第15話 警戒警報
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雲は
そのまま
川のところまで行くと、
水面すれすれに
飛び出した。
まるで
ホバークラフトだ。
しかし
この雲の底は
抜けたりしないのだろうか。
無踏に
ふっと
不安がよぎったが、
二匹の狐は
涼しい顔で
何の不安も
持っている様子はなかった。
この雲は
いったい
どのような物なのだろうか。
まるで
操縦している様子もないし、
どうやって
動かしているのだろう。
無踏は
それらしい動きをしてはいないかと
狐達を見ていた。
しかし、
わからなかった。
雲は水面を滑るように
飛んで行く。
身を乗り出して
下を覗くと、
深く透明な川底が見え、
異常に長く育った
水草がびっしり
生い茂っていた。
その中を
巨大な魚やイルカが
悠然と
泳ぎ回っている。
まるで
水族館だ。
無踏は
しばらく
川の中を夢中になって
覗き込んでいた。
そのうち
雲がふわりと
浮き上がった。
そして、
そのまま
空高く舞い上がると
再び
景色の全貌が
眼前に
広がるようになった。
上空から眺めると
密林の中を
巨大な大河が
どこまでも
蛇行して延びている。
見回しながら
反対側を見ると、
遥かかなたに
山の連なりがあり、
その方向から
大河の流れが
来ているようだった。
「この異次元も
無限大の広がりを
持っている
世界だったのか。」
不思議な想いで
目を移すと
上空のあちらこちらに
雲が気球のように浮かんで、
風もないのに
それぞれが
様々な方向に動いている。
見ると
その一つ一つに
狐が乗って飛んでいた。
ここは
雲が乗り物だったのだ。
無踏の乗った雲が
ようやく
幅の広い大河を
越えるあたりまで
進んで来た。
しばらく前まで
遥か彼方に
見えていた対岸が
迫って来て、
その先に
また密林が
見渡す限り続いて見えている。
ビーッ、ビーッ、ビーッ、
「警戒警報発令、警戒警報発令、
不審者発見、不審者発見」
突然、
雲が
警報音を鳴らして
叫んだ。
二匹の狐の顔色が
サッ
と変わった。
その途端、
雲の動きが
ピタッ
と止まって、
くるりっと
向きを変えると、
予想もしなかった速度で
飛び出した。
そして
もと来た方向を
戻り始め、
瞬く間に
大河を飛び越えた。
雲は何かに反応して、
その方向へ
まっすぐ飛んで行く。
大納言と中納言は
緊張した面持ちで
無言のまま
腕組みして
立っている。
無踏もまた、
ただ事でない危険が
待ち受けている場所へ
向かっているのだろうと、
いやがおうでも
緊張が高まってきた。
雲は
森林すれすれのところを
一直線に飛んで行く。
突き出た木の先に
ぶつかりそうだ。
それを
右に左に
避けながらも
速度は落ちない。
上空に上がると
敵からまる見えで
不利になるため、
樹木の先端
ギリギリ
に飛んで行くのだろう。
不意に
コースが右に
反れて行く。
前方に
また河が見えて来た。
大きく蛇行して
離れて行った大河が
そのあたりで
再び
近づいて来ていたのだ。
雲は
その大河の上に飛び出ると、
そのまま
速度も落とさず、
まっすぐ
水面に突っ込んだ。
ドッブーン、
強い衝撃と
大きな水音に
無踏は
慌てて息を止めた。
雲は水に入ると
一気に
深い川底まで沈んだ。
どうなるんだ。
止めた息が続かない。
水面に上がろうとしたが
ぴったり
雲に貼り付いたままで
離れることが出来なかった。
無踏は
苦しさでもがいた。
間に合わなかった。
溺れたと思った。
しかし
気づくと
水の中にいるのに
息苦しさは
まったく感じられない。
陸上にいるのと
違わなかった。
予想外の出来事に
感覚が
ついていけない想いだ。
川底の水草は
間近で見ると
上から
見ていたときと
比べて
はるかに大きい。
雲はスピードを落とすと、
ゆっくり
水草の茂みの中へ
潜り込んで
川底に着地した。
すると
周りの水草が
ゾロゾローッ
と移動して
広い空間が広がった。
水草の下にいた蟹や虫が
慌てて
隠れ場所を探して
走り回った。
見ると
いつの間に集まったのか、
そこに
水草の蔭に潜んでいた
甲冑に武器を携え、
楯を抱えた
狐達が
多数現れてきた。
その狐達は
大納言と中納言を
待っていたのだ。
「偵察隊長はいるか。
ロバソンはどこだ。」
大納言が
声を張り上げた。
「はっ、
ただいま。」
ロバソンと呼ばれた白狐が
出てきて
大納言の前に膝まづいた。
「状況はどんな具合だ。」
「はっ、
ここから
十里ほどのところに
砦のようなものが
出来ています。」
「砦だと。
規模はどのくらいだ。」
「大きさは桁外れのものですが、
中が見えません。」
「バリヤーか。」
「はっ、
強力なのが張ってあります。」
「そうか、
わかった。」
「しかし、
あそこに
結界を張った出入口が
何かあったかな。」
大納言は
記憶を手繰ってみたが、
思い当たるものは
出て来なかった。