第26話 アストラ王国
それにしても
コスカルは執念深い。
このような天変地異にもかかわらず
暴君カムシュリ王に
働きかけて
テミクシ追い落としを
謀ろうとは、
なんという姑息な奴なんだ。
センチャコはすでに
この瓦礫の中を駆け回って
着々と策を
弄していることだろう。
アデルコはテミクシから
経緯を聞いて
早く手を打たなければ
テミクシ派が
潰されてしまうと
気が急いた。
しかし山のように
積み上がった瓦礫が
行く手を阻んでいるために
どこまで舟を進めることが
出来るのだろうか。
迷路を進んで行くのと同じだ。
周りの景色が見えなくて、
どこをどう通って来たのか
わからなくなるほど
いりくんでいた。
それでも
何とか進んでいたが、
そのうち、
とうとうそこから先へは
どうやっても
進めなくなってしまった。
どうしたらいいのか。
アデルコは恨めしそうに
残骸を見上げた。
王宮は都市の真ん中の
小高い山の頂上に
岩のような大石を
組み上げた土台の上に
建造されていた。
神殿から
それほど距離はないのだが、
道路が瓦礫で埋尽くされて、
進むことが出来なくなっていた。
どうやらこれ以上
舟で行くのは無理だろう。
ここで
立ち往生している場合ではない。
手遅れになってしまう。
仕方がない。
アデルコは意を決して
そこで舟を捨てることにした。
そして
石のブロックや樹木や様々な物が
撹拌されて
盛り上がっている瓦礫に
よじ登った。
厚い雲に覆われ、
昼間でも夕闇のように暗い中で
宮殿は手に届くほどの距離に
薄ぼんやりとそびえ建っていた。
いつもの状態であれば
それほど時間はかからないものなのだが、
この見渡す限りの
残骸を越えて行かなければ
ならないのかと思うと
気が挫けそうに
なるほどの
距離に感じる。
それも日没までの
微かな明るさのあるうちに
行き着かなければ
鼻を摘ままれても
わからない漆黒の真の闇の中で
一夜を明かさなけれならないのだ。
いつ盗賊の群れに襲われて
命を落とすかわからないことになる。
しかし反対派のコスカルに
テミクシ派が
一掃されるとなれば
アデルコ自身も
その一味として
命を落とすことになるだろう。
どう転んでも
命にかかわることに
変わりはない。
必死にならざるを得なかった。
一方テミクシも
気が揉めて
落ち着かなかった。
太陽が未だ姿を現さないことに
大王は
さぞ苛立っていることだろう。
最高神官への
不満が頂点に
達しているかも知れない。
自分が立案した
生け贄計画に
カムシュリ王はどう思うだろう。
怒るだろうか。
大災害の処理さえ
どこから手をつければよいのか
儘ならないという状況なのに
要求する生け贄の数が
あまりにも多すぎるからだ。
それでも
神々のこれだけの怒りを
鎮めるには
相当の数が必要だ。
大王もこの状態を脱するには
早急に
生け贄を捧げなければ
ならないということぐらいは
理解しているだろう。
テミクシは
あれこれ思考を巡らせていたが
結局気がつくと
堂々巡りになっていた。
しかし
考えてみると、
いつもなら
文明の進んだ
大陸のアストラから
空飛ぶ建設重機が
救援に来てくれるはずになっているのだが、
今回はどうした訳か
一向に現れる気配がない。
この津波は
アストラに
何らかの異変が生じたことを
意味しているのだろうか。
それとも
戦争が始まって
重機を他国の救援のために
出す余裕がないのかも
知れなかった。
広大な大陸であるが故に
アストラ国の王は
常に周辺国からの侵略に
悩まされていた。
アストラの科学者達は
特に優秀で
超能力を有する者が多かったため、
精神エネルギーを利用した
科学技術は
他国の追随を許さず
群を抜いて発達していた。
そのため
アストラ王国が
世界の中心として
君臨することになっていたが
周辺の王国は
おもしろくなかった。
ところが
近年アストラ国の
王宮内部で
王位継承にからんだ
権力闘争による
血の抗争が
日常的に起こるようになっていた。
それに乗じて
周辺国が密かに
同盟を結び
アストラ王国の崩壊を図って
侵略を繰り返し
王宮を揺さぶっていたのだ。
そのようななか
アストラ国は
カボトバン王国を
辺境の小さな野蛮国として
蔑んではいたが、
空飛ぶ車を作るための
稀少金属の埋蔵量が
豊富なために
特別に好意的な待遇をしていた。
そのため
何か事があれば、
すべてに優先して
駆けつけてくることになっている。
宮殿の大石が
精密かつ複雑に組まれている土台は
友好国の証として
アストラの建設会社に
仕事を発注することを
アストラ王より
許されて造ったものだった。
その折に
その会社が所有している
空飛ぶ重機が
何千キロも離れた場所から
不思議な光線を照射して
石を切り取り、
それを楽々と
宙に浮かせて運んで来て、
カミソリの刃も入らないほどの
精巧さで組み上げたのだ。
アストラは
科学技術が
他国に流出することを恐れて
厳重に
それを管理していた。
そのため
その技術は
他国に流出することなく
アトラス国内の
技術者たちだけに
独占されて伝承されていた。
今、その最高技術の
結集した重機が来てくれれば
瓦礫などいっぺんに
片付けてくれるはずなのだが、
どうしたことか。
この震災の後、
毎日決まった時刻に
稀少金属を
採掘に来ていた重機が
姿を見せなくなっていた。
通信師は何をやっているのだ。
テミクシは焦れったかった。
瓦礫をすぐに撤去出来れば
様々な手を
早急に打つことも
可能性なのだ。
この時代は
それぞれの国に
テレパシーの能力が
特別に長けた人が
何パーセントかいて、
それらの人々を通信師として
国と国との連絡役を果たさせていた。
それらの通信師に
何らかの連絡が
来ているはずなのだが、
その通信師と連絡が取れないでいた。