第16話 暗光軍団
編集済みました。
大納言は
ちょっと考えてから
「行くぞ。
プルサム隊と
市松隊は正面、
サンダ隊と
偵察隊は上空に待機。
相手から
攻撃を受けたときは
いっせいに反撃する。
以上。
出動開始。」
命令を下した。
「おーっ」
雄叫びを上げると、
雲に乗った狐の兵士達が
次々
川底から飛び出して
原生林の上を
凄いスピードで
飛んで行く。
どのくらいいるのだろう。
川の中では
はっきりしなかったが、
外に出てみると
その数は非常に多い。
大量の小雲が
群れをなして、
一つの方向に
吸い寄せられて行く。
無踏の乗った雲は
目が回るようなスピードで
密林の上を
かすめて飛んで行く。
全景はグングン変化し、
大河は遥か後方に
離れて行く。
のんびり飛んでいた鳥が
ぶつかりそうになり、
必死の形相で
羽根をばたつかせて
避けた。
雲は
場所を掴んでいるらしく
迷いがない。
瞬く間に
砦が見える場所に
到着した。
「スゲー。」
無踏は興奮して
完全に舞い上がっていた。
その途端、
乗っていた雲が
スーッ
と萎んで消えてしまった。
「あっ、
消えちゃった。
どうなるんだ。
逃げられなくなる。
大丈夫なのか。」
無踏は
急に
不安になった。
しかし
もうこうなった以上
逃げることは
出来ないだろう。
しかたがない。
覚悟を決めるしかなかった。
思い直して
前方の砦を見た。
距離が離れていても
巨大だ。
瓦の乗った
反り返る大門の屋根は
見上げないと見えない。
ゴツゴツ
した高い岩の壁が
一面に立ちはだかって、
無数の銃眼が
ところ狭しと開いている。
他の白狐兵士達も
距離を置いて
遠巻きに
待機している。
この辺りは
森の中に幾つもの
曲がりくねった道があり、
それに沿って
藁葺屋根の
小さな家が
軒を連ねているが、
住人は逃げてしまったのだろうか。
閑散として
姿が見えない。
砦の周囲には、
黒狐兵士達がたむろしている。
濁って動きのない目が、
無表情で
変質的な異常性格を
表していた。
あらためて
黒狐をよく見ると
単なる黒ではなく、
汚れて
光を失った
霊体から出るオーラが
暗い光の
斑尾模様になっていた。
そして
全員がそれぞれ
違った斑尾なのだ。
暗光狐だ。
しかし
餓えて
痩せさらばえた暗光狐達は
食い物はないかと
あちらこちら
物色して、
それらしいものを見つけると
いっせいに飛びかかった。
一部分に動きを感じた途端、
全員が
その方向へ
わっ
と押し寄せるので、
そのつど
集団が波になって、
右に左に
揺れ動く。
そして、
そこは
即座に
激しい殺し合いの場となった。
砦の大門は
閉まったままで
中の様子が
まったくわからない。
これはどう見ても
友好的な相手には
見えなかった。
どんな奴らなんだ。
手強い相手に見えるが
一挙に蹴散らして
追い返すことは出来るのか。
どこを攻撃したらいいのだ。
ボスはどこにいる。
大納言は
相手の動きを
しばらく窺っていたが、
全員が
この場の雰囲気に
慣れてきたであろう
頃合いを見計らって、
そろそろいいかと
思った。
どう出て来るか、
相手に姿を見せてみるか。
大納言は
右腕を高く上げて
前方に降り下ろした。
無言の号令一下、
雲を降りた地上軍団は
音もなく
ゾロリ
と暗光狐達の前に
姿を現した。
「出たぞー。」
「やつらだ。」
「皆殺しにしろー。」
「全員生きて返すんじゃねえ。」
「殺せー。
殺せー。
殺せー。」
殺意むき出しで
興奮した暗光兵士団は
けたたましい
笑い声を響かせながら、
我先に押し寄せて来る。
一瞬にして
異常興奮の熱気が
渦巻くカオスと化して
沸きかえった。
ふと、
その中から
無踏は
異様な圧力を感じた。
刺して来るような
妙な力が
まとわりついて来る。
集団の中でも
波動を
出しているところはわかる。
いた。
「あいつだ。」
前傾姿勢で
身動きもせず、
ジトーッ
と粘りつく視線を
無踏に向けていた。
「何で
俺を見ているんだ。」
無踏は
気味悪さに
ゾクッ
と鳥肌が立った。
しかし、
よく見ると、
それは狐ではなかった。
霊体に光はなく
闇のオーラに包まれた
人間だ。
一際大きな
その男は
無踏から視線をそらさない。
頭から鋭い角がとび出て、
皮膚が
ゴツゴツ
したワニ革のように
硬く
体中に
固い刺が生えている。
「あいつは俺を知っているのか。」
不気味な想いで
無踏は思った。
白狐軍団は
悠然と
この状態を眺めていた。
「あっ。」
不意に
何かの残像が
目の中をよぎった。
反射的に
体が動いた。
その瞬間、
ビュッ
と音がした。
何が起きたのだ。
バッ
と周りの兵士達が散った。
無踏もその位置から
跳び退いた。
身構えながら
見据えると、
そこには
抜刀した
屈強な暗光兵士が
腰を落として
次の攻撃に
移ろうとしている
ところだった。
こいつは人間だ。
しかし
人とは思えないほど
容姿は変化している。
誰を斬るつもりだったんだ。
大納言か俺か。
油断は
していないつもりだったが、
油断があったのだろう。
そこを突かれた。
大門の屋根から
飛んで来たのだ。
刀が
大納言の耳の縁を
かすめていた。
反射的に体を交わし、
バッ
と横に跳び退いた。
危うく
首をはねられる
ところだった。
即座に
白狐軍団が
いっせい攻撃に出た。
上空から
矢が
雨のように降って
暗光軍団を射抜く。
そこへ
地上軍が
抜刀して
突っ込んで行った。
うおーっ、
全体が
唸りを上げる
怒涛の流れとなって
激突した。
ジャキン、
ジャキン
と剣を打ち合い
楯で受ける音、
怒声が
地鳴りともに響き渡る。
戦闘は激しさを増して行く。
無踏にも
攻撃の手は延びて来た。
戦闘に加わるしかない。
ピピピピピッ、
胸のところに巣を張っている
金色の蜘蛛が
警戒音を発しながら
光りの粒を投げた。
それが
ツーッ
と無踏の
両腕の中を飛んで行って
両手の先に
スッ
と吸い込まれた。
時間にして
一瞬だ。
ビュッ、
鋭い音がした。