第27話 人夫達
アデルコ達は
瓦礫を乗り越えることに
四苦八苦していた。
「手足を乗せるときには気をつけろ。」
アデルコは部下達に声をかけて
注意を促した。
舟で行くのが
不可能なことがわかって、
カヌーを担ぐ人足は
帰らせてしまったため、
アデルコは
数人の部下を伴って
瓦礫を越えて行くことになった。
全員が
アストラ人から仕入れた
荒れ地用の特殊な靴を
履いてはいたが
足を滑らせて
残骸の隙間に落ちて、
尖った破片で身体が
傷だらけになっていた。
それでも夢中で
残骸の少ないところを
探しながら進んで行った。
宮殿が少しづつ近づいていた。
宮殿の窓から
灯りが洩れている。
「もう一息だ。何とかなるぞ。」
アデルコは
責任を果たせる可能性を感じた。
周りは
暗くなっていって
どんどん闇の中へ沈んでいく。
アデルコはバッグの中から
携帯用の小さなランプを
取り出して頭の上に乗せ、
ベルトで止めた。
他の者達も同じように
頭にランプを乗せた。
ランプの光りは強く、
周囲が一度に明るくなって
よく見えるようになった。
アストラ大陸で作られた
小型の特殊な電池を使った
照明器具だ。
小さな硝子の容器の中で
放電して強い光りを発している。
カボトバン王国には
その原理や作る技術は
伝えられていなかったため、
自国では作れなかった。
宮殿の灯りも
これと同じようなものなのだろう。
アデルコは光りが
前方を照らすように
ランプの覆いを調整して、
また前に進んで行った。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
疲労困憊して
前に進むのもやっとと
いうようになったころ、
王宮が目の前に
覆い被さるように
迫って来ていて
大門がもうすぐそこだった。
「やったぞ。」
アデルコ達はいっせいに
歓声を上げた。
これで大王に拝謁できる。
安堵して全員が
そこで少し休憩することにした。
瓦礫の上に登って
眺めると、
この場所が
宮殿から伸びている道路に
近いことがわかった。
その道路の周辺に
ライトが灯っていて
明るくなっている。
大王の命令で集められた
人夫達が瓦礫を
片づけているのだろう。
ここからだと
瓦礫を最短距離で越えれば
道路へ出られそうだ。
そうなれば
もう宮殿に着いたのと同じだ。
アデルコは今までの疲れが
どこかにふっ飛んでしまったように
感じられた。
そうとなったら
いつまでも休んではいられない。
「さあ、行くぞ。あの道路へ出よう。」
アデルコ達は道路を目指して
ふたたび移動を始めた。
簡単に
道路へ抜けられることがわかって、
にわかに活気づいたためか、
進むピッチが速くなった。
それからは
さほど時間もかからずに
一行は灯りの灯った道路へ
出ることが出来た。
「やっと出られた。」
今までの辛い道行きが、
これで報われた想いがして
解放感に浸ったが、
大至急、大王に拝謁して
最高神官テミクシからの伝言を
伝えなければならなかった。
アデルコは思い直すと、
すぐさま
宮殿に向かって歩き出した。
人夫達はアデルコ達には目もくれずに
黙々と瓦礫を運んでいる。
宮殿までの広い道路の残骸は
きれいに片づいていて、
灯りが等間隔に
並べられていた。
アデルコ達は大門に向かって
走るように足を急がせた。
おやっ、
後ろを走っていた部下の一人が
後ろから響いて来る多数の足音に
ただならぬ気配を感じて
振り向いた。
「あっ」
思わず声を上げた。
その声に
アデルコと他の部下達も
振り向いた。
見ると
それまで
瓦礫を片付けていたとばかり
思っていた人夫達が
全速力で迫って来ていた。
何だかわからないが
後ろから走って来る人夫達から
異様な雰囲気が
出ているのを感じた。
多勢に無勢だ。
「走れ。」
アデルコが叫んだ。
「逃げたぞ。追え。逃がすな。」
人夫達は口々に喚くと
抜刀した。
そして
広い道路いっぱいに広がって
先陣を競うように
我先に突進して来た。
アデルコ達も全速力で走った。
大門が近づい来て来る。
突然、
走っている前方の暗がりから、
ばらばらっと
人影が出て来て、
行く手を遮った。
「しまった。だめだ。逃げ切れない。」
無念な想いを
募らせながら
仕方なく止まるしかなかった。
「何者だ。」
なぜ邪魔をする。
こんな奴らに
係わってはいられないんだ。
アデルコは身構えながら
怒りが込み上げていた。