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第66話 嫌気

どのくらいたったのだろうか、



気がつくと



何かワアワア騒がしい声が



遠くのほうから



聞こえてきていたが、



そのうち



意識が戻って



我に帰った。



「親っさん。親っさん。



大丈夫ですか。



いま救急車を呼びましたから



もう少しです。」



張子と酒多が組長を心配して



声をかけていたが、



そのうち張子が



怒りにまかせて



陰日を怒鳴りつけた。



「ばかやろう。



どこ見て走ってんだ。



組長をこんなにしやがって、



てめえぶっ殺してやる。」



言うがはやいか



脱兎のごとく



前のほうに走り寄ると、



運転席のドアを



力まかせに引き開けて



陰日を車から引きずり出した。



レザー張りのシートに



水溜まりのように



小便がたまって、



陰日のズボンから



水滴がしたたっている。



「このやろう、



組長の車に



小便までしやがったのか。



どこまでなめきったやろうだ。」



言うなり



ガッツン、ガッツン



怒りにまかせて



顔を殴りつけた。



陰日の顔が



みるみる腫れ上がって



歯が折れて飛んだ。



組長は事故の衝撃で



顔面強打、



腫れ上がった顔から



鼻血が流れ、



くわえているつぶれた葉巻に



歯型を憎々しげに



食い込ませている。 



出合い頭の事故だった。



信号が青だったのか赤だったのか



陰日自身



前を見ていなかったので



わかるはずはなかったが、



信号を見ていなかった



などと言おうものなら



命の保証はないだろう。



「信号は間違いなく青だったよな。



まちがいねえよな。」



張子に念を押されて



「間違いなく青でした。



青だったです」



陰日は事故の相手に



悪いなと思いながらも、



へたなことを言うと



どんなひどいことを



されるかわからない恐怖に



かられてそのように



言わざるをえなかった。



極道が間違っても



「私が信号を見落としました。」



などと言えるはずがなかった。



自分に落ち度があったとしても



ごり押ししてでも



それを金にしなければならないのだ。 



警察の現場検証がはじまっても



極道側は



「信号は青だった」



と全員が言い張った。



相手側も



「自分のほうが間違いなく青でした。」



と言っていたが両者譲らず、



らちがあかない。



目撃者の協力を得ようとしても



極道がからんでいるとなると



関わりあいを恐れて



誰も証言する者はいなかった。



陰日は怪我をしているにもかかわらず



張子の怒りにまかせたパンチを



連打されたあと



救急車に乗せられて



病院へ搬送された。



顔面は見るも無惨に



腫れ上がり



鼻骨が折れ



顔の骨にひびが入っていた。



組長の顔面打撲は



大事に至らなかったが



しばらく様子見で



個室の病室へ入れられた。



陰日はこの事故以来



極道に嫌気がさして



組を抜けたいと



思うようになってしまった。



こんなひどい仕打ちをされて、



組織に入ってしまったことことを



後悔していた。



陰日自身



ウッカリよそ見してしまったことは



自分に落ち度があったと認めるが



怪我人を顔の骨にひびが入るほど



殴りつけるような



非道なやつは許せなかった。



それにちらっと



垣間見た組長の恐ろしい顔、



もしかしたら、



あれが組長の



本当の姿なのじゃないのか。



こんな危ない連中と



一緒にいるなんて



考えただけで恐ろしい。



しかし



組を抜けたいといっても



簡単なことではない。



この組ではどうやったら



抜けさせてくれるのだろうか。



抜けさせないと言われたら



逃げるしかないのだろうか。



もし逃げたとして



どこへ逃げればいいのだ。



裏社会の情報網からすれば



どこへ逃げても



探し出されて



連れもどされてしまうだろう。



逃げ出した者には



凄惨なリンチが待ち受けているのだ。



それを考えると



なかなか



言い出す踏ん切りが



つかなかった。



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