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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十話 氷河の国
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儚い願望


 「―ふむ、刻は間もなく。といったところか・・・」


 「―――。」


 「力の相殺。随分と手を煩わせておったようだが? 今となっては過ぎたこと。庇護は汝に委ねよう」


 「―――!」


 「なに、それは汝の子が決めること。我々が口出しすることではない」


 「―――。」


 「我らはそういう存在。故に過去、未来、現在、その在り方を変えることはない。我らが優先すべきは星の命」


 「―――。」


 「ふん。我が魔の子なら汝の黄金の輝きをも取り戻すであろう」







 古代魔獣ベアゼブルへ一直線。イルザとグレンは距離を詰める。


 「作戦通りに触手から削ぎ落とすわよ!」


 「あいよ!」


 二人の気配に気がついたベアゼブルは頭のない四足歩行の体を臨戦態勢に切り替える。泥のような体液を分泌させ、触手を増やしその形状を槍へと変える。


 「うへぇ、気持ち悪っ!」


 鋭い触手は二人を穿くため次々と襲いかかる。頭がなければ目も耳も鼻も無い、あるのは口のみ。それでいて二人の位置を完璧に特定し攻撃している。


 "妖精の輝剣(アロンダイト)"で触手を受け止めると鈍い金属音が響き渡る。同等の頑丈さをあの触手は持ち合わせている。穿かれたら一貫の終わりだ。


 受け止めるのは得策でないと知るやいなや、イルザはベアゼブルを撹乱するため走り回る。


 ベアゼブルの触手は当然の如くイルザを追跡する。


 (いったいどこで私の位置を特定しているのかしら、そもそもあの触手に刃は通るの?)


 イルザは動きを急停止する。イルザを狙う触手は腹部目がけて一閃。


 (今っ!)


 もう片方の手で"妖精の輝剣(アロンダイト)"の刀身を添えて、触手を受け流す。その反動をバネに回転斬りを触手の中腹部へ入れる。


 (思ったより柔らかい!)


 触手は一刀両断。触手の断面から真っ黒の泥のような体液が吹き出す。


 「グレン! 硬いのは槍の部分だけみたい、だけど体液が吹き出すから気をつけて!」


 「おっと、有用な、せいっ、情報を、とぅ、ありがとよっと」


 身軽なグレンは宙返りなどアクロバティックな体捌きで触手を避けている。


 どの攻撃も紙一重のところで避けているが、見ているイルザは気が気じゃない。


 「なに遊んでんのよ!」


 「遊んで、っと、ねぇよ! うじゃうじゃうぜぇからまとめて削ぎ落とすんだよ。あ、」


 ギリギリで避けているのだから少しの油断でその均衡は容易に崩れた。つまり、触手の槍はグレンの胸へ迫る。


 ――スパン。とグレンの前を切ったのはスミレの矢。グレンの胸へと穿く寸前のところを矢が横から撃ち抜き、矢は触手ごと壁へ突き刺さった。


 「援護ありがとよ!」


 「気をつけてくださいです!」


 スミレの役割は二人の援護射撃。対応しきれない触手を次々と撃ち落とす。


 「次から気をつけるぜ。さぁ、まとめて剃り上げちまうぞ」


 グレンは腰に手を回し、そこから伸びる細い縄を引き上げる。


 「先端だけ硬いってことはよ、根元は柔らかいってことだよなあ? その触手、髭のように剃らせてもらうぜ」


 地面に張り巡らされた魔鋼蜘蛛の縄は蜘蛛の巣の様に広がり、触手を根元から削ぎ落とした。そして、本体を捕獲する。


 「"蜘蛛の鋼巣(トイル・ダラニー)"一丁上がりだ。いまだイルザ!」


 完全に動きを封じたグレンはイルザに合図を送る。


 「ここまでは完璧! あとは私の剣でトドメっ!」


 "妖精の輝剣(アロンダイト)"を両手で握り構える。長剣は肥大し、ベアゼブルと同等の大剣へ変形させる。


 「はああああぁぁぁぁぁっ!!!!」


 渾身の一太刀が振り下ろされ、蒼白に輝く大剣はベアゼブルの胴体を真っ二つに叩き斬った。


 (手応えが全くない!?)


 質量が大きさに比例する"妖精の輝剣(アロンダイト)"。三メートル以上の大きさともなると質量も並大抵のものでは無いはず。実際、振り下ろした先は質量に耐えきれない地面から土煙が舞っている。


 その様子を細道の物陰から伺っていたエルザとリスティア。


 「・・・姉さんがやったわ。私たちの番ね」


 「いえ、少し待ってください。イルザさんの合図がない・・・。もう少しだけ様子を見ましょう」


 エルザとリスティアの役割は封印。魔術の使用が制限されている中での封印魔術は魔力が足りず失敗する可能性が高い。そのリスクを抑える為、エルザの体内に保有する魔力をリスティアに分け与え、ベアゼブルが弱ったところに封印を施す。


 イルザ達の完璧ともいえる連携は確実にベアゼブルを弱らせているはず。


 だがリスティアは気がついた。


 ベアゼブルの存在が最下層にあることを知った理由。


 咆哮。


 声を出す器官。


 「皆さん!! 今すぐ下がって!!!!」


 リスティアの気づきはほんの僅か遅かった。それどころか、声をあげてしまったのは悪手であった。


 「え・・・?」


 イルザの耳にリスティアの声が届き、その意味を理解する刹那の時間。


 薄らと晴れる土煙。


 無くなったはずの触手は全て再生し、一つの束になり、イルザに向けての横薙ぎは吹き飛ばすには充分すぎる威力。


 「イルザァッッ!!!!」


 直撃。


 丸太よりも太い大型の触手がイルザをボールのように壁へと叩きつけた。


 「うそ・・・だ、ろ・・・!?」


 ベアゼブルの反撃により土煙が完全に晴れ、再び姿を現す。


 大剣を叩きつけられた胴体は真っ二つ、正確には途中まで裂けていた。胴体の背中に泥の大顎が形成されており、"妖精の輝剣(アロンダイト)"を大顎で噛み付くことによって防いでいた。


 そして、背中もとい大顎から伸びる大振りの触手は巨大化した"妖精の輝剣"へ蛇のように絡みつき、体内へ吸収しようとしている。


 「スミレ!! イルザの所へ走れ!!」


 「はいです!!」


 スミレは吹き飛ばされたイルザの元へ、グレンはベアゼブルの足止めへ向かう。


 (なにもかも上手く行きすぎて警戒を緩めちまったっ! クソっ! あの化け物、追い詰められてようやく俺達を外敵と見なしやがった)


 人が小バエを軽く追い払うのと同じように、殺しはしないが手で払う。しかし、自分に害をなす虫であれば叩いて殺す。それと同じ思考をベアゼブルは有していた。


 『グォォォォオオオオオ!!!!』


 ベアゼブルの背中の顎は腹部まで裂け大顎となった。生物としての活動を無視した体躯に一同は本能的に危機を感じとる。


 「ク、クソォ!」


 頭に血が上ったグレンは逆手持ちの短剣を長剣へ変形させベアゼルブへ突きを繰り出した。


 だがその突きも虚しく。


「穴!? いや、違う。口だと!?」


 胴体の側面から突いたはずが、手応えのない貫通。大顎とは別の口がグレンの剣を呑み込もうとする。


 すぐさま手を離し、後ろへ跳ぶ。だが一歩足りない。


 丸太の様な触手は再び分解され、無数の触手へ。その内の一本がグレンの腹部へ直撃した。


 「ガハッッ――」


 グレンの体を軽々と吹き飛ばす。


 「グレンさん!!」


 前衛の二人があっという間に戦闘不能になってしまった。このままでは全員やられてしまう。撤退の合図をリスティアに送ろうとしたその時。


 「――まだっ! 負け、て、ないわ」


 意識を取り戻したイルザはスミレの腕を掴んでいた。


 「無茶です! このままでは皆殺されてしまうです!」


 「いいえ、逃げる方が危険だわ。あいつの肉体は変形できる。逃げたところを追いかけられてしまうと、転送魔道具(テレポーター)を破壊されかねないわ。もう、封印するしか手は残っていないの」


 転送魔道具を破壊されるということは、この地下へ再び赴く手段が断たれ、ベアゼルブの暴食を永遠に許してしまうことになる。


 「でも、もうこんなに、ボロボロです――。どうして、そこまで――」」


 「私に夢が出来たの。あなた達みんなでこの世界を歩いてみて回りたいっていう夢が。その為には神界器(デュ・レザムス)の謎も人間族の謎も全て排除する必要があるわ。夢を叶えるためならなんだって、やってやるわよ!」


 イルザの儚い願い。平穏だけを望んでいた少女は、形のある平穏を手にしたいと願った。願いを叶えるための意思がイルザの中で熱く燃え滾る。


 (ああ、イルザさん。やはりあなたは熱く輝く素敵な方です。そんなあなたなら月の輝きは確かなものになるです)


 イルザの意思を受けたスミレもまた新たな覚悟を決める。


 「月は光を受けて輝くことが出来るです。私はイルザさんの月としてその夢を照らしたいです」


 差し出すは黄金の宝玉。それはイルザに”極光の月弓(アルテミス)”の主になることを意味する。


 「スミレ・・・。あなた――」


 「受っとってくださいです。一緒に戦いたい。これが私の意思です」


 「・・・。わかったわ。スミレの覚悟。受け取るわね」


 黄金の宝玉に触れる。


 左腕に黄金の百合の紋章が刻まれる。


 そして、左手には”極光の月弓(アルテミス)”。


 「第二ラウンドの開始よ」



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