第124話 憎しみの波動
イタチは自分を見下ろしているアブブ太閤の顔を
ジーッと見つめた。
太閤も空中に浮いている大狐に跨がって
イタチの顔を睨んでいる。
そして怒っているのか、
時折その目の周辺からから頭のてっぺんに向かって
赤く小さい稲妻が
網の目のようにバチバチッとショートする。
そのたびに兜の頂上から突き出ている髷が
チリチリッと焦げて黒い煙りが立ち上る。
すると太閤の体がうわっと驚いたように反応する。
笑い上戸のイタチはそれを見ると
顔を真っ赤にして笑いをこらえていたが、
我慢しきれずに「ぶっ」と吹き出すと
もう馬鹿笑いが止まらなくなってしまった。
腹を抱えて息も出来ないほどだ。
途端に太閤はカーッと怒りが爆発した。
イタチにナメられたと思った。
「おのれー。わしをバカにしおって。
クッソー、八つ裂きして擦り潰して、
抹殺してくれるー。」
太閤は怒りで殺気に満ちた目から
強烈な稲妻が光ると頭全体に放電した。
バチバチバチッ、
弾ける音とともに、ボッと髷に火がついて燃え上がった。
「アチチチッ」
太閤は熱さと苦しさで
頭を兜の上から掻きむしった。
イタチは太閤が酷く間抜けに見えた。
そうなるといっそう笑いがひどくなって
涙を流しながら体を折り曲げて
バッタンバッタン転げまわった。
それを見た太閤はますます激怒すると、
頭がバチバチショートして
熱さと痛みに身をよじりながら上げた手を振り下ろした。
ブォー、ブォー、ブォー、ほら貝が鳴った。
ザーッと狐の大群が動いて
瞬く間にイタチを取り囲み、
武器を向けて構えた。
大群の真ん中にぽつんとただ一人囲まれて、
意地の悪い冷酷な目をした狐達が
いまにも飛び掛かろうとしている。
「これは逃げることが出来ないな。」
イタチはやっと馬鹿笑いをやめて油断なく周辺に気を配った。
「こりゃあ絶体絶命だ。」
イタチはことの重大さを思った。
怒りに燃えたアブブ太閤は容赦なく、
再び手を上げると
憎々(にくにく)しげに振り下ろした。
ブオー、ブオー、ブオー、
またホラ貝の音が鳴り響くと
狐達が一斉に構えた武器で
迷いもなく斬りかかって来た。
「うわっ、あぶない、あぶない。」
イタチは体をくねらせるように回転してそれをかわした。
しかし狐軍団は次々攻撃して来て
休む暇を与えない。
それでもイタチは激しい攻撃をかわしながら
不意に反撃に転じたりしていたが、
もう一方で自分に向けられている強い憎しみの圧迫を感じていた。
それはどこかで感じたことのある波動だった。