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第5話 珠(たま)

編集済みです。

見ると



須弥壇(しゅみだん)の前に、



ひかっている(たま)



呼吸しているように



震動(しんどう)しながら



浮いている。



そして、



それを包むように



ガス体が取り巻いて



若い男の形になっていた。



青、赤、ピンク、



ガス体のひかりの色が



くるくる変わって、



いろいろなものが



その人の回りに



うつし出されてくる。



それは



その人が



いま意識で想っているものの



映像なのであろう。



香油の強い(かお)りが



あたりいちめんに



たちこめて、



頭の(しん)



(しび)れてきた。



やおら、



狐に似た



面長おもながの僧侶が



バチを手に取った。



そして



大太鼓の前に



ピタッ



と構えると、



ひと呼吸したあと、



ゆるやかに



叩きだした。



堂内の空気が



ビリビリ



振動して



衝撃波が全身を打つ。



そして



その音が



徐々に



強さと勢いを増していくと、



その僧侶が音に合わせて



般若心(はんにゃしん)(ぎょう)



となえ始めた。



かーんじーざい



ぼーさー、



ぎょーじん はんにゃー



はーらーみーたーじー、




ダン、ダン、ダン、



ダン、ダン、ダン、ダン、




ダン、ダン、ダン、ダン、




読経(どきょう)



徐々に



勢いがついてきて、



太鼓の音も



強くなってきた。



太鼓の音には



人の心を支配する力が



あるのだろう。



強烈な音が



腹に響いて、



その波動のなかに



すっぽり



飲み込まれ、



意識が朦朧(もうろう)としてきた。



私は(あやつ)られた



夢遊(むゆう)病者(びょうしゃ)のように



ぎこちなく、



足元がふわふわと



浮き上がったように



なりながら、



須彌壇の前にいる



若い男に



近づいて行った。



しかし



連れて来てくれと



言われたものの、



どのようにすればいいのか、



戸惑って



立ちすくんでいると、



突然



自分の体が



何かの力に



支配されたように



ググッ



と動き出した。



そして、



その男の背中を



うしろから押して、



轟々(ごうごう)



音をたてて



燃えている



護摩木の前まで



連れて行くと



立ち止まった。



どうなっているのか、



驚き



戸惑いながら



「ここでいいのかな。」



と気を抜こうとした



途端



「その人を火の中へ



押し込みなさい。」



また



波動が意識の中に



響いて来た。



「えっ」



何を言っているのだろう。



私は人を



火の中へ入れるなんて



考えられなかった。



そんなことをすれば、



焼かれて



苦しみもだえながら



死んでしまうだろう。



先ほどから



この人の不安な想いが



手に取るように



伝わって来るのを



感じる。



しかし



自分の想いを無視するかのように、



また



勝手に体が動いて、



火から逃れようと



もがいている男を、



ウム



を言わさぬ



強い力で



燃えさかる護摩木の中へ



押し込んでしまった。



思ってもみなかった



自分の行動と力に



驚いたが、



火の中に押し込まれた



その男が



「あーっ」



と一瞬苦しそうに



体をよじったが、



「あれっ」



というような



表情をした。



そのあと



ホッ



とした顔で



何事もなかったように



平然と



立っていることに



また驚いた。



熱さを感じなかったのだろう。



しきーそくーぜーくうー



くーそくぜーしき 



やくぶにょぜー……



ダン、ダカダカダン、



ダン、ダカダカダン、



ダン、ダカダカダン




太鼓と読経の勢いが



ますます



激しくなってきた。



突然、



須弥壇の周りに



様々な色の



ひかりの珠を



胸の真ん中に抱いた、



たくさんの人々が



現れてきた。



そして、



それぞれが



いろいろなことを



勝手に想っていて、



ざわざわと



ざわめいた波動が



伝わってくる。 



太鼓と読経が



鳴り響いていても、



人々の想いの波動は



はっきりと



意識に入りこんでくる。



それぞれの



想念が錯綜(さくそう)して



場が(さわ)がしく、



太鼓と



読経が



益々(ますます)激しくなった。



全員がだんだん



トランス状態になって、



興奮のルツボと



化してきた



そのとき、



突然、



「キーン」



とかすかな



金属音がした



と思った途端、



「グァーン」



耳をつんざくような



大音響が響き渡って、



全体が



真っ暗で



大きな超高圧エネルギーの



チューブの中に



すっぽりと



飲み込まれてしまった。



一瞬の間に、



体が超高圧の



電流に感電して、



全身をのけ反らせ、



ジーン



と痺れて



硬直したまま



固まってしまった。



頭はグラグラして



目が回り



身動きも



出来ない。



「あーあああ」



思わず



悲鳴にも似た声が



出てしまう。



気が付くと



私も



そのまわりにいる



ガス体の人々も、



そのチューブの中で



同じように感電して



全身を



のけ反らせていた。



見上げると、



そのチューブの



延びている



はるかかなたの



上のほうに



ぽっかりと



丸い穴が開いていて、



そこに



光りが見えていた。


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