第20話 援軍
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しかし
それは狐ではなく、
人間だった。
表情が乏しく
不気味な暗い雰囲気が
漂っているところを見ると、
好ましい連中ではないことは明らかだ。
崩された壁の中には
一本の木々も無く、
ただ
光りの乏しい薄暗い赤茶けた砂漠が
広がっているだけだった。
次元の異なる空間なのだろう。
その中に隠れていた姿そのままの
うんち座りで
何が起きたのか理解出来ず
キョトン
とした顔で固まっていたが
あまりにも間抜け過ぎる。
コソコソと
隠れているところを、
突然
むき出しにされて
格好のつかない惨めさと情けなさに
居たたまれない気持でいっぱいだろうと
意地悪く思ったが、
見たところ
バツの悪そうな様子などは
微塵もない。
何も感じていないのか、
無表情で何事もなかったかのように
一人がスッと立ち上がった。
それにつられて周囲の者が
ゾロゾロッ
立ち上がると、
それが
連鎖して波のうねりのように
ザーッ
と全体が立ち上がった。
不気味なほど静かだ。
それにしても
何か妙だなと
無踏は違和感を感じたが、
しかし、
連中はそんなことには
まったくお構い無しに
ザッ、ザッ、ザッ
と歩調を合わせて
移動を始めた。
前進して来る。
動きに躊躇がない。
無踏が蜘蛛の糸にぶら下がったまま
上から見ていると、
全体が
一つの生き物のように
動いているのだ。
それは
まるでアメーバの触手だ。
白狐軍の両側面へ回り込んで行く。
そのまま包み込んで
一挙に呑み込もうとしているのだろうか。
こいつら誰かに操られているな。
だとすると
操っているやつは
この中のどこかにいるはずだが。
無踏は意識の触覚を怪しいと
思われるところへ差し込んで
探りを入れてみた。
しかし
感知出来なかった。
暗光狐達は援軍が現れたことで
勢いづいた。
今の今まで
全滅の危機に瀕していたのだが、
強力な本隊が
合流するということになれば
百人力だ恐いものはない。
「どうだ。
ざまあみやがれ。
てめえらの敵う相手じゃねえぞ。」
先ほどまでの
意気消沈して青ざめた姿はどこへやら、
うって変わった傲慢な態度で
虚勢を張ると
肩を怒らせた。
しかし
前へ出て来る本隊を見ると
それぞれが
様々な国と時代の姿をしている。
携えている武器も様々だ。
刀や剣に戟、弓、鎌、
それに棍棒、
それも
鉄器、青銅器、
おまけに石器までもがある。
「なんだこれは。
まるで寄せ集めだな。」
適当に寄せ集めて、
にわか仕込みで作った軍隊では
たいしたことはないなと
無踏は相手を軽んじる想いが
湧いてきた。
これほどの
巨大な砦を造る力のある者が
こんなにも
お粗末な軍隊しか持っていないのか。
おまけに
最前線は狐の兵士にやらせておいて
様子を見ていたのだろう。
なんだかやることがセコい気がして、
裏で操っている者の
姑息な卑劣さに呆れて
蔑む想いが心を占めた。
またもや白狐軍は
新手の軍団と激突する破目に
陥ったのだ。
再び
剣戟の音が激しく響き渡った。
一進一退で
互角に渡り合っているように見えていたが、
そのうち
白狐軍の犠牲者が増えてきた。
暗光軍は恐れを知らない。
というのか
意識を支配されたまま
意志を奪われて
自分が無くなっているのだろう。
機械的に前進して来る。
無言で
斬られても斬られても
後ろへ下がらないが、
相手に襲いかかるときに
発する気合いは
恐ろしく大きい。
相変わらず
石が雨アラレのように降って来る。
しかし
隣で戦っている仲間が
突然それにぶち当たって、
ふっ飛ばされても
まったく意にかえさない。
無駄な動きもなく
的確に相手を斬り倒して行く者。
石斧を両手に振りかざし、
身のこなし素早く
攻撃を皮一枚で交わして
一瞬で相手を倒す者、
槍を風車のように
ぶん回したかと思うと、
突き出されたのがわからないほど
早い技で襲いかかる者、
無踏は見ているうちに
馬鹿にしていた想いが
間違っていたことに気付いた。
これは
達人と言ってもいいほどの
武芸者の集団だったのだ。
白狐軍が押されて
後へ下がって行く。
暗光軍が白狐軍の両側に伸びて
回り込んで行く。
突然
暗光軍の中央が
左右に開いた。
「おやっ」
と訝る間もなく、
パパパパパパーン、
乾いた破裂音が
連続して鳴り響いた。
途端に白狐達が
バタバタバタッ
と倒れた。
見ると軍団の後方に
火縄銃の隊列が
照準を合わせて
次の射撃体勢をとっていた。
あらかじめ鉄砲隊を
潜ませておいて、
その弾丸を通すために
中央を開いたのだ。
銃撃隊は撃ち終わると
すぐさま
後ろで準備して控えていた者達と
入れ替わる。
そのため
弾丸は途切れる暇もなく
飛んで来る。
白狐軍は慌てて
樹木の陰に身を隠した。
敵は広大な砂漠に
大軍団を展開させている。
白狐軍を撃ち破って
一気に
雪崩れ込もうとしているのだ。
想像を遥かに超える大軍だ。
これを撃ち破るには
どうしたらいいのだろう。
いい知恵はないか。
大納言は考えを巡らせた。