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第39話 電撃棒

時空を抜けると



ザリエル達は



広い道路が



一直線に



延びているところに出た。



両脇に



大きな銀杏いちょうの並木が



続いている。



そこは



木々に囲まれた



鉄筋の建物が



点在していた。



たぶん



研究所なのだろう。



その間を



林が仕切っていた。



建物と建物の間には



田畑が広がり、



小川がその中を流れて



一面緑にあふれている。



そよ風が心地よく、



明るい太陽の光りが



降り注いでいる。



見渡すと



はるか遠くに



ひときわ目立つ



大きな建物が見えた。



「馬鹿野郎。



落ち着け。あせるな。」



ザリエルは



飢えと渇きをこらえきれずに、



自分勝手に



先を争って



出ようとする兵士達を



テレパシーでなだめながらも、



自分自身



飢えと渇きに



さいなまれていた。



ふと見ると小川が目に入った。



途端に



我慢の限界に



達していたザリエルが



真っ先に



小川に突進して



飛び込んだ。



そして



むさぼるように



水を飲んだ。



川幅が



それほど広くない川だから



大軍団が



飲み終えるには大変だ。



押し合いへし合いの中では



殺し合いが始まってしまう。



そんな中で



兵士達全員も



腹が異常にふくれるほど飲んだ。



しかし



渇きが取れたわけではない。



どうやっても



飢えと渇きから



逃れることができないのだ。



でもそれを満たそうと



必死にもがくしかなかった。



渇きの次は飢えだ。



「あ、桃だ。」



どこかで声がした。



「なに、どこだ。」



「くそ、



自分だけで食いやがったら殺すぞ。」



一人が森の中に桃の実を見つけて



勢いよく飛んで行った。



それを見た兵士達が



後を追った。



果樹園を見つけたのだ。



軍団の触手が



それに向かって



伸びて行く。



あっという間に



桃の実が



食べ尽くされてしまった。



食べ尽くしてしまえば



そこに用はない。



食いそびれた者は



怒りが収まらず、



手当たり次第に



周りの者に斬りつけた。



ザリエルはかまわず



再び進軍を始めた。




そして、



移動して行くと



左方向の森の切れ目から



緑の絨毯が



敷き詰められたような



麦畑が続いている先の



小高い丘の上に



住宅街が見えてきた。



その途端、



兵士達の制御が



難しくなった。



我慢が限界に達していた。



「あそこに食い物があるぞ。」



「我慢できねえ。



腹が減りすぎて死にそうだ。」



兵士達の欲求は



ザリエル自身も同じだった。



我慢出来なかった。



「よし、行くぞ。」



ザリエルは



進行方向を




住宅街の方へ変えた。




そして



兵士達を



浮かせている



エネルギーのフィールドを



全開に広げると



大軍が



ザーッと



広がって展開した。



と思うと



ドーッと



いっせいに



暗黒軍団が動き出した。



まるで巨大なアメーバが



住宅街を



飲み込んで行くような様だ。



ここの住人達は



まだ



異変に気づいていなかった。



しかし



暗黒軍団は



怒濤どとうの勢いで



包囲して行く。



こうなっては



住民達に



逃げ場はなくなった。



短時間で



住宅街は完全に



暗黒軍団に



埋め尽くされた。



一方私が



そのひときわ大きな



建物のところに



集まっている人々に



意識を合わせると、



瞬時にズームになって、



その場に居合(いあ)わせるように



目の前に現れて来た。



「ガリレ博士、



時空研究所から、



このあたりの空間に



しばらく前から



異常な(ゆが)みが



生じている。



何かが



侵入しようと



しているのではないかという



報告があって、



あれから



だいぶ時間が()ちましたが、



何も目立った異常は



ありませんね。」



若い学生のような



感じがする



角刈りの



研究員らしい男が、



脳天気な顔をして



ぼさぼさ頭に



丸い眼鏡をかけ、



鼻の下に



チョビひげを生やした



科学博士らしい



年配の男に話しかけた。



「うむ、



何かが時空の壁に



力を加えているようだったがな。



時空研究所は



そのエネルギーの量と



時空の壁の強さから



破壊時間を



割り出したのだろうが、



それが



正確だったのかどうかだな。



まあ、



待っていれば、



何かが起こるかもしれないし、



何も起こらないかもしれない。



どうせ、



たいしたことではないだろう。



コーヒーでも飲んで



待つとするか。



ハッハッハッ」



博士が事もなげに答えて笑った。



「でも博士、



何かあったら



大変ですから



実戦用の霊体サイボーグ



の数をもう少し



増やしておきましょうか。」




若い研究員が



心配して言うと、



「そんなに



心配することはないだろう。



この実験用のものは



今までのものより



格段に能力が上なのだ。



今回開発した



ウンチ蛭弾(ひるだん)だが、



これは



お尻から発射された



ウンチの形の砲弾(ほうだん)



相手に当たると



(ひる)のように吸い付いて、



相手のエネルギーを



吸い取っちゃうのだ。



そして



弾を装填(そうてん)するとき



ビチビチと



(いや)な音をたてる。



心理作戦だな。



そして、



その(すき)をついて



攻撃すれば



相手を倒すことが



出来るということだ。



それで私は



ウンチをひるということと、



蛭が吸い付くということを



()けて名前を付けた



というわけだ。



あはははは。



おもしろいだろう。



人はウンチが飛んでくると



(あわ)てて(ひる)むものだ。



ん、



ここにも



(ひる)が出てくるな。



ひるが三つも掛かっているぞ。



たいしたものじゃないか。



おまけに、



倒れたり転んだりすると



普通は不利になるのだが、



これは逆に、



それが有利になるのだよ。



んー、それから



「猫パンチ股打またう



電撃棒(でんげきぼう)



これは顔にパンチして、



同時に



下半身から



急所を(ねら)って



下から電撃棒が振り上げられる。



というものだ。



これは()くぞー。



そのほかにも



秘密兵器が



いろいろ仕掛(しか)けてあるのだよ。



だから



いま待機させている



実戦用ので十分だろう。



アルタミラ君、



心配はいらんよ。」



博士は自慢げな顔をして言った。



「うわー、くっだらねー。



まるっきりアナログじゃん。



こんなので勝てるのかよ。



あっ、



すいません。



つい思ってしまったものですから。」



アルタミラと呼ばれた研究員は



(あわ)てて(あやま)った。



霊界では思うことは



言葉に出してしゃべることと



同じことらしい。



肉体がないから



隠すことが



出来ないのだろう。



アルタミラは止めようとしたが



思うことは



止められなかったのだ。



ガリレ博士は



ピクリと目が(すわ)って



アルタミラを



横目で(にら)んだ。



「アルタミラ君、



きみはまだ



実戦というものが



よくわかっていないのだ。



デジタルだからいいって



いうものじゃないのだよ。



アナログのよさ



というのもあるのだ。



まあ、



思うことは



止めることが



出来ないのだから



仕方がないのだがな。」



アルタミラは



ばつの悪そうな顔をして



小さくなっていた。



しかし、



霊界の科学者達の世界も



意識のレベルで



下の段階から上の段階まで、



世界が無数に



別れているらしいのだ。



意識が上のほうの段階の



世界では



知識と技術は



想像を絶する(いき)



(たっ)しているが、



意識が低い段階の世界では



知識も技術も



まだまだ低いらしい。



ザリエルが入り込んだこの場所は、



あまり上のほうの段階では



ないように感じられた。



しかし



「この世界にも



コーヒーがあるのか。」



私は妙に



感心してしまった。



あの世には



この世にあるものは



すべてあるらしい。



この世に



まだないものまで



あるようなのだ。



この世にある物は



すべて



あの世にある物の



写しらしいので、



コーヒーくらいあって



当然のことなのだろう。 



「グアーン、グアーン、グアーン、



侵入者です。」 



突撃、



不安感をつのらせる



警報音が響き渡った。




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