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第37話 維持部隊

「おやっ、何だ。」



遠くの方になにやら



奇怪な大集団が見える。



そのいたるところから



真っ黒なもやが立ち昇り、



すごい数の群衆が



ひしめき合って



こちらに向かって来る。



「なんだ、あれは」



維持部隊の一行にとっては



いまだかつて見たことがない



怪しげな群衆だ。



こんなことは初めてだ。



緊張感が走った。



それぞれがその様子を



いっせいに



意識で引き寄せて拡大した。



霊界では



意識を集中して想うと



その通りに現実化するらしい。



望遠鏡をのぞいたように



軍団が拡大された。



「あっ、これは」



全員が息を飲んだ。



それは予想もつかないものだった。



考えの甘さを後悔した。



「これはひどい、



ここは地獄ではないと思っていたんだが、



地獄だったのか。」



隊長のサバスも



言葉を失った。



まさに牙を生やし、



体そのものが



隈無くまなく青黒い鋼鉄のよろいと化し、



全身から炎を噴き出している



ザリエル軍団による



無差別殺戮の真っ最中だったのだ。



剣をひと振りするだけで



すべてのものを



一刀両断にするほどの



百戦錬磨の悪魔軍団だ。



今の維持部隊で



太刀打ち出来る者は



ひとりもいないだろう。



「これじゃあ



とてもかなわないぞ。



どうしたらいいんだ。」



隊長サバスは絶望的になっていた。



兵士の数と武器の性能は



維持部隊の比ではない。



「これでは殺されに行くようなものです。



逃げましょう。



絶対勝ち目はありません。



無理です。」



いつもおどけているホンスが



怖気おぞけをふるって



隊長に言った。



「でも維持部隊が逃げたら



この世界はどうなるんですか。



われわれの使命は



人々を守ることなんですから。



見捨ててしまっては



役目が果せませんよ。



なんのための



維持部隊なのか



わからなくなります。」



生真面目なカバルが言った。



「大至急本部に連絡して、



全部隊を送ってくれるように



頼んでくれ。」



隊長サバスは



副隊長イジョンに命令した。



「森に隠れているしかないな。」



サバスは部隊を



森の中に展開して



ひそませた。



援軍が来るまで動けない。



維持部隊は



ザリエル軍団から



だいぶ距離を取って



森の中に陣を張り、



様子をうかがっている。



ザリエルは



維持部隊が隠れて見ているのは



気配ですぐにわかった。



距離が離れていても



意識で自由に



引き寄せることが出来てしまう。



維持部隊が



ザリエル軍団の巨大さと、



見るからに狂暴な姿を見て



恐れをなしている



と言うことを



ザリエルは真っ赤に燃える目を



まぶしさで細めながら、



その想いを感じ取っていた。



そして出て来るのを



先ほどから待っていたが、



全く動く気配がないと見ると、



「ウガーッ」



と鋭い牙をき出し、



ひと声吼こえほえた。



ザリエルからすれば



戦うまでもないことだったが、



我等にやいばを向けようと



様子をうかがっている



維持部隊は、



顔の辺りで



血を吸おうと



すきをねらっている



蚊のようで



かんにさわった。



その咆哮ほうこう



攻撃の合図と聞いた兵士達が



ついに



維持部隊目がけて動き出した。



恐怖で動揺した維持部隊は慌てた。



今攻撃されたらひとたまりもない。



援軍が来るまで



何とか食い止めなければ。



「弓隊は前へ出て



横に広がれ。



合図があったら連射しろ。」



隊長サバスは



ボーガンの射手を等間隔に並べ、



五人一組にして



連射態勢を取った。



そして



敵が射程距離に



入って来るのを待った。



援軍はまだか。



しかし



今はやるしかないのだ。



敵がどんどん近づいて来る。



ガチャガチャと



鎧がこすれる音が大きくなって



射程内に入って来た。



しかし



はやる気持ちを押さえて



ギリギリまで引き付けた。



「撃て」



樹木の陰から



いっせいに矢が



機関銃のように放たれた。



矢は鋭い風切り音を残して



休みなく飛んで行く。



「タッ、タッ、タッ、タッ、タン」



「タッ、タッ、タッ、タッ、タッタン」



矢は立て続けに



ザリエル軍団の



最前列の兵士の体に



音を立てて突き立った。



ザリエル軍の動きが



ピタッと止まった。



「やった。」



手応てごたえがあった。



「そのまま撃ち続けろ。」



サバスは叫んだ。



矢が体に刺さった兵士達は



一瞬苦痛の表情をするが、



そのあとすぐに



何事もなかったような顔で



立っている。



全身鎧と化した体に



矢が中まで通らないのだ。



すると



ザリエル軍団の先頭が



昇り龍のように



上の方へ



浮きあがり始めた。



そして、



全体が太い胴体となって



上空へ浮かび上がった。



そして今度は



それがイナゴの大群のように



伸びたり縮んだり



広がったり塊になったり



しながら



上から焦らすように



ゆっくりと



維持部隊に迫り始めた。



ザリエルは軍団の隅々まで



無駄なく正確に動かしている。



維持部隊は



矢を空に向けて連射し出した。



「援軍です。



援軍が到着しました。」



突然大きな声がした。



押され気味の維持部隊は



援軍と聞いて



にわかに活気づいた。



「おお、待っていたぞ。」



隊長のサバスが



安堵の声を上げた。



すぐに各配置を増強して



迎え討つ態勢を整えた。



「くそー、すげえ奴らだ。」



テラソが歯がみして言った。



「こいつらを



ここで食い止めておかなければ



この世界はお仕舞いだぞ。」



「ちげえねえ。」



おどけ者のホンスも



同じ想いだった。



ザリエルは上空から



維持部隊の援軍が到着して



規模が拡大したのを見ると



ニヤリと不気味に笑った。



そして



維持部隊に向かって急降下した。



あわてた部隊から前にも増して



矢が隙間のないほど飛んで来る。



「ぎゃはははは」



ザリエル軍団は



おかしくてたまらない様子で



腹を抱えて笑い転げていた。



ザリエルは幾度となく



維持部隊に



接近したり離れたりを



繰り返したが、



そのうち



上空にとどまったと見るまに



そのまま



「すーっ」



と軍団を空全体に広げた。



「ああ」



維持部隊は見上げて絶句した。



何をする気だ。



「ぎゃはははは、



ぎゃはははは、



ぎゃはははは」



上では



けたたましい笑い声が響いている。



「ウゴー」



ザリエルがえた。



突然、



上空に広がった軍団全体が



まるで雨のように降って来た。



化け物の雨だ。



目を見張った。



「やべー、来るぞ。」



「くそー、食い止めるぞ。」



維持部隊は恐怖と闘いながら



迎え討つ覚悟を決めた。



悪魔軍団は降って来るなり



手当たりしだいに



目の前にいる者を



斬り倒し始めた。



今まで平和だった雰囲気が



一挙に地獄と化した。



維持部隊は首を落とされ、



胴体は斬り離される。



剣を合わせても



弾かれて袈裟斬りで



真っ二つにされてしまう。



全体が武器を打ち合う音と



断末魔の悲鳴と怒声が



満ち溢れ



巨大な修羅場となってしまった。



とても勝てる相手ではない。



瞬く間に



敗色の色が濃くなってきた。



維持部隊の隊員の中から



地獄の想念である



怒り、怨み、憎しみ、殺意に



支配される者が



次々に



出て来るようになってしまった。



途端に、この場所が



急速に荒れ野に変わって行く。



維持部隊の隊員達が



地獄の想いを抱き始めたからだ。



そしてこれが



ザリエルの思うツボだったのだ。



ザリエルの目的は



この世界を



地獄の支配下に



組み入れることだった。



大量の地獄の軍勢(ぐんぜい)によって、



その場所は



地獄に一変してしまった。



明るく輝いていた世界から



光りが失われて



暗く(よど)んで、



その世界の住人は



いなくなってしまった。



地獄の帝王は



ザリエルの力を見込んで



地獄の領域(りょういき)を広げるように



命じていた。



帝王は天上の世界も



すべて地獄に変えて、



そこに君臨(くんりん)しようと



考えていたのだ。



それは



自分を地獄の底に沈めた



神への反抗(はんこう)であり、



そして



自分達は地獄に落ちることはなく



正しく生きられると



(たか)をくくって、



地獄の底に落ちている自分を



あざ笑って唾棄(だき)するように



毛嫌(けぎら)いしているであろう



天上の世界の住人への



復讐(ふくしゅう)であった。





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