表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十一話 輝く星の魂
107/125

異形の男


 扉を抜けると奥の船室へ続く廊下、二階へ繋がる梯子と、船底へと繋がっているであろう梯子への鉄でできた蓋状の扉があった。


 どこに魚人たちの親玉がいるかしばらく考える。


 仮に自分が魚人たちを指揮する立場ならば、状況をよく把握できる場所で見る。ならば道は一つしかない。上から一望できる二階部分。


 グレンも考えは同じだった。二人は梯子を上る。


 船室二階にたどり着いたイルザとグレン。甲板を見下ろせる大窓の傍らに、帽子を深々と被り、ロングコートを羽織った人物が外の景色を見下ろしていた。部屋は磯のにおいが甲板よりもきつい。


 「あなたがこの騒動の親玉ね!」


 イルザはコートの人物に刃を向ける。手にしているのは”妖精の輝剣(アロンダイト)”ではなく、ヴェンデから譲り受けた刀である。


 「オヤダマ・・・、親玉。フム、かれらノ親では無いが、イシの疎通ができるからトイウ点において彼らのダイヒョウとしてこの場をシキしているのは私ということナラバそうなのだろう。はて? トコロデ何故わたしは陸にいるのだ? お腹は、スイテいる。彼らもそうなのだろう。リクから偉大なるうみへ、食事を持ち帰りワレラが主神を―――」


 つたない言葉で独り言をつぶやく。声は枯れていて聞こえづらい。


 「なにぶつくさ言ってやがる!」


 こちらの存在を無視し続けるコートの人物にしびれを切らしたグレンは独り言を遮るように声を上げる。


 「ナニヲ? ふむ、気持ちがよいモノだ。潮騒というのはニンゲンが生み出す音よりもココチがよい。いつからだろうか? ―――。あたまがイタイ。アア、アアアア―――!」


 支離滅裂な独り言を繰り返し、その人物はゆっくりとイルザの方へ振り返る。


 「―――ッ!!」


 イルザとグレンはその異形ともいえる姿に絶句した。


 帽子の下から覗く眼孔は拳ほどの大きさでギョロギョロと両目は別の方向を見ている。皮膚は青白く、独特なぬめりのある光沢がある。そして鼻があるのに、首筋に魚のエラのようなものがある。だが、甲板の魚人たちとは違いシルエットは人間に近い。


 魔族であれば多少なりとも魔力を感じるはず。しかし目の前の異形からは魔力を感じない。人間離れしている人間ともいえるほどに、イルザの感じた気配は人間に近かった。


 「あ、あなたは何者なの!?」


 イルザの手が震える。正気を保っていられるのが不思議なくらい、人間の姿をした異形に恐れを抱いてしまっている。


 「ナニモノ・・・? 何物。ああ、懐かしく、美味なカオリ。イヤ、食事は抑えろとイワレタ。約束・・・だったナ」


 会話が成立しない。確かに言葉は通じているはずだが、まったく何の脈絡のない独り言で自己完結してしまう。


 「イルザ、こいつはヤバい。とにかくヤバい。見た目もだが頭もどうかしているぜ。早いとことっ捕まえたほうがいいかもしれねぇ」


 「そのようね。食事とか物騒な単語が聞こえるし、下で待っている仲間のためにも片をつけましょう」


 イルザは刀を構え、距離を詰める。間合いは三歩程度、刃を当てるには十分な距離。


 気絶を狙った首への峰を使った横薙ぎ。


 だが、イルザの先制は空振りに終わってしまう。


 「消えた!?」


 立っていた異形の男は一瞬のうちに姿を消していた。


 「イルザ! 後ろの影の中だ!」


 イルザの影が波のように揺れる。異形の男は魚人たちと同じように影の中へ潜ることができる。そのことに気が付くと同時に、影の中へ潜伏していた異形の男は浮き出るように姿を再び現す。


 「ッグ――!」


 背後からの隙を突かれ首を掴みあげられるイルザ。


 「ワズカニ、匂う。ハンギャクの魂のにおイ。当たり? ハズレ? ああ、いあ、いあ。 ハズレ、だガあたり」


 首への締め付けが徐々に強くなる。何度も蹴りを異形な顔に入れているが顔筋一つ変えない。


 「その手を放しやがれ!!」


 男の腕を短剣で叩き切ろうとするグレン。だがその腕は刃を通すどころかびくともしない。即座の判断でグレンは胴体に蹴りを入れ、その反動を利用してイルザを抱きかかえて男から引きはがした。


 「ハァ・・・ハァ・・・ありがと・・・助かったわ」


 「礼はいい。それよりもなんなんだあいつ、硬すぎるだろ」


 グレンに蹴られた異形の男はほんの少し足をぐらつかせた程度でダメージを負ったようには見えない。姿形は人間に近くても、肉体の強度は魚人のそれと同程度だった。


 「化け物相手に普通の武器は通用しなさそうね」


 イルザはそう言うと刀を鞘に納めた。そして、新たに”妖精の輝剣(アロンダイト)”が握られる。


 普通の武器を使うのはあくまでも擬装。第三者に神界器の存在を知られないようにするためである。だが自身の命の危機に際してまで擬装を貫くのは本末転倒である。イルザは自分自身と仲間を守るため。神界器を現出させる。


 「ヤハリ、やはりヤハリ。いあ、いあ。当たりダ、あたり」


 カタカタカタと異形の男は嗤う。その笑い声からは感情が一切読み取れない。


 「気味が悪い。その薄汚い笑いをぶった切ってやるわ!」


 異形の姿を視る。姿を目に映しているだけで手にしている剣で自分ごと切り裂きたくなる衝動に駆られる。金槌で撃たれるような衝動をぐっと飲み込んで精神を集中させる。


 イルザの魔力が”妖精の輝剣(アロンダイト)”を包む。


 躍進する者(エボブラー)異術系能力、”覗想斬断(ブレイド・ファンタズム)”の発現。なぞったものを強制的に切断する能力。発動条件は対象を目で視て、斬った姿を想像する。想像力さえ働けば斬れないものはない反則的な能力。


  ”妖精の輝剣(アロンダイト)”は蒼白に輝き、イルザの魔力が最大限の力を発揮する。


 再び間合いを詰め右脚の付け根を狙う。


 「ゴアンナイ、ご案内。栄光あるウミのたびをおたのシミください」


 危機的状況にあるにも関わらず、詰め寄るイルザに一礼をする異形の男。そして足元には窓から差し込む光から作られた影。


 「逃がすか!!」


 グレンは腰元からナイフを投擲した。ナイフには魔鋼糸が通してあり、男の体に巻き付けて影へ沈むのを阻止する。


 男の巨大な眼孔がさらに大きく見開く。


 イルザの渾身の一振りが、剣先が異形の男の右脚をなぞった。


 刃は通らなかった。異形の男は一瞬だけ笑みを浮かべたが、すぐさま吃驚へと変わる。


 なぞられた右脚は勢いよく赤い血を吹き出し、切断された。右脚を切断されたことによってバランスを失った胴体が崩れ落ちる。


 「ナニガ・・・なにがなにがなニがナニガなにガ!!!!」


 驚嘆の声を上げ、地面を這う男。


 体に巻き付いている糸を煩わしく感じた、右脚の痛みを忘れ、両の手で糸を引きちぎった。


 「おいおいおい、魔鋼蜘蛛の糸を、しかも編み込んで縄にしてあるんだぞ!? それを簡単に引きちぎりやがった」


 「だめ! 逃がしちゃう!」


 グレンの束縛が解けたことによって異形の男の体は自由を取り戻した。そしてその体は影へと沈む。


 イルザはもう一度精神を集中させ、影への斬撃を試みる。


 魔力が能力発動のタイミングになったころにはもうすでに手遅れだった。波立っていた影は平らな地面のように平静を取り戻していた。


 「間に合わなかった・・・。だけど、一体何者だったの・・・?」


 船室に残ったのは赤い血痕と異形の右脚。人間に近い、人間族でもなく魔族でもない。謎の種族。目を合わせるだけで発狂してしまいそうな狂気の権化ともいえる魚人の集団は、異形の男と消えるように海へと逃げて行った。


 それと同時に黒い霧も晴れ、船に残ったのはイルザとその仲間のみ。ほかの乗客は全て、魚人の襲撃によって姿を消してしまった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ