第3話 僧侶
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「待っていたよ。」
静寂を破って、
背後から力に満ちた太い声が
堂内に響き渡った。
突然のことに
私は思わず
飛び上がった。
何事が起こったのか
混乱する意識で
恐る恐る振り向くと、
だれもいないはずの
薄暗い護摩壇の上に、
いつの間にか
得体のしれない姿が
影のように
ぼんやりと
現れていた。
「だれ。」
問いかけようとしたが、
意識が混乱して
声にならない。
しかし
相手のさわやかな
声の余韻が心の中に
反響して、
なんとも言えない
懐かしさが
込み上げてきていた。
初めて会った気がしないのだが、
どこかで
会ったことが
あるのだろうか。
私は不思議な気持ちで
そう思った。
そして
危害を加えられることは
ないということが
なんとなく
直観でわかったために、
少し落ち着きを取り戻した。
その影の輪郭が
徐々に鮮明になって、
はっきりした姿が現れてきた。
黒い衣に
黒い袈裟をまとって、
小太りで
頭を剃りあげた
丸顔、
ギョロッ
とした強い眼光の僧侶が
真っ直ぐ
こちらを凝視している。
首を傾げると
まるでカラスが
そこにいるようだ。
しかし
眼の奥には
なんともいえない
やさしい光が宿っている。
私は
思いもよらない
突拍子もない出来事に、
ただ
呆然と
立ち尽くしてしまった。
「やっと会えたな。」
ギョロ目の僧侶が
静かに言った。
やっと会えたと
言われても
何を言われているのか、
まったく
理解出来ない。
何を言っているのだろう。
この人は
いったい何者なんだ。
私は頭が硬直したまま
判断できず
面食らって
視線をそらした。
その途端、
「あれっ」
思わず息を飲んで
我が目を疑った。
ほこりだらけの本堂が
いつの間にか
きれいになって、
護摩檀も
須弥壇も
太鼓も
塵ひとつなく
ピカピカに
なっている。
「あっ、
しゅうちゃん!」
思わず声が出た。
いなくなったと
思っていたしゅう君が
せっせと
護摩木を運んで
護摩檀の真ん中に
組み上げていた。
しゅう君が
一瞬手を止めて
チラッ
とこちらに顔を向けて
微笑んだが、
また
そのまま
仕事を続けた。