁ、アウラの疑問もわかるっちゃあわかるな。そもそも俺ら人間より魔族の方が強えんだから、召喚主を守るために召喚されること自体が矛盾してるしな」


 「そう! まさにそれなんっスよ! ヴェンデに魔力が扱えるようにしてもらったやつ憶えてるっすか?」


 アウラはフォークをグレンの方に向けて話していたので、人に向けるのはやめろと注意して手を下ろさせた。


 「ヴェンデの魔力を注いで魔力に慣れるようにしたやつだろ? それがどうしたよ」


 「実はアレ、偶然の産物なんスよ。ああ見えてヴェンデは天才肌だから、細かい理論はわからん!って後から聞いてわかったんスけどね。まあそれは置いといて」


 いや、置いといていい話題なのか? 確証を得ていないことを知らずにやらされていた身にもなってほしい。と言うのはグッと堪えた。


 「こんな簡単にできないことが出来るように順応できるっていうのも変だと思わないっスか? ボクは本当に人間なのか分からなくなってるんスよ。人間を名乗るにはあまりにも歪な存在で怖いっス」


 「確かに俺達は歪な存在だ。でもそこまで気負うことは無いと思うぜ。魔力を扱えようが扱えなかろうが、人間だろうがそうじゃなかろうが、アウラはアウラ、俺は俺だ。真実がどうであれ今目にしていることや感じているのは俺であることに変わりはねぇよ」


 アウラの動きが一瞬だけ固まり、小さく笑みをこぼした。その笑みは凍っていたものがゆっくりと溶けたようにどこか安心した表情だった。


 「グレンさんこそ似合わない台詞で意外な一面があるんっスね」


 そして意地の悪い笑みを浮かべにししと笑う。


 「るせぇよ。そんで? あともう一つはなんなんだ?」


 アウラに尋ねると、少しだけ気まずそうに目を逸らしたり、言おうか言うまいか少しの間があった。


 「―――えっとっスね。イルザさん・・・というかダークエルフについてっスね」


 「なんでダークエルフが気になるんだ?」


 「こうみえてボクたち結構世界中旅してまわってるんスよ。まぁ、北国だけはヴェンデが寒いのが嫌いなんで行けてないんスが。それでイルザさんとエルザさんに出会ってからふと思ったんスよ。ダークエルフがいる、ということは普通のエルフはいないのか。 って。というか、ダークエルフ自体も今この世界に存在しているのか。旅の中で出会ったダークエルフはイルザさんとエルザさんだけでした。グレンさんはどう思うっスか?」


 突拍子もない話に啞然とした。ダークエルフやエルフが他に存在しない? 確かに思い返してみるとジュデッカでもそれらしき種族は見かけなかった。


 「いや、待て。それこそおかしくないか? 他にダークエルフが存在しねぇならダークエルフってぇ存在自体の認識が出来るわけがない。実際出会ったやつら全員イルザのことをダークエルフって認識していたぞ?」


 「じゃあグレンさん、アレは何に見えるっスか?」


 アウラが指した先には屋根の上でさえずる数羽の小鳥がいた。


 「鳥がどうかしたのか?」


 「つまりそういうことっス。鳥っていう種族で動物っス。みんな当たり前のように理解して認識している。グレンさんはいつから鳥という存在を認識したっすか?」


 そういわれてみると、いつからなのかは分からない。知っていること自体が常識だからだ。鳥の姿をみただけでソレを鳥だと無意識に認識できる。


 「だからって、ダークエルフやエルフの存在がおかしいってことには―――」


 グレンは言葉の途中で気付いた。


 「・・・なんで俺、”エルフ”なんて知ってるんだ?」


 「ようやく気付いたっスね」


 見たことは無いはずなのにイメージが出来る。ダークエルフの褐色と対を成す色白の長耳の姿を。抑えようのない湧いてくるような違和感。知らないことを知っているというのは心地のいいものではなかった。


 「この世界は思っているより歪っス。何かに認識を捻じ曲げられている。そんな感じがするっス。もし仮にエルフという種が存在したなら人間側なのか魔族側なのかも気になる所っスね。あ、このことは他言無用でよろしくっスよ。まだボクの中での仮定のハナシなんで」


 「ああわかった。ヴェンデはどうなんだ? このことについて何か言ってたか?」


 「んにゃ、なーんにも。今は復讐心に燃えてるっスからね。仕方ないっス。さてと! そろそろ本の蛆虫になりにいくとするっスか!」


 最後のパンケーキを一口で詰め込んだ。かなり大きいサイズだったので喉をつまらせるアウラ。


 「一気に詰め込みすぎるなよ・・・。つーか蛆虫ってヤな表現するな」



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