第98話 屋敷
一方さらわれた女のほうは
石のお地蔵さんと一緒に縛られたまま、
男達に担がれて、
森林の奥へと草を踏み分けて、
どこまでも入って行く。
行けども行けども森は抜けるどころか
ますます深く、暗くなって、
ここに置いて行かれたら
脱出するのは難しいだろうとすら
思えるほどだった。
どこまで行くつもりなのか。
しかし、このあたりまで来て
心なしか、周辺の霊気のにおいが
先ほどの場所のにおいと
少し異なってきたように感じられた。
これは、ここからさほど離れていないところに
霊が集まっているところがあるために、
その霊臭を感じるためなのだろう。
それにこのにおいには
不安と恐怖を呼び起こす
冷酷と孤独の臭みを感じるものだった。
男達は迷いもなく森の中を
一定の方向を目指して進んで行く。
すると不意に、
木立のあいだを透かして
屋敷が見えてきた。
やはり厳重にまわりを尖らせた丸太を組んで
簡単に入れないようにしてあり、
その内側を土塀が囲っている。
入口の門のところには
頭に角が生えている鬼のような男が
刀を振り回しながら見張っていて、
一人一人確認してから中に入れていた。
中へ入ると、
そこは酒盛りの真っ最中だった。
男達はその建物の中に
女を担ぎこむと
座敷牢になっている部屋に
お地蔵さんと一緒に縛ったまま転がして、
酒の席に加わった。
「サバド、カダル、セヒム、
働かざる者食うべからずだ。
いつも良く頑張ってくれる。
いい仕事して来たな。
ここへ来て飲め。」
古株らしい男が声をかけた。
「おう、当然だ。
隊長、俺たちが一番業績を上げているんだから、
特別優遇してもらわねえと
おもしろくねえな。」
女を掠って来た三人の男達は
不敵な薄笑いを浮かべ、
デカイ態度で、
辺りを睥睨しながら席に着いた。
隊長とは
ここの軍団を束ねているコポクルという者だ。
「今度の定例会のときまでに
我が組織で千人の女を集めなければならんのだ。
それをアブダ太閤殿下に
献上することになっている。
まだまだノルマ達成まではほど遠い。
なかには
まったく女を連れて来れない者もいる。
もっと真剣にやれ。
結果を出せなかった者は
奴隷の身分に格下げする。
ノルマはどんなことをしても
やり遂げなければならんのだ。
それぞれがこれ以上に働いてもらわねばならない。
さもないと太閤閣下の怒りに触れて
この軍団が潰される。
わかったか。」
隊長コポクルが言った。
途端に
「冗談じゃねえ。嫌だよ。
やってらんねえな。」
「自分でやりぁいいじゃねえか。」
「こんなことであぶねえ橋は渡りたくねえよ。」
「おれ達ばかりがこんなことやらされるなんて
うんざりだ。馬鹿げてるぜ。」
「嫌なこった。」
それぞれが腹の中で想っただけなのだが
それがダイレクトに声になって出てしまう。
「なんだとー。
今言ったやつ出てこーい。
たたっ切ってやる。
てめえらズタズタにしてやるぞー。」
コポクルは激怒して刀を抜くと
ブンブン振り回しながら
声が出た者をめがけて突進して行った。
不満を出してしまったのは数人いたのだが、
特に怒りのエネルギーの強かったイダブに斬りつけた。
刀を振り下ろされたイダブは
体をかわして刀を抜くと
「てめえ、威張っていい気になってんじゃねえ。
こうなったら命のやり取りだ。
覚悟しやがれ。」
怒りにまかせて
イダブが抜きざまに
コポクルの頭上めがけて刀を振り下ろすと
ガチンと刀と刀がかち合った。
にらみ合いになって
しばらくもみ合っていたが、
イダブがスキを見て突き放しながら
胴を鋭く払った。
それを空かさず跳ね返すと
コポクルの刀が瞬時に振り下ろされた。
ザッと鈍い音とともに
頭が真っ二つに割れて、
迂闊にも
不満をぶちまけてしまったイダブの体は
切れた顔が両肩に半分づつ乗っかって
声もなく仰向けに倒れて行った。




