第4話 護摩
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目の前で繰り広げられている光景は
いったい
なんなのだろう。
夢なのか、
現実なのか。
いったい
何が起こっているのか。
頭が混乱して、
ただ
呆然とするだけだったが、
不思議なことに
恐怖心はまったく
湧いてこなかった。
「おやっ」
私はまた眼を疑った。
いつの間に現れたのだろう。
太鼓の前にも
黒い衣に
黒い袈裟をまとった、
細面で
あごのとがった僧侶が
半眼のまま
微動だにせず
座っている。
なんでこんなに
不思議なことばかりが
起こるのだろう。
私は信じられない想いで
護摩壇に眼を移した。
しゅう君が
高く組み上げたてっぺんに
最後の護摩木を
置くところだった。
護摩木を置いたしゅう君は
ギョロ目に
ちょこんと
頭を下げて合図すると
護摩壇を降りて、
お堂の隅の暗がりに
姿を消した。
ギョロ目の僧侶は
しばらく目を閉じて
何かを念じたあと、
静かに目を開くと、
どういう言葉なのか。
意味のわからない言葉を
唱え始めた。
そして
ロウソクの炎に
細長く
折り曲げた和紙の先をかざし、
火をつけて、
組上げられた
護摩木の根元に
ゆっくりと
火を移した。
始めのうちは弱々しく
かすかな
火だったが、
そのうち
パチパチ
音をたてて
火が徐々に広がって行く。
しばらくすると、
火の勢いが増して
だんだん
燃えかたが
激しくなってきた。
ギョロ目の僧侶が
意味不明の言葉を唱えながら
柄杓で
次々に香油を
撒いていく。
火はますます強くなって、
炎と煙りが
勢いよく立ちのぼった。
その熱に
照りつけられて
顔が熱くなってくる。
そのうち
火が
全体を覆って、
炎が激しく
渦を巻いて
噴き上がり始めた。
「そこの須弥壇の前にいるひとを
こちらに連れてきておくれ」
突然、
意識の中に
言葉ではない
何かが響いてきた。
私には
須弥壇という
言葉の意味は
まだ
わからなかったはずだが、
意識の中に
送られて来た波動には
言葉の意味まで
明確に
伝たわる
何かがそなわっていた。