第41話 脱糞
アルタミラは
我慢出来なくなって
建物の中に
トイレをさがしに入って行った。
建物の中から素通しで
外の様子が見えている。
「突撃ーっ」
ザリエルが上げていた手を
振りおろしながら
ひと声号令をかけると、
ゴーッ
というどよめきとともに
暗黒軍の全体が
怒涛の流れとなって
押し寄せて来た。
「あー」
アルタミラは思わず叫んだ。
バリアが張ってあるこの中にいれば
大丈夫だとわかってはいるが
大軍団が一斉に
押し寄せて来る迫力に
圧倒されてしまっていた。
しかし、トイレがない。
霊界では肉体を持っていないのだから
トイレは必要ないのだが、
本人の意識が
便意をもよお催して
それがあると信じてしまうと
具現化してしまうらしい。
アルタミラはうろうろと
手当たり次第ドアを開けて
上の階から下の階まで
用をたせるところを
さがし歩いていた。
ザリエルは先程から
意識をズームにしていたが、
相手の司令塔の中に
あたふたと落ち着きなく
動きまわっている者が
気になってしかたがなかった。
「間抜けな野郎だ。
ああいうやつは許せねえ。」
何かひねり潰したい衝動で
苛々感が募ってくる。
ザリエルは
うろたえたり
慌てふためいたりして、
弱く劣っていると
思われる情けない姿を見ると、
急に強い差別心に
意識が支配されて
残忍な想いが
湧き上がってしまうのだ。
アルタミラは
いよいよ我慢が出来なくなって、
「何でトイレがないんだ。
ここにトイレがあったらいいのに。」
と願ったその途端、
トイレが浮き出て来た。
願うと出て来るようだ。
「あー、助かったー。
トイレがあったじゃないか。
こんな所にあったのか。」
待望のトイレが
すぐ目の前に
横たわっているのだ。
こんなにトイレが有難いと
思ったことがないほど有難かった。
ホッとして
お腹を抱えながら
ズボンをおろしかけた
と同時に、
間に合わず
思い切り脱糞してしまった。
どういう加減でか、
思いもよらず
お腹に力が入ってしまったらしく、
ブリンと
すごい勢いで飛び出した。
一本にのびた糞が
クルクルと回転しながら
飛んで行って部屋の空間に
ペタリと
貼りついてしまった。
途端に
バチバチバチと
火花が飛び散って
警報音が全館に鳴り響き渡った。
「脱糞です。脱糞です。脱糞です。」
情け容赦もない
無味乾燥な機械的音声が
大音響でいつまでも鳴り続けている。
アルタミラは何が起こったのか
見当もつかなかったが
自分がなにか大変なことを
してしまったらしいことは理解した。
「大変だ。
えらいことをしてしまった。
おれはどうして
こんなことをしてしまったんだ。
取り返しがつかない。
みんなに迷惑をかけてしまった。
なんでおれはいつもこうなんだ。」
アルタミラは
恥ずかしさと情けなさと
申し訳なさで
頭を抱えて泣きべそをかいていた。
心が動転して
どうしていいのか
まったくわからない状態のまま
茫然自失の状態で
立ちすくんでしまった。
何もないと思っていたのに
何かがあったのだ。
見えないように
仕掛けがしてあったらしい。
「博士、バリアに異常が発生しました。
バリアの一部が破けています。
そこを相手に気付かれたら
危険なことになります。」
バリアを監視していた
チンゲンが報告した。
「博士、大変です。
アルタミラ君が
あんなところで
何かしたようです。」
アルタミラが建物の中に
いることに気付いたアルホンスが叫んだ。
「一体何をしたんだ。
あそこはバリア発生装置がある部屋だぞ。」
博士が目を剥いて意識を向けると
一本棒の糞が
配線基盤の一部に
貼りついたままショートしていて、
アルタミラがオロオロと
頭を抱えていた。
「まったく、
何てことをしてくれたんだ。
どうしようもないな。
アルホンス君、
急いで、あそこの基盤を
交換してくれないか。」
「はい、でも少し時間がかかります。」
アルホンスが
部品倉庫へ一目散に走った。
戦場は激戦になっていた。
サイボーグは
相手の意識を読んで
それに応じた動きをするように
作られている。
相手がフェイントをかけて
騙そうとしても
本心を読んでしまうので
ごまかせない。
右を打つと見せかけて
左を打っても
サイボーグはすでに
左に来ることはわかっていて
左で待っていた。
だから暗黒軍の兵士達が
武器を操っても
サイボーグ達を倒すことが出来ない。
右腕は自由自在に
様々な武器に変化する。
相手が剣で攻撃して来ると
サイボーグの右腕は
剣になって応戦する。
隙を見つけると
突然、
腕が変化して
猫パンチと股打ち電撃棒で
兵士達が感電して
目の玉が飛び出し、
全身の毛が逆立って
バチバチと
青い火花を散らしながら
真っ逆さまに地獄へ堕ちて行く。
剣を振りおろすと
サイボーグは
左腕に楯を持っていて、
剣がその楯に
貼りついて
取れなくなってしまう。
兵士が剣を手から離すと
剣も楯から離れ落ちた。
力で押し倒すと
ゴロンと
倒れながら
お尻からウンチ蛭弾が発射されて
兵士達が蛭に吸い付かれる。
戦場のいたるところで
ビチビチ、ビチビチと
弾を装填する音が
鳴り響いて来る。
蛭に吸い付かれて
意識を失った兵士達は
自分達の住家の地獄に
堕ちて行ってしまうのだ。
暗黒軍はサイボーグ達を倒せない。
兵士達の意識は
ことごとく読まれてしまって
瞬く間に
地獄に送り返されてしまう。
ザリエルは焦っていた。
ふと、意識をガリレ博士に向けた。
博士の意識が
ザリエルの中に入り込んで来ると、
博士がバリアの破損を
危惧していることに気づいた。
「バリアがあの馬鹿のお陰で
破けたのか。
サイボーグを倒すことより
別動隊を迂回させて
司令塔を攻撃したほうがいいな。」
ザリエルはイシン中隊長に
サイボーグ隊を大きく迂回し、
バリアの破けているところを
捜し出して
そこから司令塔を
攻撃するように命じた。
イシン中隊長は
五千人の別動隊を引き連れて
サイボーグ隊から
大きく迂回するように移動し始めた。




