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第6話 測候所

編集済みです。

しかし、



どうなってしまうのだろう。



強烈な感電のしびれと



痛みが



体の芯まで浸透し、



全身が



硬直したままだ。



相変わらず



鼓膜が破れそうなほどの



轟音ごうおん



鳴り響いている。



このままの



状態が続けば



巨大なこのエネルギーが



体を



バラバラにしてしまう



のではないかと



強い恐怖を感じていた。



しかし



どうすることも



出来ない。



まったく



身動き出来ない状態で



無重力の中に



漂っているだけだった。



突然、



真っ暗な空間に



どこかの景色が



現れた。



写真だ。



それが



暗闇に縁取られて



空中に浮いているが、



そのうち



それが



立体になってきた。



そして、



その写真が



スッ



とうしろへ引いて



全体が見えるようになった。



あれっ、



週刊誌だ。



週刊誌の写真が



立体になっている。



その写真の上部に



厳冬期(げんとうき)



測候所(そっこうじょ)写真」



とタイトルが



書いてあった。



いつ頃のものなのか、



色あせた



セピア色の



古い写真だ。



雪に埋もれた



細長い木造の建物だが、



まったく



ひとの気配がない。



昔使っていたが



今は



廃屋はいおくなのであろう。



一瞬にして



私はその測候所の状態が



理解出来た。



その男の記憶は



飛び飛びに



よみがえってくる。



不意に



情景が変わって、



その測候所の前に



立っていた。



すでに



陽は落ちて



あたりは暗くなっている。



この人は測候所まで



行ったのだ。



この時期に



危険を侵してまで



こんなところへ



行く必要があるのだろうか。



私は不審に思って



首をかしげた。



ふと



気付くと、



いままで



鳴り響いていた



轟音と強烈な痺れが



消えて



まわりが



静かになっていた。



そして



私はその男の



想念の中に



いつの間にか



引き込まれてしまっている



ようだった。



男の想っていることが



自分のことのように



よくわかる。



暗い測候所の外は



しんしんと



雪が降り続いて



静まりかえっている。



野宿しなければならないのだが、



暗い雪の中で



テントを張るより



この建屋(たてや)の中で



一晩過ごせたら



安全だし、



体も伸ばせて



休まるだろうと



男は思った。



入口に近づいて



引き戸を



開けようと



力を入れるが



鍵がかかっていて



開かない。



どこか



開くところはないか。



扉を探して



開くかどうか



試していると



裏口の引き戸が



動いた。



「おっ、



開いた。」



ホッ



とした想いで



中を恐る恐る



(のぞ)き込んで、



それから



静かに



体を(すべ)りこませた。



長い廊下(ろうか)



ずーっ



と奥まで続いていて、



先のほうは



真っ暗な



魑魅魍魎ちみもうりょう



住家すみかのように



暗黒の闇に



なっている。



あちらこちらの



窓ガラスが



割れていて、



雪が吹き込んでくる。



電球は



天井についているものの



スイッチが



どこにあるのか



わからなかった。



たとえ



スイッチが



あったとしても



電気はとっくに切られていて



くはずもなかった。



得体の知れない者が



出て来るような



気がして、



思わず



引き返えしたい気持ちが



動いたが、



暗い雪の中を



歩いて来た



疲労感が



それを押しのけた。



一瞬、



廊下の先のほうで



ゆらゆらっと



陽炎(かげろう)のように



透明な何かが



ゆれて



消えたような気がして、



ゾクっ



と全身の毛が逆立った。



誰かいるのかと



一瞬思ったが、



でも



気のせいだろうと



思い直した。



しかし



気味が悪い。



油断は出来ない。



窓から入って来る



雪明かりを頼りに、



恐る恐る



中へ進んで行く。



ミシッ、



ミシッ、



忍ばせた自分の足音が



廊下に響いて



反響した。



誰かが



後ろから



ついて来るような



気がする。



足を止めてみたが



うしろを振り返るのが



怖い。



意を決して



勢いよく振り向いた。



異変はなかった。



ホッ



とした。



気を取り直して、



どこかに



寝室があるはずだがと、



手当たり次第



部屋の引き戸を開けて



廊下から



中の様子を見て行くと、



暗がりの中で



かすかに



ベッドらしい物が



見える部屋を見つけて



中に入った。



足元に注意しながら



手探りで



ベッドの



ところまで行くと、



背負っていた



リュックサックをおろして、



中から



小型のランプを



取り出し、



スイッチを入れた。



火がともると、



すべてが



はっきりと見えるようになって、



やっと



落ち着いた。



そこには



木造のベッドが置いてあった。



それに腰をおろすと、



やっと



人心地ついた。



部屋の中は



ほこりが積もって



蜘蛛の巣が



いたる所に張られていて、



天井からは



汚れた裸電球が



ぶら下がっている。



机の上に



インク立てがある。



ペンが置いてあるが



インクが



パリパリに乾いて



固まっていた。



スチールのロッカーは



さびた扉が外れて



床に転がっている。



男は部屋を見回して



しばらく



身じろぎもせず、



じっとしていたが、



「寝袋に入って



寒さをしのぐか。」



独り言を言いながら



立ち上がると、



ベッドの上に



寝袋を広げて、



靴を脱いで



中に足を入れた。



あたりいちめん、



物音ひとつしない。



時々



屋根に積もった雪が



ざざーっと、



落ちる音がする。



寝袋に入ると



体が温まってきた。



不意に



降り積もった雪の中を



登って来た疲れが



どっと



襲ってきて、



ウトウトッ



とした。



わずかな時間だと思ったが、



どのくらい経ったのか。



男は自分のいびきで



思わず



目をさました。



一瞬



ここはどこなんだと



いぶかるように



少しのあいだ



目を動かした。



そして



ここに寝ている訳を



思い出すと



ホッ



としたように



「ふーっ」



と息をはいた。



いつの間にか



寝てしまっていたようだ。



男はしばらく



天井を見つめて



ボーッ



としていた。



ピタン、ピタン、ピタン、



ピタン、ピタン、



何か



音がする。



誰かが



廊下を歩いて来るような、



かすかな音だ。



男は思わず



ギクッ



とした。



背中に



ゾクっ



と悪寒が走って



体が凍った。



全身を耳にして



意識を集中させた。



近づいてくる。



「 靴の音ではないな。



裸足(はだし)か。」



こんな真夜中の



雪山で



誰もいないはずだが、



だれか



いるのか。



足音はかすかだが、



ハッキリ



と聞こえる。



背中に



ゾワーッ



と寒気が走った。



「うわー、



やばいよ。



なにかいる。



お化けか。」



意識が



パニックに陥りそうになった。



耳は



もうその音しか



聞こえない。



突然



ピタッ



と足音がしなくなった。



「ん、



何だろう。 



気のせいか。



なんだか



ビク ビク



しているから、



なんでも



変なふうに



聞こえるんだ。 



こんなことくらいで



ビビるなんて、



おれもだらしが無いな。」 



男は



ひとりで苦笑したが、



しかし



なぜか、



えもいわれぬ不安に



かられた。



そして



体を起こすと



寝袋から



出て(くつ)()いた。 



なにかあったら



すぐ



動きだせるように



しておこうと



考えて、



靴を履いたまま、



また



寝袋に入って



横になった。

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