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第57話 浮遊霊なのか

ヘデルは顔がゆがんで



立ったまま、



固まって気を失っていた。



このイタチの



霊臭れいしゅうなのであろう。



激しい悪臭が霊体を直撃する。



その臭気は



肉体の鼻で感じたときの



程度ではない。



気を失うほど激烈なものだ。



地獄霊集団はバタバタと倒れ、



皆、口から泡を吹いて、



のたうちまわっていた。



「キャハハハハハハ」



マングースのようなイタチが



素っ頓狂すっとんきょうな声を上げて



笑い転げている。



地獄集団のうめき声が



徐々に薄れて行って、



そのうち聞こえなくなると、



あたりに静寂が訪れてきた。



いままで騒がしかった集団が



跡形もなく消え去って、



真っ暗闇のなかに



イタチがポツンと立っていた。



洋服を着たイタチは



あたりをグルッと



油断なく見回してから、



滝を離れて山道を下り始めた。



無踏はイタチのまま



元には戻れないようだ。



「蜘蛛太郎の仕業だな。



とうとう俺を



イタチにしちまいやがった。」



無踏は苦笑したが



イタチ姿も悪くはないなと



内心思っていた。



胸のところにいる蜘蛛は



いままで



自分で名乗ったことはないが



名前は聞かなくても



以心伝心いしんでんしん



自然にわかっていた。



いつのまにか、



私と無踏の意識が



同一化してきて



私の想いが無踏の想いなのか、



無踏の想いが私の想いなのか、



区別がつかなくなってきている。



山奥の道はところどころに



岩が露出して



起伏がありけわしい。



無踏の意識の中に



野生イタチの意識が入り込んで、



山中の微妙な気配も



鋭く感知していた。



イタチはあたりに



気を配りながら



暗闇の中を走って行く。



時々立ち止まると



気配を確認して、



また走りだす。



どのくらい走っただろうか。



イタチは立ち止まって



首をかしげた。



気のせいか、



あたりの気配に違和感を感じる。



「何かおかしい」



イタチは立ち止まった。



そして



聞き耳を立てるように、



しばらくのあいだ



ジッと



動かないでいると、



淡い光りのようなものが



胸のあたりから



出て来たかと思うと



暗闇の中に



スルスルと



差し込まれて行って、



何かを探るように



あちらこちら動かしていたが、



何もその触手に



手応てごたえはなかったのだろう。



やはり気のせいかなと



思いなおして、



それを引っ込めると、



また走り出した。



イタチは闇の中を



飛ぶように走って行く。



突然、



はるか先のほうで



ふわふわっと



白い人影が



横切ったような気がして、



イタチはピタッと



立ち止まると、



傍らの大木の根元に



身をひそませ、



しばらくの間



じっと動かずに



気配をうかがった。



人影は一人だけなのか、



あとはなにも出てこない。



単なる



浮遊霊ふゆうれいだったのか。



しばらくそのままでいたが、



何も出て来る気配は



なさそうなので



様子をうかがうように、



そっとはい出ると



道に出て、



足音がしないように



歩きだした。



かすかなそよ風に



そよいだ木の葉の音以外、



あたりは静まり返って



物音がしない。



ホッとした感じで、



またもとの歩調に戻ると



スピードが増して



風をきるように



走り出した。



そのうち安心したのか



「キャハーハーハー、



キャーハーハーハ」



突拍子もない声を



出し始めた。



イタチは笑っているような、



調子はずれの鼻歌を



歌っていて、



なんだか



わけのわからない声を



出していたが、



上機嫌ではあるらしかった。



そよ風は木々の香を含んで、



すがすがしく、



草や木々の意識から



発信されている波動に、



イタチは自分の意識を



同期させて



意識を解放していった。



意識はどこまでも



広がって行って



自分が



どんどん大きくなって行くのを



感じると同時に、



大地の力が意識に流れ込んで



気力があふれ出してきた。



ふと、



いままで気がつかなかったが、



どこかで、



食事の支度でもしているのだろうか、



まきを燃やしている匂いと



何かを煮込んでいるような、



いい匂いが



うっすらと漂って来る。



誰かがキャンプでも



しているのだろうか。



イタチは空腹を覚えて



腹がなったが、



考えてみたら



モーニングセットのトーストを



食べた以外



何も食べていなかったことに



気がついた。



イタチと無踏と私の意識は



一体と言っていいほど



同化していて、



それぞれの意識の動きは



手に取るように



わかるようになっていた。



イタチは鼻を上に向けると、



鋭い嗅覚で



煙りの正体を探るように



微かな匂いを



しばらくのあいだ



いでいたが、



これ以上嗅いでいても



何かがわかるわけでもないと



気を取り直して



歩き出した。



どうやら



道からだいぶ離れた場所で



焚火たきびをしているのではないか、



と感じられた。



道の脇には草が



伸び放題に生えていて、



草の生い茂っているその先を



見通すことは出来ない。



いったいこんな物騒なところで



何をしているのかと



怪訝けげんな思いもしたが、



考えてみたら



こんなところに



長居ながいをしていても、



ろくはことはない。



早く山を下りたほうが



良さそうだ。



イタチは一目散に走り出した。



一気に走ったために、



だいぶ高度は下がって来て、



そろそろ



町が見えて来ても



いいころであろうと



思ったが、



相変わらず真っ暗闇のままで



木々が黒い影のように



見えているだけだった。



夜で町の明かりが消えていて



見えないのかも知れないが、



もう一息だろうと思って



一休みしたあと、



またゆっくりと歩きだした。



心に余裕が出てきたせいか、



道がだいぶ



広くなっていることに



気がついて、



ようやく



町の入口あたりまで



たどりついたのではないかと、



ホッとした。



やれやれと思いながら、



なにげなく



暗闇の前のほうを見たが、



ぎょっとして目を凝らした。



白い人影が歩いて行く。



それは一目で



霊の存在だということは



見て取れた。



どこへ行こうとしているのだろうか。



不安そうに、



どっちへ行ったらいいのだろう、



というようなそぶりで



自信なさげに



キョロキョロしながら



進んだり立ち止まったりして



歩いている。



何故か興味が湧いてきて、



イタチは相手に悟られないように



夜陰にまぎ



間隔を保って、



そっとついて行った。



霊がこのようなところを



こんな時間に



迷いながら



ふらついているなどということは



決して感心したことでは



ないのではないか。



死んで行き場所が



定まっていない



浮遊霊なのだろうか。



どんな霊なのだろうか。



いろいろと気になって



意識で拡大して見ると、



振り返ったときの



目つきにひど



危険なものを感じた。



黒いスーツを着ているが、



それは血だらけで、



多数の弾丸の穴が



あいていて



刃物で斬りつけられたような



斬り裂かれた跡がついている。



追っ手におびえているのか、



ちょっとした微かな物音にも



すぐに反応して、



手に握っている拳銃を



油断なくかまえると



しばらく立ち止まったまま



周辺の気配を探った。



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