第2話 お寺
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回廊を降りると
しゅう君が床下を指さした。
「この下から入れるよ」
回廊の下を
太陽が照り付け、
土がサラサラに
乾いていて、
すり鉢のような
蟻地獄の巣が
無数に出来ている。
巣穴に落ちて、
もがいている蟻が
ザラザラと
崩れる斜面を
必死に登ろうとしていると、
突然
二つのツノのようなものが
すり鉢の底から
現れたかと思った瞬間、
蟻を挟んで
乾いた土の中へ引きずりこむと
気配を消した。
床下の奥は真っ暗で
入り口近くにある土台の柱が
並んでいるのが見える。
しゅう君が体を低くして
ずんずん
中へ入って行く。
私は
何か出て来そうな恐怖を
感じて
躊躇していたが、
意を決して入っていった。
蜘蛛の巣が
絡み付いてきて
なんとも煩わしい。
カビとほこりのにおいで
空気が澱んでいる。
夏の強い日差しになれていた眼が
徐々に
暗闇に順応してくると、
あたりの様子が
わかるようになってきた。
奥のほうまで
入って行った
しゅう君の姿が
忽然とかき消えた。
「あれ!」
頭をぶつけないように
あとを追って行くと、
しゅう君が消えたあたりで
床が抜けていて、
中へ入れるようになっていた。
恐る恐る
頭を穴から出して
気配をうかがってから、
そおっと
腕で体を押し上げて
中に入ると、
すべてがほこりにまみれていて
人の気配が無かった。
しゅう君はどこに行ってしまったのか。
「しゅうちゃん!」
そっと
遠慮がちに呼んでみたが、
あたりは静まり返って
だれもいない。
心細さに、
あたりをみまわして、
どこかに
人が行ける場所があるのか
探してみた。
須弥壇の上には
大きな大日如来と
不動明王が安置してあって、
その前に
破けた太鼓と
護摩壇が
そのまま
ほこりを被っている。
須弥壇の後ろに
空間があるようで、
たぶん
しゅうちゃんはふざけて
そこに
隠れているのだろうと
思った。