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第68話 拳銃

「申し訳ありませーん。」



陰日は土下座して



頭を畳に押し付けた。



事故のことを出されてしまうと、



ぐうのもでない。



あの事故で全員が



鞭打ち症になって



ギブスをするはめに



おちいってしまったのだ。



張子はますます逆上してどなった。



「今のお前に



わがままが言える立場かーっ。



これを受けるのが



てめえのびと



恩返しだろうが。」



食べていたケーキのクリームが



口から飛び散って



陰日がギブスをはめて



床に押し付けている頭の上に



降りかかった。



陰日は嫌々ながら



「うん」と



言わざるを得ない状況に



なってしまった。



爆破事件のあと



寺野組の人間が数名



行方をくらませたことで、



「そいつらが実行犯だ。



寺野組の犯行だ。」



と噂が広まってしまった。



当然、



荒谷はそれを見逃すはずはない。



報復に来るだろう。



邪街組長は



荒谷がどういう行動に出るのかと



様子をさぐっていた。



荒谷のような直情型の人間は



すぐに行動を起こすはずだ。



それをただ手をこまねいて



待っているだけでは



遅れを取ってしまう。



こうなったら先制攻撃しかない。



邪街は荒谷を消すことにした。



それを実行するのは



あの憎たらしい陰日だ。



邪街はそのくらいしなければ



腹の虫がおさまらなかった。



「ヘマばかりこきやがって、



あのやろうのせいでこのざまだ。



やつへの懲罰と



荒谷を消すのと一石二鳥だ。



これをしくじったら



やつの命はないだろう。」



我ながらいい考えだと



腹の中でほくそ笑んでいた。



邪街は抗争が好きだった。



命を取るか取られるか



ということに生き甲斐を感じ、



高揚感に酔いしれるのだ。



荒谷を狙うことも



理由はどうでもよかった。



邪街にとって



陰日が成功しようが失敗しようが



いっこうにかまわないのだ。



陰日に三人の若者を



監視と補佐をかねて組ませた。



陰日は夜も眠れないほどの



緊張と恐怖にさいなまれて



食事も喉を通らなくなった。



この世界に入ってしまったことを



いまさらながら後悔した。



逃げ出したいが



逃げた者がどうなるかは



陰日自身にもわかっている。



しかし、荒谷の命を狙っても、



取り損なえば自分の命がなくなる。



どちらにしても



進退きわまってしまった。



その日から



陰日達四人は



命をとるために



荒谷を付け狙うことになるのだ。



親分に命令された翌日の朝、



メンバーのひとりの薮金正一やぶかねしょういち



陰日を迎えに来た。



薮金は車のトランクを開けて



何かを入れたが、



おもむろに



「バギャーン」



とあたりにとどろくような



建て付けの悪い



大きな音をたてて



トランクを閉めた。



事故でもして



車がゆがんでいるのかもしれない。



そして陰日を自分の車に乗せると



行き先も言わずに走りだした。



下っ端の車は



幹部の高級車と比べると



あまり乗り心地はよくない。



たばこの火で



シートがあちらこちら焼け焦げて



穴が開いている。



よほどのヘビースモーカーなのだろう。



走り出すとすぐ



タバコを口にくわえると火をつけた。



どこへ行くのか聞いても



薮金はタバコをくわえたまま



ニヤニヤ笑うだけで



何も言わない。



一般道路から高速道路に入って



グングンスピードを上げて行く。



「まさか



親っさんが俺を消せって



言ったんじゃないだろうな」



と陰日は疑心暗鬼になって



不安がつのったが



相手に身を任せるしかなかった。



長いこと走って



山がせまっているインターチェンジで



高速道路を降りると



山の中へ続いている峠道をたどって行く。



「こんな山奥まで来て何をする気なのか。」



陰日の気持ちは落ち着かなかった。



山が深くなって



あたりに人里も途絶えたころに



薮金はくねった道の脇に



スペースを見つけると



そこへ車を停車させた。



薮金は陰日を促して



車から降りると



またタバコに火を付けると



深々と吸い込んで、



フーッと吐き出しながら



後のトランクを開けた。



トランクの敷物をめくって



スペアタイヤの下から布袋を取り出し



トランクを閉めて



陰日にコンビニ袋を持たせると



付いてくるように



手招きして



あたりを見回してから歩きだした。



少し歩くと



左に上がって行く細い道が現れた。



薮金は後ろをちらっと見てから



吸っていたタバコの火を



靴で踏みつけて、



その道を上がって行く。



陰日は黙ったままついて行った。



まだ気持ちは悩みでぐらついていて



ふさぎこんで



饒舌じょうぜつにはなれない。



しばらくして



突然薮金が歩みを止めると、



あたりの気配を探るようにしていたが、



大丈夫だと思ったのか



道から薮の中に



篠竹をかきわけながら



入って行った。



中に入って行くと



樹木が枝をのばした間から



木漏れ日が射して来ている。



生い茂っている雑草に



足をとられながら



道からだいぶ中のほうへ入ったあたりで、



薮金は立ち止まると



途中で買ってきた缶コーヒーを



陰日に勧めて、



やれやれというように



自分も缶を開けて一気に飲み干した。



それからあちらこちらの木の枝に



買ってまだ中身が入ったままの



ペットボトルやドリンクの缶を



紐でしばってぶら下げると、



布袋を開けて回転式拳銃の



リボルバーを取り出した。



陰日にも持って来こさせた



トカレフを出させると



「腰を落として足を踏ん張れ。



両手でそいつをしっかり握って、



あの缶とペットボトルをはじけ。」



そして



リボルバーを両手で構えて引き金を引いた。



「パン、パン」



と音がして、



ドリンク缶が瞬時に弾け飛んだ。



「こういうふうに撃つんだ。やってみろ。」



藪金が言った。

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