雷と嵐
(あいつ・・・ずっと剣を見ている・・・)
逃げながら感じる視線に悪寒を覚える。
(湖が・・・見えてきた・・・!)
いよいよ目的の決戦場へ到着した。広場になっている場所へ走り込み、エルザは“守護方陣”を再び広げる。
「ほう? なかなか良い眺めではないか! 俺様との逢引の場所としては上々ではないか!」
「馬鹿も休み休み言いなさい。あんたはここで墜ちるのよ」
剣を構えるイルザ、そしてエルザも“守護方陣”を解き、杖を構えて戦闘態勢に入る。
「・・・“カデージ”!」
エルザは杖を振ると空中に複数の魔法陣がホルグに向かって階段状に出現した。光属性下位魔術の足場を作る魔術である。
イルザはそれを足場にし、次々と跳躍して一気に接近する。
「食らいなさいッ!」
剣を振りかざしホルグに向かって大きく斬りつける。
「俺様の翼をなめるな!」
翼を扇ぎ後退する。軽々とイルザの攻撃を躱したが、当のイルザはポーカーフェイスで地上へ落下する。
「そこよ」
空中で剣を地面に向かって投げた。上空にいるホルグの真下に剣は地面に突き刺さった。
「・・・ボルティックトルピーユ!」
突き刺さった剣に向けて杖を振る。光属性中位魔術の応用術、剣は紫電を帯び、電撃を一気に放出させる。
(本命はこちらか!?)
ホルグは直感で左へ避けようとしたが、光の速さで放出される雷撃が岩のように鍛え上げられた脚を掠めた。
「んぐッ・・・!」
鋭い雷撃は剣で切り裂くように切り傷と火傷を創る。
(なんて威力の魔術だ・・・。ダークエルフは伊達ではないな)
「どうかしら? 今なら逃げても追いかけないわよ?」
見事な連携攻撃を決めて、自信満々の笑みを浮かべて挑発する。
「たわけ! 脚なんぞ使えなくとも戦えるわ!」
痛みを打ち消すため、雄叫びを上げる。
態勢を立て直したホルグは翼を素早く、力強く羽ばたかせて風を巻き起こす。やがて風は竜巻となり土や石を巻き込みながらイルザに向かって突き進む。
(吸い寄せられるッ!?)
地上にあるすべてを呑み込むように竜巻は引き寄せ渦巻く。
「ただの竜巻と思うなよ!」
怒声を上げ、弓を構える。
「“クッパンド・トルネード”!」
三回素早く弦を引く。打ち出された三つの魔力矢は竜巻の中へ入り、共に渦巻く。巻き起こされた土や石は矢と竜巻の回転力によって粉微塵と化していた。
(動けない・・・!)
動きは遅いがじりじり危険が迫る。防御魔法ではあの竜巻と魔力矢の物理と魔力の二重攻撃は防げない。
「・・・姉さん!」
後ろからエルザの声が聞こえる。この竜巻に呑まれてしまったら、そのままエルザへ直進して共に呑み込まれるだろう。
そうはさせない。
ここで防がなければ妹は守れない。
手元に“妖精の輝剣”を戻し、強く握りしめる。イルザの守りたいという思いに共鳴し、蒼白に強く輝く。
竜巻に吸い寄せられる体をしっかりと脚で支え、剣を両手で持って振りかざす。
大きく息を吸い、迫りくる竜巻を見据えて剣を力いっぱい振り下ろす。
「はあああぁぁぁぁぁぁっっっ! “真・空・斬”!」
振り下ろされた剣は空間を斬り、その斬撃が衝撃波となって竜巻を一刀両断する。
「なんだとッ!? 真っ二つにしやがった!?」
驚愕の表情を浮かべるホルグ、しかしその表情はやがて恍惚の表情へと変わる。
「はっはっ! いいぞ、いいぞ! それでこそ俺様の求める剣! 必ず手にしてやる!」
竜巻が消えたと同時にホルグはさらに高度を上げて飛び回る。
(竜巻はどうにかなったけど、あいつを墜とせなかったら意味がない)
剣が届かない遥か上空ではっはっ! と、声を上げるホルグをイルザは剣をぎゅっと握りしめて見上げる。




