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第94話 竜巻

天井に浮いている僧侶の読経が



いちだんと激しさを増してくると、



巨大な木魚の口から突如、



真っ赤な炎がドッと噴き上がった。



それが渦を巻き、



ゴウゴウと音を立て



勢いよく祭壇周辺に広がった。



床や壁に埋め込まれた骸骨達の頭は



情け容赦のない



激しい炎の渦にさらされて、



松明たいまつのように燃え上がった。



堂内は業火に焼かれた鬼達の



阿鼻叫喚と



炎から逃げ回っている



鬼達の怒号が交錯し、



骸骨達が



断末魔の悲鳴をあげてもがいていた。



太った僧侶は興奮して



トランス状態におちいり、



ますます激しく



巨大な木魚を打ち鳴らした。



それは地を揺るがす響きとなって、



すべての感覚がビリビリ痺れ、



意識がどこかに飛ばされ遠のいて行く。



突然、



火炎が祭壇に置かれた



巨大な位牌に飛び移って巻きつき、



炎が文字になった。



そしてそれがジリジリ音をたてて



位牌に文字をきざんでいく。



またたく間に



「獄地院殿陶酔悪太大居士」



一字一字が火炎を噴き出し、



火の文字となって浮き上がってくる。



「おー」



鬼達が驚嘆の声をあげたが、



院殿大居士がついているのを見た途端、



嫉妬のどす黒いもや



堂内に立ち込めた。



「院殿大居士だと。おもしろくねえな。



どれほどの手柄を立てて来たやつか



知らねえが



それだけの戒名がつくからには



この世界でそれに見あった働きが出来ねえと



どんな目にあわされるか見ものだぜ。」



「ちげえねえ。



あの幻格大僧正は何を考えているんだか。



どんなことをやって来たか



わからねえような奴に



院殿大居士はねえだろう。」



「あの坊主、



俺達を馬鹿にしやがって



院殿大居士なんか



つけてくれようともしなかった。



えこひいきもいいところだ。」



鬼達から嫉妬と不満が一斉に湧き上がった。



僧侶は構わず読経を続けていたが、



不意に頭がクルッと回転すると



目を閉じて読経している顔が



後ろ向きになって



ピタッと止まったかと思うと



カッと目を見開いたあと



再び目を閉じた。



「あっ」



不満をぶちまけていた鬼達は



慌てて息を飲んで



知らぬ顔をすると黙ってしまった。



僧侶の頭が



プルプル小刻みに揺れていると



思った途端、



スポーン、



音をたてて首が肩から勢いよく抜けて



天井高く舞い上がった。



すると首が抜けた穴から



ドッと



読経がほとばしり出たかと思うと、



それが渦を巻きながら



床へ雪崩れ落ちて、



竜巻のように立ち上った。



その竜巻が鬼達を



次々吸い上げていく。



悲鳴とともに逃げ惑う鬼達が



先を争って出口に殺到する。



天井に浮いていた頭が



ムクムクと大きく膨らんで、



閉じていた目が



カッと開いた途端、



落下した。



ガツーン、ガツーン、



床で跳ね返りながら



逃げ惑っている鬼達を打ち潰していく。



瞬く間に全員が潰されて



会場が静かになった。



大きな頭が空中でクルクルッと回ると



不意に



隠れて見ていた飯山の目の前に



ズズーンと地響きをたてて落下した。



「うわー」



思わず叫んで



後ろへ跳びすさった飯山を



巨大な頭が目をカッと見開いて



「口答えは許さん。



そなたに院殿大居士を授けよう。



わしに忠誠を尽くせ。



裏切ることは出来ぬ。



よいな。



この恩を忘れるでないぞ。」



飯山はあまりのショックに



口を開いたまま気を失ってしまった。

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