第126話 ゴンタ狐
一匹の狐兵士が太閤に媚びるように呼びかけた。
イタチはその声音の波動が
先ほどから自分に憎しみの念を送って来ている者と
同じであることがわかった。
あの渋谷事件のボス狐だ。
こんなところにいたのか。
「太閤様、このイタチ野郎は
あの稲荷神社奪還を邪魔したやつが化けたものです。
こいつが出している波動は忘れもしないやつのものですぜ。」
ボス狐が手柄顔で言った。
太閤の全身を網の目のように稲妻が覆った。
「あちあちあち」
太閤が体を踊るようにくねらせたあと
「うー、こやつか。わしの計画を潰しおったのは。
許さん。二度と逆らえぬように
細切れにしてしまえ。」
「おー」
狐軍団が雄叫びを上げた。
「目黒のゴンタよ。」
太閤が名前を呼んだ。
「ははー。」
目黒のゴンタと呼ばれたボス狐が
卑屈なほど身を屈めて太閤の前に進み出た。
「よくぞ見抜いた。さぞ憎かったであろう。
まずそなたが心ゆくまで怨みを晴らすがよい。」
「ははー」
太閤の許可を貰った目黒のゴンタが嬉々(きき)として頭を下げた。
すると他の狐兵士達が囲いを広げて空間をあけた。
シャリンとゴンタが抜刀してイタチに歩み寄った。
イタチは力を抜かれて体が動かない。
自分の体が自分のものではないようになっていた。
ゴンタは切っ先をイタチの眉間にゆっくり当てると
ググッと力を入れた。
プツッと皮が斬れて、じわっと血が滲んできた。
それを見ると、ゴンタがニヤリと笑って腕に力を込めてきた。