表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/136

第49話 念力

ザリエルは嘲笑あざわらうような



勝ち誇った顔をしていたが、



相手がびくともしない



ということがわかってうろたえた。



ジワジワと不安がつのり、



これはかなわない相手かも知れない



ということが肌で感じられて、



しばらくの間、



次に打つ手を考えていたが、



意を決したように突然



「その弓を貸せ」



そばにいる兵士に声を掛け、



持っている弓を受け取って、



キッと



摩利支天を睨みつけると、



矢をつがえて



キリキリと



引き絞った。



目もくらむ強い光線が



容赦ようしゃなく瞳を襲って来る。



目を細めて、



このあたりか



というところで弓を放った。



矢は風切り音を残して



一直線に飛び去ると、



あっという間に



摩利支天まりしてんに当たった。



と思った瞬間、



跳ね返った矢が



ザリエルめがけて



うなりを上げながら



飛んで来た。



顔をゆがめながら笑おうと



思っていた矢先、



ザリエルの顔が



ヒョットコのようになって、



皮一枚でかろうじて



体をひねって矢をかわした。



矢は気の毒にも



ザリエルの後にいた



兵士の胸を貫通かんつうして、



兵士は一言



「うっ」っと



うめいて、



どうっとその場に倒れてた。



これはいったいどうしたことか、



信じられない。



同じところへ



ブーメランのように帰って来るのか。



ザリエルはいよいよ、



かなわないのではないかという



想いを強めてしまった。



弓をれば



また跳ね返って来ると思うと



弓は使えない。



あれこれ考えた末、



体力と精神力を使うが、



あれしかないなと思うと、



九字くじを切り



ぶつぶつと



何かをとなえて



意識を集中しだした。



摩利支天は



何事もないかのように



半眼はんがんのまま



ザリエルの意識の動きを



見ているようだった。



ザリエルは必死の形相で



何かをやっている。



尻尾しっぽを巻いて逃げることは



断じて出来ない。



なにがあっても



部下達を失望させることは



あってはならないのだ。



一度信を失えば、



二度と取り戻せないだろう。



ザリエルは



自信に満ちているように



見えていたが、



内心は



部下達の目を恐れて



虚勢きょせいを張っているだけのようだった。



部下達が自分に愛想づかしをして



離れて行ってしまうのが恐くて、



踏ん張るしかなかったのだ。



言葉を唱えながら



集中しているうちに



汗が滴ってくると、



空間が



グラリと



歪んで



バリバリッと



裂け目が現れた



かと思った瞬間、



摩利支天めがけて



物凄いスピードで



突進して行った。



ザリエルにとって



部下達は道具に過ぎなかった。



自分について来させるためには



どんなことでもする。



言うことを聞く者には



あめを与え、



逆らう者には



苛烈かれつきわまりない制裁という



むちを使って



力で支配していた。



強者を恐れているから



ついてくるのであろう。



ここで



弱さを見せることは出来ない。



どう戦うかということが



その部下達がついて来るかどうかを



問われる一戦でもあったのだ。



おまけに相手は女だ。



女に負けたとなれば



いい笑い物だ。



ここは何がなんでも



いいところを



見せなければならない。



空間が



猛スピードで裂けて行った。



と思ったが



摩利支天の手前で



ピタリと



止まってしまった。



「どうしたんだ」



全員がかたず固唾を飲んで



時間が止まったように



動きが固まったまま凝視している。



ザリエルも予想外の事態に



どうしていいかわからず、



阿呆あほうのように



口を開いたまま



立ち尽くしていた。



裂け目は



ギシギシと



音を立てて



何かの力に抵抗していたが、



その音が悲鳴のように



大きくなってきたかと思った途端、



グォーン、グォーンと



得体えたいの知れない音とともに



裂け目が逆に



ジリッ、ジリッと



さからいながら



閉じ始めてきた。



兵士達の中から



「うわー」っという



驚きの声が上がった。



ザリエルは全身汗まみれになって



「うぅん、うぅん」



うなりながら



力を振り絞って



念を増大させていたが、



摩利支天は



相変わらず涼しい顔で



びくともしない。



ザリエルは



あまりの力の差を見せつけられ、



屈辱感で自分がみじめになってきた。



念を込めても込めても



押し返される。



いよいよ



限界に近いほど



力を使い果たしてきて、



極限でふっと



念力が揺らいだ途端、



力の均衡きんこうが崩れた。



次の瞬間、



グァーンと



割れ目がザリエルめがけて



飛び掛かって来た。



「あっ、」



と思う間もなく、



パクンと



貝のから殻が閉まるように



閉じてしまった。



「あー」



兵士達がまた驚愕きょうがくの声を上げた。



ザリエルは



空間に体を半分



食いつかれたようになった。



頭と胸が空中に浮いていて、



身動き出来ずに



ジタバタ



腕をもがきながら、



背中にはえているコウモリの羽が



力無くバタついて



顔は屈辱で歪んだまま



摩利支天を睨みつけている。



ザリエルは空間の割れ目に



胸から下を閉じ込められてしまったのだ。



穏和な慈愛に満ちていた



摩利支天の目が



突如キッと鋭くなると、



ゴーッ



と音がしたかと思うほどのもの



すごい怒りの炎が噴き上がり、



クルッと



顔が入れ代わった。



「あー、



摩利支天の顔がー」



ザリエルは思わず心で叫んだ。



眼をカッと見開いて、



口が飛び出し、



牙がニョキッと飛び出している



猪のような形相に変わったのだ。



「皆の者、



突撃ー、



やっつけておしまい。」



摩利支天が猪の大群に



鋭く号令をかけると、



いきり立って



待ち構えていた猪達が



鼻息も荒く



「ブヒブヒブヒー、



ビャービャービャー」



口々に叫ぶと



暗黒軍の兵士達に向かって



一直線に猪突猛進、



濛々(もうもう)と土埃を上げて



弾丸のように突っ込んで行った。



兵士達は口々に



虚勢を張って何か叫けんで、



武器を構えながら



戦闘体制に入ったが、



低い位置から突進して来る



猪達の気迫に押され、



恐怖を感じていた。



猪達は迷いもなく、



あっという間に



一直線に突っ込んで来た。



瞬く間に先頭集団が



なすすべもなくはじき飛ばされると、



大混乱になって



ドミノ倒しのように



兵士達が崩れ落ちて行く。



兵士達が必死で猪達を攻撃しても、



ことごとく



武器がはじ弾き返えされて、



兵士達の体を襲って来る。



兵士達は自分が振り下ろした武器で



自分を傷つけられて、



バタバタと



倒れてしまうのだ。



「あー、



ひでーことしやがる。



本当に女神かよ。



あんなおっかねえ顔して、



ありゃあ悪魔だぜ。」



ザリエルは自分をたなに上げて、



混乱しながらも



摩利支天を見てそう思った。



摩利支天は半眼のまま



静かに成り行きを見守っている。



ザリエルはあくまでも



逆らいの気持ちを



捨ててはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ