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第72話 悪霊

しばらくして釣羽が帰って来た。



「荒谷が入って行った店がわかりました。



りますか。」



釣羽が薮金に言った。



ろう。」



藪金はこれを待っていたように



ボソッと言った。



やはり緊張して



喉が強張こわばっているのだろう。



陰日はその言葉を聞くと



恐怖で体が震え、



喉から心臓が飛び出しそうなほど



動悸が激しくなって



息苦しさをどうすることも



出来なくなった。



脇で映像を見ている私は



先ほどから四人組のまわりに



黒いもやが漂って、



今現在の四人の出している想いの波動と



同じ波動を持っている霊達が



ゾクゾクと集まって来ているのが



見えていた。



闇の霊は荒れた想いの波動には



敏感に反応するようで、



どう嗅ぎつけるのか、



腐った物に蝿が集まるように



真っ黒な霊達が



ゾロゾロと空間を埋めるように



現れて来た。



薮金が荒谷の殺害を決意したときには、



また一段と



影の集団が集まって来て



騒がしくなってきた。



すると突然、



地面の下の時空が割れて大きく開いた。



道路が透けて、



その下に真っ暗闇の谷が



口を開けている。



その場にいる人の想いが強いと、



それがその想いに



相応ふさわしい次元の扉を



開いてしまうのだろう。



谷底ははるか下にあって



ハッキリと見えないくらい深いが、



ジッと目を凝らすと



その谷底深く



かすかに小屋らしい物が



闇にまぎれて建っているのが見える。



その黒い建物から



人と思われる姿の者が三人、



真っ黒なコウモリの翼を羽ばたかせて、



螺旋状に円を描きながら、



骸骨のような眼窩がんか



落ちくぼんで飛び出した



ギョロ目が食い入るように



四人組を凝視して



上昇して来る。



始めのうちはかすかに



小さく見えていた姿が



徐々にハッキリして来て、



まるで磁石に吸い寄せられるように



ぐんぐん昇って来る。



そのうち



みるみる目の前に迫って来て、



その場にバーンと



次々飛び出すように現れた。



そして現れるなり



あたりを恫喝どうかつして



グルッ、グルッと



ねめまわしたかと思うと



四人組のまわりにいる霊達を蹴散らして



他の者達が近づけないように



その場を占領してしまった。



真っ黒なもや



鉛色の体から勢いよく噴出して



あたり一面の闇が



また深くなってしまった。



カマキリのように



無表情で濁った真っ赤な目、



耳まで裂けた口。



縮れ毛の頭には三本の角が生えていて、



それぞれの手足には



鋭い爪が生えている。



裸体はやせ細り、



ごつごつしたあばら骨がむき出しで



骨に薄い筋肉がついている。



そしてその手には



長い柄の付いた



大きな鎌を持っている。



そのうちの一人が



ゆっくりと四人組の一人一人を



獲物のように眺めまわした。 



そして陰日の背中に



取り付いているものに目を止めた。



少しのあいだジーッと



のぞきこんだあと、



ゆっくり腕を伸ばすと



おもむろにそれをわしづかみにして



引っ張り出そうと力を入れた。



狐はまわりが騒がしくなって



危険な霊が大挙して集まって来たことに



恐怖を感じて



陰日の体の中に息を殺して



見つからないように



潜んでいたのだが、



突然背中を強い力で引っぱられたために、



驚いて陰日の魂に必死にしがみついた。



引っ張り出そうとしている者は



狐が必死にしがみついていることに



逆上したのか、



目にイラッとした色が見えたかと思うと



狂ったように狐の背中に噛み付いた。



狐は背中に走った激痛に驚いて



背中をのけ反らせ、



しがみついていた腕をゆるめてしまった。



その瞬間ズルッと引きずり出されて



高だかと闇の者の目の高さまで



吊し上げられてしまった。



狐は逃れようと



必死に抵抗しているが



相手の力のほうが強く



ジタバタもがいているだけだ。



闇の者が狐を濁った目で眺めていたが、



突然ガブッと食いついて



ガツガツと食い始めた。



狐が「ギャーン」と悲鳴を上げたが、



情け容赦もなく、



あっと言うまに食われてしまった。



闇の者は食い終わると



陰日の肩に手をまわしておぶさると



体の中に入ろうとした。



不意に横から他の腕が



その者をつかんで飛びかかった。



他の闇の者二人が



陰日を独り占めさせまいとして



組み付いて来たのだ。



「グアーッ、ガルルーッ」



猛獣のような声を上げると



大乱闘になって



殺し合いになるほどの喧嘩が



始まってしまった。



四人はそんなことが



次元のちがうところで起こっているとは



夢にも思わず、



それぞれ濃いめのサングラスをかけて、



長髪に帽子、れたデニムのジーンズに



上着を着たロックミュージシャン風に変装して、



ビルの二階にある



「赤いキノコ」



というネオンがついている店の



入口の前に立つと、



そこにいる従業員が扉を開けて



四人を招き入れた。



そして中の案内係りに



四人を案内させた。



中は薄暗く、



かなりの数のボックス席があり、



前のほうにステージがしつらえてあった。



荒谷達五人はと見ると



ステージに近い真ん中のテーブルに座って



談笑している。



薮金達が変装に時間がかかっているあいだに、



だいぶ酒が入って



出来上がっているようだ。



荒谷は寺野組のナンバー2で



他の四人は荒谷に一目置いてへりくだっていた。



薮金は案内係りに



荒谷達の後ろ中央の席を頼んだが、



そこは予約が入っていて



斜め後ろのテーブルに案内された。



ボックス席とボックス席の間は



通路で隔てられている。



薮金は持って来たギターケースを



床に置いて席に座った。



他の三人も席につくと



ボーイが注文を取りに来た。



そして、注文を受けたボーイが行ってしまうと、



すぐに薮金がギターケースを開けて



吹き矢のような物を取り出した。



そして筒の片方を押さえると



中に何か入っている



プラスチック容器の口を差し込んで



逆さにして何かを入れた。



陰日は車の中で変装している時から、



妙にイライラして



凶悪な衝動が



エスカレートしてきているのを感じていた。



店に入って席についたが、



心がザワザワして



敵意が増強し、



まわりにいる者すべてが



自分に悪意を抱いているようにしか



感じられなくなっていた。



見ると陰日の背中に、



先ほど陰日を奪い合って



勝ち残った者が取り付いて、



寄生虫のように我が物顔で



意識を支配していた。



「人を殺さなければお前は強くなれないのだ。



強くなりたいのだろう。



強くなりたければ殺すのだ。」



取り付いている者が



執拗に耳もとで低く囁き続けている。



陰日の目つきは段々と



危険なにおいを発し始めていた。

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