第55話 マングース
急に大蛇の力が緩んで、
ドッと崩れ落ちた。
巻きつけていた胴体から
剣に刺し貫かれた
大蛇の頭が出て来た。
ヘデルは自分で
自分の大蛇の頭を
突き刺してしまったのだ。
それを知ると、
ますます怒り狂って、
地団太を踏んだ。
頭をビクンビクン
痙攣させて、
今にも死にそうなほどの
錯乱状態で
気が変になってしまった。
地獄集団は
ヘデルが間違って
大蛇の頭を
刺してしまったことに
狂喜して興奮はさらに極まり、
全体がドッとどよめいた。
「ふん、まったく
バカなことをやってやがる。
てめえの蛇を
てめえで殺っちまっちゃあ
どうにもなんねえや。
やっぱり
あいつは完璧なバカだぜ。」
バドグが
ミヤナのほうを向いて言った。
ミヤナはちらっと、
バドグを見ながら
「あたりめえだ。
あたしゃはなから
あいつは能無しだって
見抜いてたよ。
あんなんじゃ
そのうち自滅するさ。」
と吐きつけるように言った。
「あーっ」
声が上がった。
大蛇の体がほどけて
中から
無踏が出て来たのかと
全員が思ったが、
そこには
スラリとしなやかに伸びた体に
服を着た動物が立っていた。
毛がキラキラと輝き、
目がクリッとして
かわいい顔をしているが
口から覗いている牙は
鋭く尖っている。
「マングースだ。
マングースが出て来たぞ。」
その場が驚きの声を上げた。
マングースは
とぼけた顔をして
ヘデルと地獄集団を
眺めていたが
何を思ったか、
毛に覆われた指で
ヘデルをさして
顎を
クイッ、クイッと上げると
いかにも馬鹿にしたように
歯を剥き出し、
鼻を広げ、
目をむいて挑発した。「
あーっ、
あっ、あっ、きっさまーっ、」
ヘデルは髪の毛を逆立て、
全身を震わせながら、
マングースに突進した。
ヘデルは突進はしたが
頭を刺し貫かれた大蛇が
グッタリと
横たわっているために、
それを引きずって
思ったように動けない。
マングースは
ますます馬鹿にした顔をすると
舌をベロッと出して、
いーっと笑った。
ヘデルはまたカーッと
頭に血がのぼって、
ギョロギョロした目で
肩を上げ下げしながら
息をしていたが
「ぎゃー」
突然奇声を上げながら
剣を振りかぶると
引きずっている大蛇の
胴体の根元を
一刀のもとに斬り落とした。
地獄集団がドーッと沸いた。
身軽になったヘデルは
マングースのほうに向きなおると、
殺気を放って飛びかかり、
剣で鋭く斬り裂いた。
と思ったが
マングースの姿はなくなって、
「ギャハハハ」
どこからか
愉快に笑っている声がきこえた。
ヘデルは
あたりをキョロキョロ
みまわしたが、
マングースの姿を
見つけることが出来なかった。
観衆から
「後ろだー。」
「のろまー。」
「ばか野郎しっかりしろー。」
罵声が飛んだ。
ヘデルはその声に
ピクッと動きが止まって、
クルッと後ろを振り向いた。
野次った声のほうに
カッと目を見開らくと、
剣を振り上げて走り出した。
観衆は慌てて
我さきに逃げ出そうと
大混乱になって
ひしめき合いながら
口々に
「誰だ。
バカな野次を飛ばしたやつは。
余計なこと言いやがって。」
「あいつにあんなこと言えば
どうなるかぐらいわかるだろう。
まったくロクなやつがいねえ。」
みんなはヘデルが怒ると
決して許さないことを
知っていたので
必死で逃げ惑った。
ヘデルは逃げる地獄集団を
追いかけ回していたが、
おかしくてたまらない
というように
大笑いしている
マングースに気づくと
我に返って立ち止まった。




