第77話 直感
発角はしばらく黙っていたが、
何か思いついたらしく
「狂龍会の誰に指示されたかわかるか。」
と聞いた。
「いや、わかりません。
連絡係りがいて、
そいつが指示を伝えに来ます。
誰が指示しているか
わからないようにしているんです。」
と鮫谷は答えた。
「変だな。
わざわざ解散した怒髪組の組員を使って
実行させておいて、
指示を出している奴が
誰だかわからないようにしている。
知られたらマズイってことなんだろう。
ところで連絡係りの名前は
なんて言うかわかるか。」
発角は興味をそそられて聞いた。
「大上っていう奴です。」
「偽名かも知れないな。
どんな奴だ。」
「若い奴で太っていて、
まだ見習いみたいな感じですよ。」
鮫谷も酔ってはいるが真顔で答えた。
発角はしばらく黙っていたが
これは誰かが裏で何か仕組んでいるな
と直感した。
そして
「この仕事は降りたほうがいいようだ。
例え成功したとしても
一千万もらえるどころか
その前に消されるかも知れないぞ。
俺達が生きていては都合が悪いはずだ。」
発角は一点をにらんだまま
独り言のように言った。
「えっ、俺達って
発角さんも関わっているんですか。」
鮫谷が驚いて言った。
発角はふっ、と自分を嘲笑したように笑うと
「実を言うと、
俺も工作員なんだ。大魔会のな。」
「えっ、まさかほんとですか。」
鮫谷は目を丸くして発角を見た。
「俺のほうも蚊取と言う連絡係りがいて
指示を伝えに来るが
誰が指示を出してるかわからない。
報酬もそっちとまったく同じで、
ターゲットは荒谷だ。
変だと思わないか。
これは同一人物が両方に
別々の指示を出しているような
気がするんだが。」
と言った。
「なるほど。
手を組もうとしている
大魔会と狂龍会を敵対させようと
しているようですね。」
「その通りだ。
もし俺達実行犯が割り出されても
主犯は割り出せないように
なっているのだろうが、
その前に俺達か連絡係りを処分してしまえば
完全に誰の仕業か
わからなくなるという訳だ。
荒谷を襲ったのはたぶん
大魔会の奴らだろう。
店を爆破された荒谷が
大魔会の仕業と勘違いして
仕返しに来るだろうと思ったのだろう。
やられる前に消しちまおうとしたんだ。
だけど、射撃が下手くそだったから
荒谷はなんとか助かったが
荒谷が殺られていたら
俺達も用済みで
消されるところだっただろうよ。
これは先に手を打たないと
俺達はおしまいだぞ。」
発角がグラスに手をのばすことも忘れて言った。
ふと鮫谷が思いついたように小声で聞いた。
「荒谷の店を爆破したのは
発角さん達なんですか。」
発角は身を乗り出して
向かい側の鮫谷の耳元まで顔を寄せると
一段と声を落として
「そうだ。
他人に聞かれたらおしまいだ。」
と言った。
そして驚いている鮫谷に
「連絡係りが来たら
尾行して指令を出している奴を探り出せ。
俺のほうからも探る。
他に何かわかったら連絡してくれ。」
「わかりました。
絶対突き止めます。」
鮫谷は真剣な顔で言った。