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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十一話 輝く星の魂
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受け入れること


 宿屋での話し合いの後、イルザ達はそれぞれの時間を過ごすことにした。


 グレンとアウラは街を見て回たいと二人で行動している。ヴェンデは確認したいことがあると一人で住宅街へ。イルザはリスティアとスミレの様子を見に行くことにした。


 橙色の光に染まる港町はどこか不安を掻き立てる。白煉瓦の建物に温かな橙に包まれて美しいと感じるはずなのに、スミレのことやこれからのことを考えると落ち着かない。


 「スミレさんの怪我、無事だと良いですね。でもそれよりも意識を取り戻す方が先ですね」


 イルザの隣を歩く雪妖狐族(フェンリル)のリスティア。黒と白の短く切りそろえられた髪は夕日がよく映える。


 「うん・・・。だけどかなり深い傷だったからしばらく目覚めないだろうって。それに後遺症も・・・」


 水路の桟橋を渡る。街のあちこちに張り巡らされた水路はこの土地の住民にとっての道でもある。桟橋の下には木箱を積んだゴンドラを操る住人が鼻歌を歌いながらくぐり抜けようとしている。


 「下半身不随・・・ですね。命あるだけ儲け物とは言いますが、私はそうは思わないですね。あまりにも過酷で、背負うには若すぎる。スミレさんの強い希望だったので今回の任務の同行を許可していましたが、やはり早計でした。過ぎてしまったことを後悔しても仕方がありませんがどうにもやるせない」


 施療院の医師の診断によるとスミレの後遺症は下半身が機能しなくなるとのことだった。


 その診断を耳にしたとき、冷たいものが体を引っ張るような感覚に襲われた。もうスミレは自分の足で歩くことができない。あまりにも突然で唐突で、どうしようもない。


 「スミレが目覚めたら、あの子は自分自身を受け止め切れるかわかりません。だからせめて私だけでも事実を受け入れて、スミレの心を守ってあげないと」


 イルザの胸がチクリと痛む。


 大丈夫。姉としてスミレを守る存在になるんだ。一番辛いのは今もこれからもスミレなんだ。だから、だから―――

 

 ―――!


 ぎゅっとイルザを優しく包み込んだのはリスティアだった。力強く、でも温かい。


 「そんなに一人で背負いこまないでください。前に進むのは大切ですが、時には立ち止まるのも大切です」


 リスティアの体温は氷のように張り詰めていたイルザの心をゆっくりと、ゆっくりと溶かしていく。


 「誰かの前で誰かに甘えるのはあなた自身が許さないでしょう。ですが、今なら私だけです。辛いのはあなたも同じなのですから」


 目の奥がじわりと熱くなる。


 今まで抑えていたものが、イルザの中で一気に崩れ落ちた。


 「うっ、う・・・うわあああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!! ごめん、ごめんなさい・・・!わた、・・・わたしの・・・私のせいで・・・・・・!!」


 リスティアは激しく慟哭するイルザに何を言うことなく、ただ静かに抱きしめ、頭をなでる。


 水路を泳いでいた鳥たちは、燃えるような夕日に向かって羽ばたいていった。





 「落ち着きましたか?」


 夕焼けが一層濃くなった頃。


 落ち着きを取り戻したイルザはリスティアから手渡されたハンカチを目に当てて、呼吸を整える。


 「ありがとう。あの、その・・・」


 「大丈夫です。みんなには内緒にしますよ」


 リスティアは優しく微笑んでそう言葉にした。


 人前で子供のように泣きわめくのは随分久しぶりな気がした。今までは頼られる立場だったので、自分の感情を吐き出す機会がなかったに等しい。


 感情を露わにしてそれが解決するわけではないが、自分の心に区切りをつけることができる。だけどなかなかできるものではないし、何よりも少しだけ恥ずかしい思いがある。


 イルザとリスティアの関係はいわば部下と上司である。それは仕事の上での関係であり、今回の任務での関係性もその通りある。では、仕事を抜きにした場合はどうか。


 プライベートでのリスティアはそれこそ理想的な姉である。芯が通っていて、それでいてどこか親しみやすい気さくさ。強くて優しくて、人の心を気遣える。


 イルザにとってリスティアは頼れる存在になっていた。


 だがリスティアは謎に包まれている。


 青色の左目の対をなす、銀色の右目の魔眼。


 今は封印術式を組み込んだ眼鏡をかけて魔眼の力が発動しないようにしている。なぜ眼帯ではなく、眼鏡を使用しているのかというと、”幻葬の鐘(セクステッド)”に正体がバレないようにとのことだ。


 リスティアの”躍進する者(エボブラー)”の能力である”万華鏡(カレイドスコープ)”によってリグレットという姿に変装してはいるものの、変身能力は完璧というわけではない。まず、種族を超えた変身はできない。雪妖狐族(フェンリル)であるためチャームポイントの耳や尻尾はそのままである。せいぜい毛色を変えるのが関の山。そして呪いの類も隠しきれないという。その例が右目の魔眼で、呪術によって後天的に身に着けたものは能力で姿形を変えてもそのままである。


 故に、変装時は眼帯を装着して隻眼であるかのように振る舞う。


 さて、話は戻るがリスティアの魔眼についてイルザは知らないことが多い。知っているのは魔眼による強力な氷結魔術のみ。


 リスティアは魔眼を呪い、と言っていた。


 であれば、ただ強力な魔術を行使できるだけのものではないはず。


 「よければ食べませんか? 屋台からの甘い匂いに負けてしまいました」


 リスティアが笑顔で手渡したのは、カスタードクリームの上に炙った砂糖が香ばしい匂いを立てているクレープだった。


 お礼を言ってクレープを受け取った。


 ひと口頬張ってみるとなるほど、炙った砂糖が絶妙な苦味をだしてカスタードの甘味を引き立てている。泣き疲れた頭には丁度いい糖分補給ができた。


 この味はまたいつかお菓子作りで再現する為に頭の片隅に記憶しておくとして、リスティアに魔眼について尋ねることにした。


 「リスティアさんのその眼は呪いって言ってましたよね? 解呪はできなかったんですか?」


 あー、と困ったような表情を見せながら。


 「この魔眼はですね、正確には呪術で身につけたものではないのですよ」


 まぁ私にとっては呪いのようなものですが、と続ける。


 「私が幼い頃、両親と世界を旅していました。もともとじっとしているのが苦手な種族なので、ご先祖も先代雪女族に拾われた後もあちこち飛び出していったみたいです。そしてある時、南国の宗教国家の奴隷商に捕まってしまいました。両親は私を守る為に抵抗しましたが、殺されてしまいました」


 リスティアはクレープをひと口。赤と橙のグラデーションが広がる空を見つめる。


 「それなりの値段で売られた私は宗教組織に引き取られ、よくわからない教えを叩き込まれました」


 その教えというのは、地上の生物は更なる進歩を目指すべきだ。などという教義を掲げているとのことだ。


 教えを説かれる以外は温かい布団と最低限の食事が出されたので、奴隷商の商品としての生活よりは幾分マシだったという。


 「そしてある日、私は御神体に選ばれました。まだ幼かった私はこれから自分に何が起こるのか理解できていませんでした。連れてこられたのは魔法陣が床や壁にぎっしりと描かれた石畳の部屋で、身動きが取れないように鎖で繋がれました。その時私はようやく自分は道具として扱われていたということを理解しましたね。それから儀式が始まり、何かが私の中に入ってくるのを感じました。ですがその時、外から大きな爆発音が聞こえたのです。現れたのは魔王ニルス様が率いる騎士団でした」


 当時の北国ジュデッカでは怪しげな宗教が国中で広まっていたという。信仰が広まるに比例して国内での犯罪係数が跳ね上がったという。


 魔王ニルスはジュデッカでの宗教団体の運動を禁止し、南国へ拉致したジュデッカの信者を取り返す為に南国まで騎士団を派遣した。


 「ニルス様に救われた私は数年越しの再会を果たしました。と言っても、私はニルス様と違って前世の記憶は持ってませんが」


 はははと笑いクレープをまたひと口。


 「ジュデッカに連れ帰られた私は身体検査を受け、右目に異常があることが判明しました。それがこの魔眼”氷封の目(フリジット・アイ)”。この目で見たものは生きたまま氷漬けにできるという危険な魔眼でした。この目を制御する為に訓練を続けてるのち、あることに気がつきました」


 それは力の代償。リスティアの視力は著しく低下していき、やがては視力は失うだろうとまで言われた。


 「ニルス様の見解では、何かを生きたまま封印する為に魔眼を植え付けられたと。ですが儀式が中途半端なところで中断され、不安定なまま片目だけに力が宿ったからだと。その時はどうして私が、なんて思いましたが今はなんとか受け入れてます」


 リスティアはクレープの最後の一口を放り込んだ。んー幸せ。と蕩けた表情をしている。


 「視力が低下って・・・それじゃあリスティアさんの今の視力は———」


 「そうですね、このまえの封印術式でかなり低下しました。この眼鏡なしでは戦闘どころか生活もままならないでしょう・・・」


 リスティアは呪いと呼んでいる”氷封の目(フリジット・アイ)”を受け入れている。その点に関してスミレの後遺症と似通っているのかもしれない。


 「さて、そろそろ施療院へ向かいましょうか! そうそう、そろそろ私のことをティアと呼んでもらってもいいのですよ?」


 軽い足取りで港を歩くリスティア。愛称で呼んでほしいということはそれなりに認めてもらったということだろうか。


 「待ってくださいリステ———、ティア!」


 先を行くリスティアの後を追いかけるイルザ。


 その中を割って入るように三人の男が道を塞いだ。


 「道、開けてもらえないかしら?」


 獣人族の男たちは下品な笑みを浮かべて、イルザの身体を舐めるように品定めする。


 「へっへっへ、中々の上玉じゃあねぇか!」


 「こいつもアレやらせましょうぜ」


 「へへへへっ!へへへへっ!」


 リーダー格の男がズボンのポケットから小さな透明のシートを取り出した。


 「こいつはプレゼントだぜ!」


 手にした透明のシートをイルザの肌に向けて貼り付けようとする。


 「いっだぁぁぁあああ!!! 痛えええええ!!!」


 イルザに触れようとした手にはナイフが突き刺さっていた。ナイフの鋭い痛みに地面にジタバタと倒れ込む。取り巻きの男たちも予想外の事態に慌てふためいている。


 「イルザさん! 早く!」


 ナイフを命中させたのはリスティアだった。魔力を使った痕跡があったが今は逃げることが最優先だ。


 全力で港町の水路を走る。


 数分走り、誰も追跡していないことを確認してほっと胸を撫で下す。


 「なんなんですか、さっきのは」


 「この国はあまり治安が良くないのですよ。おそらく彼らはドラッグの常用者でしょう。ここ数年でドラッグの使用者が増えてさっきみたいに女性を拉致して強姦、なんて事件がよくあるんです。だからイルザさんも気をつけてください」


 そんなものが蔓延しているなんて、この国はどうかしている。この国に対して抱いていた不安感は薬による秩序の乱れのせいなのかもしれない。


 「早くジュデッカに帰りたいですね・・・」


 「同感です。我が国は最高ですから」



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