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第93話 暗闇の中

ミアナとバドグは



急いで岩陰から飛び出した。



そのまま転がっている化け物達の頭を



バリバリと踏み砕きながら



イタチのいた淵へ走って行った。



そして下を覗くと



暗い谷の底へ落ちた飯山が歩いて行くのを



イタチが見つけて、



その後を追って行くところだった。



二人が後ろを振り返ると



化け物達が意識を失って、



あちらこちらに転がっている。



しかし、こいつらの意識が戻れば、



即座に襲って来るだろう。



こんなところでモタモタしてはいられない。



二人は意を決して



この濁った気の中へ入って行った。



坂は上から見ると垂直に見えるほど急で、



しゃがみながら慎重に降りて行かないと



一気に滑り落ちてしまう。



「うわー、くせっ。



なんだこの臭いは。たまんねえな。」



バドグが腕を曲げて



鼻のところへ押し当てた。



ミアナも顔をしかめながら



袖を鼻に当てているが



言葉も出ない。



途中までなんとか下って来たが、



突然、ズルッと足が滑って



二人とも悲鳴を上げながら



転げ落ちてしまった。



坂の途中に涌き水があって



滑るようになっていたのだ。



二人は以外にも身軽で、



落ちながら空中で体制を立て直し、



ヒラリと着地した。



地面は湿っぽく、



スモッグが立ち込めて



どんよりした重い空気の中、



イタチはかなり先の方を歩いていた。



二人はお互い顔を見合わせると



急いでイタチの後を追った。



飯山は突然何かが出て来るのではないかと



おびえて、



キョロキョロ



まわりを見回しながら



立ち止まり、立ち止まりして



前へ進んで行く。



暗闇の中、



景色がシルエットのように



うっすらと浮かび上がっている。



そして、



そのはるか先のほうに



明かりらしいものがチラチラ見えている。



暗がりの中では明るい所が安心出来る場所なのだ。



飯山は引き寄せられるように



恐る恐るその明かりの方へ進んで行った。



近づくにつれ、



人が集まって何かしているらしいことが



何となくわかった。



ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、



グオーン、



重く響く低音が徐々に大きくなって来て、



僧侶の読経がはっきり聞こえるようになってきた。



お堂だ。



こんなところにこんなものがあるのか。



近づくと音はますます強烈になってきた。



「誰かの葬式なのか。」



飯山は恐る恐る物陰から中をのぞいた。



天井が異常に高い大きなお堂の中に、



巨大な祭壇がしつらえてあり、



床といわず壁といわず



敷き詰められた髑髏どくろの上に、



無数の太いロウソクが立てられ、



ドロドロに溶けた熱いろうが流れ落ちている。



「あっ、これは。」



よく見るとその髑髏は



先ほどの淵で飯山を襲って来た



あの骸骨と同じだったのだ。



針金のような体を



法力で床や壁に埋め込まれ、



頭だけが出されている眼窩がんかの奥の



落ち窪んだ目の玉から、



熱い蝋が流れ落ちるたびに



口をガチガチ言わせて



意味不明の悲鳴とともに



涙がぼろぼろとこぼれ落ちていた。



その明々(あかあか)とともされた



蝋燭のあかりに照らし出されているお堂の真ん中に、



天井まで届くかというほどの



巨大な木魚とリンが空間いっぱいに浮いている。



そしてそのてっぺん近くに



座布団が浮いていて、



そこにデップリ太った僧侶が鎮座ちんざしていた。



低く重厚な読経の響きとともに



木魚とリンの巨大な音が



堂内を振動させていた。



そして



その中には牙と角を生やし、



今にも飛び掛ろうとするような



凶暴な眼をした鬼達がぎっしりと詰め込まれていた。



その鬼が順番に焼香しているが



ザワザワと騒がしい。



心で思っていることが、



肉体を離れた魂では



それを肉体の中にひそませることが出来ず



声として表に出てしまうために、



全員がのべつしゃべっている状態になっている。



「こいつはヤクザの組長やっていたらしいな。」



「どれくらい殺したんだ。」



「だいぶ汚いやり方したようだぜ。」



「騙し討ちか。」



「当然だろう。」



「使える奴か。」



「この世界で通用するかどうかな。」



「ぐぇへっへっへっ。どうかな。」



飯山は大量の鬼達が



このお堂にぎっしり詰め込まれて



喋っているのを見ると



恐怖で体が硬直した。



ここはこんなやばいところだったのか。



ここにいては危険だ。



途端に逃げ出したい欲求が全身を駆け巡った。



鬼がそれぞれ危険な雰囲気を出しているのは



ちょっと見ただけで感じる。



しかし今の飯山には



どうすることも出来なかった。



他に抜ける道がないのだ。



それは逃げ道がないことを意味していた。



そして、



その祭壇の向こうに



透けてもう一つの祭壇が見えていて、



そこでも僧侶の読経とともに



焼香が行われていた。



しかし



祭壇に向かって手を合わせているのは



どういう訳か、



顔見知りばかりだなと



飯山が不思議に思って、



その透けて見えている祭壇の前に



飾ってある写真を見た瞬間



「あっ。」



思わず叫んで絶句した。



俺の顔写真だ。



まさか、



これは俺の葬式だったのか。



死んだのか俺は。



飯山はしばらく呆然と立ち尽くしていた。  

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