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第95話 地蔵菩薩

イタチは飯山が気を失って、



太った僧侶が姿を消したのを確認すると



飯山をそのままにして歩き出した。



道はしばらくゆるやかな下り坂が続いて、



そのうち平坦へいたんな道になった。



村の入口にさしかかったのだろう。



さびれた感じで



粗末そまつな小屋が



点在している場所に出た。



小屋の出入り口には



手足の形が付いたままの、



なめした革がぶら下がっている。



人の革なのか。



周辺は糞尿と胃液が混ざったような



異様なにおいが鼻をつく。



小屋と小屋の間は



かなりの距離を取って建っている。



小屋の周囲は先の尖った木を組んで



侵入されないように厳重に囲ってある。



人影は見えないが、



警戒してこちらを物陰からうかがっている気配が



ピリピリ肌に伝わって来る。



意識の波動が伝わって来るのだろう。



囲いの中には畑のようなものがある。



しかし雑草が生えているようだ。



イタチはだいぶ先のほうを歩いて行く。



「あの幻格大僧正とかいう奴にはぶったまげたよ。



何だあの法力は。



あんなのにはかかわりたくねえな。」



イタチの後を追いながらバドグが言った。



「だけど何であの男に



院殿大居士なんか付けたんだ。



それほどの男か。」



ミヤナが言った。



「そうだよな。



気に入って前から目をつけていたんじゃねえのか。



自分の手下として使いたいんだろう。



地獄としては



即戦力としての人手が必要なんだ。



飯山が院殿大居士を喜ぶだろうと



大僧正はおもっているんだな。



あとは恩を着せて利用するだけさ。」



バドグはさもわかっている風に言った。



「しかし、くせえな。ここは。」



バドグが言った。



「とんでもねえ臭さだな。



こんなとこに長居は出来ねえぞ。」



ミヤナはさも嫌そうに言った。



「だけど気をつけろ。



ヤバい奴らがいそうな雰囲気だぜ。」



バドグが周辺に意識を配りながら言った。



ここはどういう世界なのか、



イタチもまわりの様子を探りながら、



走ったり止まったりして進んで行く。



不穏な雰囲気はあるが、



何事も起こる気配はないようようで



気をゆるめかけた途端、



「キャー」



けたたましい悲鳴が聞こえて、



草の茂みの中から



女が必死の形相で飛び出して来た。



それを数人の男達が追って来る。



「だれか助けてー。殺されるー。」



女は叫んでいる。



男達はおもしろがって



いたぶるようにニヤニヤしながら



女を追いかけていたが、



その中の一人が太くてよくしなるむち



ビュッと



女めがけて振り下ろした。



バシッ



「ギャー」



女は苦悶の表情で体をのけ反らしたが、



それでもふらつきながら



死に物狂いで逃げようとした。



途端に男は狂ったように



女を鞭で叩き続けた。



男達はけたたましい笑い声を上げて



はやしたてていたが、



女が倒れて動かなくなったのを見ると



近付いて行って縛り上げようと手をかけた。



途端、女は弾かれたように飛び起きると



道端に立っている石の地蔵菩薩にしがみついた。



「こいつ、しぶてえアマだ。引き離せ。」



いまいましげに舌打ちしながら



ボスらしい男が言った。



男達が女を引き離そうと引っ張ったが



死に物狂いでしがみついている。



不用意に手を出すと



みついてくるので引き離せない。



「どけ、俺に任せろ。」



鞭を持った男が前に出た。



そして鞭を力任せに振り下ろした。



バシッ、バシッ、



女はそのたびに体をのけ反らせたが



歯を食いしばって



地蔵菩薩から腕を離そうとしなかった。



「くそー。腕を切っちまうか。」



「バカ野郎。売り物にならなくなるぞ。」



「このまま地蔵と一緒に縛っちまえ。」



男達は縄で女と石の地蔵菩薩を



ぐるぐる巻きにしてかつぎ上げると



雑草が生えている獣道けものみちへ入って行った。



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