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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十一話 輝く星の魂
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闘争と混沌

 

 ラ・ヴィレス魔王国の闘技塔は全二十五階で構成されている。一階の受付ロビー兼選手控え室、二階闘技リングといった具合に控え室フロアとリングフロアが交互に積み重なっている。


 二十四階のみリングフロアではなく、闘技塔の管理者専用のフロアになっている。そのフロアは従業員を含め、管理者以外は立ち入りを禁じられている。


 その広々とした一室に”幻葬の鐘(セクステッド)”のメンバーの内、三人が集まっていた。


 「どうだい? 何かいい知らせでもあったのかい? ロウ」


 金髪の吸血鬼ヴァンピリオの青年、ジェラード・ノービレが革のソファーに深々と身を沈め、険しい表情を見せるロウ・クルディーレに軽い口調で問いかける。


 「良い知らせだ。だが、残念な知らせもある。どちらから聞きたい?」


 長い黒髪を一本の三つ編みに束ねた壮年の二重影(ドッペラー)のロウは不敵な笑みを浮かべてジェラードに返す。


 「ははは、まさか定番の知らせ方を生で聞けるとは思わなかったよ。こういう時はいい知らせから聞くのがセオリーなんだろ?」


 「うむ、では良い知らせのほうからだ。神界器デュ・レムザスの所有者が複数名ラ・ヴィレスに入った」


 「複数だって? かなり釣れたじゃないか、さすがだね。きっとボスも喜んでくれるよ」


 ジェラードは陽気な声で感想を述べる。神界器を回収する命令を受けている彼らにとって、ロウが実行している作戦は重大なものだった。


 「そして残念な知らせというのは、協力者が随分とおかんむりということだ」


 「協力者ってあれかい? 南方を拠点としている宗教組織だろ、彼らを怒らせるのはさすがにまずいね」


 「ああ、どうやら送迎船で負傷者を出してしまったらしい。そしてその報復にも失敗したそうだ。こちらで始末しなければ、今後一切の協力関係を断つとまで言ってきた」


 「まぁいいんじゃないか? 大会の形式を変えるだけで済むだろ? 僕としては殺しがいがあって嬉しいよ」


 突然、扉が大きな音を立てて乱暴に開かれた。


 「はぁ~つっまんない。すぐ死んじゃうんだもの、人間族ってほんとつまらないわ」


 現れたのは返り血を全身に浴び、心底うんざりした表情を見せる鮮血色の長髪の女性、レイン・スカーレット。その手には真っ赤なドロドロした液体が詰まった瓶があった。


 「レイン、早いところシャワーを浴びるべきだ」


 ロウは表情を変えず、床を血で濡らすレインにタオルを投げる。


 「ええ、そうさせてもらうわ。ほらこれ、言われてたやつよ。ジェラ、受け取りなさい」


 「ありがとう。うん良い色だ、搾りたての人間の血はとても美味だからね。早速いただくとしようか」


 「血の匂いは嫌いじゃないけどぉ、それを美味しそうに飲むのは考えられないわ~。吸血鬼(ヴァンピリオ)とは食事に行ける気がしないわ~」


 オエーとわざとらしく嫌悪感を示す。レイン・スカーレットの種族は焔魔族スルトである。鮮血色の髪はその証。瞳の色も紅蓮の炎よりも気高く燃える色。そして内に秘める激情の炎ともいえる残虐性は彼女が生まれ持った性質。


 「僕からすると君の嗜虐趣味こそ理解に苦しむね。拷問にかけたいから僕の人間をあげたけど、つまらなかったなんて言われるのはとても勿体ないよ。なんせ生きた人間なんてレアモノの血液は簡単に手に入らないからね。次に得たときは生きたまま寄こしてよ?」


 レインから受けっとった瓶に入っている血液をグラスに注ぐ。吸血鬼にとっての吸血行為は酒やコーヒーなどの嗜好品のようなもの。生きることに特別必要なものではないが、人生を豊かにするものとして血液の味を堪能する。


 「はいはい~。もう三人もぶっ殺してつまらないってわかったから腕を絞るなり、眼球を穿り出すなり好きにしなさいよ。あ~あ、つまんない。ほんっとうにつまんない。生きたままゆっくりと指先から挽肉にしてあげたのにただ叫ぶだけ。もう少し生にしがみついてほしいわ。助けてください~、って」


 「安心するがいいレイン、お前の望む獲物がかかった。煮るなり焼くなり好きにしていいぞ」


 「えっ! なになに? 何が始まるの!?」


 ロウの言葉に目を輝かせるレイン。


 「なに、国を挙げての祭りだ。お前の大好きな血祭りだ」


 くくくと悪意に満ちた笑みを浮かべるロウ。


 自分の手を汚さずに神界器の回収、そして協力者を負傷させた者への報復。その両方を実行できる方法が浮かんだ。それを実行するにはラ・ヴィレスの魔王にも協力してもらわなければならない。


 さぞかし楽しい祭りになるだろう、と夕日の差し込む窓からラ・ヴィレスを見下ろす。


 この国の国民は闘争に飢えている。戦う力がなくとも、闘いを観ることが好きな輩が多い。おかげで闘技塔は表と裏とともに支えられている。


 ロウは入国した者のリストに目を通す。


 部下の知らせによると協力者の送迎船が入港したという。その報復対象となるのがダークエルフの女とのことだ。


 上から順に顔写真と名前を眺めていると一人の鬼に目が留まった。


 「くくく・・・。やはり来たか」


 以前、神界器を所有していた闘鬼(オーガ)の研究者を神蝕させ、そのなれの果てを娯楽として見届けた。だがそこに駆け付けたもう一人の闘鬼と衝突し、敗北手前でなんとか逃げおおせた。


 ヴェンデ。規格外の強さを誇る闘鬼。奴の神界器は必ず回収すべきモノだ。


 しかし前回とは違い、こちらも神界器を所有している。完全不利な戦いではないだろう。


 因縁の相手を打ち負かし、過去を乗り越える。


 これは試練だと、ロウの感情は猛りを上げる。


 計画の実行は明朝。闘争と混沌の国は灰色に染まろうとしている。




 

 


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