第75話 饒舌
発角はハッと言葉を呑んだ。
うっかり口を滑らせてしまったが、
あまりしゃべらないほうがいいなと
少し後悔した。
人間は完璧に
秘密を漏らさないということは
難しい。
何かの拍子に
口を滑らせるものなのだ。
相手はもう好奇心満々で
その先を期待して身を乗り出して来た。
「まさか、発角さんがやったんじゃ・・・」
「いや、俺はたまたま居合わせただけだ。」
発角はうかつだったと思いながらも
無表情で言った。
鮫谷は期待が外れて
少しガッカリしたような顔をしたが
「そうですよね。
荒谷を殺る理由がないですね。」
と言って笑った。
発角も複雑な気持ちで
一緒に笑ったあと
ビールのジョッキを一気に飲み干して
息をはき出した。
そして
今度は注文してあった
焼酎のお湯割りを
二人が早いピッチで飲み始めた。
「それにしても
こんなところでバッタリ出会うなんて
思いもしなかったですよ。
ほんとに。 奇遇です。」
鮫谷は何度も懐かしそうに言った。
発角は
「そうだな。滅多にあることじゃないな。」
と言うと、
そのあとしばらく無言で
店の者が持って来た二杯目の焼酎を
口に運んでいた。
鮫谷も無言で飲んでいたが、突然
「しかし、それにしても
組を解散して
組長は堅気の実業家としてやって行けるが、
我々のようなヤクザ以外に
適性のない人間は
組が無くなれば
生きちゃ行けないんですよ。
そうでしょう。
違いますか。」
鮫谷が言った。
鮫谷は少し酔いが回り始めて
饒舌になって来た。
「組長にはハッキリ言って
失望しましたよ。
自分はビルとかマンションのオーナーとか
いろんな事業で楽々生活出来ているけど、
子分達は路頭に迷っているんだ。
少しは子分達のことも考えてくれても
いいと思ったんですがね。
組が嫌になったからって
勝手に解散なんて、
そんな無責任なことはないですよ。」
鮫谷は酔いに任せて
腹に貯め込んでいた
不平不満を吐き出した。
「そうだな。
俺達が親っさんのために
どれだけ働いたか。
愚痴は言いたくないが
こんな風に解散してしまった以上
どうにもならないよな。」
発角は鮫谷の気持ちを汲んで
慰めるように言った。
鮫谷はだいぶ酩酊状態になって来て
少し呂律が回らなくなっている。
「実はね。発角さん、
私はいまやってる仕事から
足を洗おうと思ってるんですよ。」
発角がオヤッと言うような顔で
鮫谷を見た。




