第17話 刺客
編集済みました。
ガキーン。
降り下ろされた剣と、
無踏の両手に現れた
六角棒で受けたのが
同時だった。
体が
強烈な衝撃で
後ろに吹っ飛ばされて
ゴロゴロッ
と転がった。
受けていなければ
真っ二つに
なっていたところだ。
無意識に体が動いた。
というより
何かに操られて
動かされた感じがした。
無踏は一瞬
頭が空白になったが、
それどころではない。
二の太刀、
三の太刀が
唸りを上げて
追いかけて来る。
殺気が
空気を斬り裂く。
転がりながら
夢中で
六角棒を振り回した。
ガギーン、
ガギーン、
ガギーン、
相手の無表情な目は
無踏一点に
定められて
執拗に
斬りかかって来る。
こいつが狙っていたのは
俺だったのか。
刺客か。
なんで
俺が
狙われなくちゃならないんだ。
剣を必死に避けながら、
思いもよらぬところで
自分の命が狙われていたことに
薄気味悪さと、
何ともいえぬ
嫌な気分がして、
納得出来ない理不尽さに
怒りがこみ上げて来た。
大納言達は
無踏の様子を
横目で見て
助けなければと
思いはするが、
いかんせん
間断なく
次々に斬りかかって来る
眼前の敵に
応戦するだけで
精一杯だった。
無踏は
転がりながら
六角棒を振り回して
剣を交わしていたが、
ちょっとした
間合いの隙に
サッと立ち上がった。
それを
見逃すような
刺客ではない。
「そこだ。」
冷たく光る切っ先が
鋭く突き抜いた。
あっ、
しまった。
無踏が
思った瞬間、
目の前の敵が
フッ
と消えた。
えっ、
どうなった。
呆然としたが、
めまいの残る中で
気づくと
空中を飛んでいた。
いつの間にか
金色蜘蛛が大きくなって、
長い足が
無踏の体からはみ出ている。
蜘蛛は
あらかじめ
巨木の高い枝と根元に
糸を
念の力で
貼り付けておいた。
そして
剣が体に突き刺さる
直前に
糸を強く手繰って、
バンッ
と根元の糸を切った。
その弾力で
無踏の体が
勢いよく
飛び上がったのだ。
蜘蛛は
自分の体の大きさを
自由に
変えることが出来るのだろう。
無踏は高い枝から
蜘蛛の糸に
ブラーンと
吊り下がった状態で
下を見た。
それぞれの軍勢が
豆粒のように見える。
そこは
大津波と大津波が
激突したような
騒ぎになっていた。
あの刺客が
必死に
無踏を
探しているのが見える。
闇の者は目が暗く
視力が劣っているのか、
上にいることに
気づけない。
周りには
斬られて
転がっている犠牲者が
双方に
多数出始めていた。
勇敢な白狐軍は
やや優勢で押してはいるが、
なかなか
攻撃の成果を
出せないでいる。
戦っている暗光兵士は
決死隊として
バリヤーの外へ
出されてしまったために、
砦へ逃げ込むことが出来ず、
生き残ろうと
死に物狂いの
特攻兵となっているのだ。
白狐軍団は
苦戦を強いられている。
中納言は
倒しても倒しても際限なく
新手の兵士が
鬼の形相で
突っ込んで来るために、
無踏に
意識を向ける
ゆとりもなく、
どうなっているのかさえ
わからなかった。
無踏は砦に目を移した。
巨木の上方から見ると、
天井はなく
上は開いている。
バリヤーが張ってある
砦の中は薄暗く、
奥は真っ暗だ。
蜘蛛は何を思ったのか。
先端に
光る粘液の珠が
ついている
細い糸を
足で引き出した。
それが
スルスル
と下へ垂れて行くと、
途中から
強風に煽られたように
珠が
ふわりと
浮き上がった。
そして、
そのまま
ずんずん
砦の方向へ
伸びて行く。
蜘蛛の念が
糸の先端の珠を浮かせて
移動させているのだろう。
糸は電線のように
緩やかに
たわんでいるが、
珠は一直線に伸びて行く。
バリヤーで弾かれるのに
何をしているのだろうと
不審に思いながら
成り行きを見ていた。