第110話 膨れた餅
「畜生、ふざけやがって、離せ。」
ミヤナはまだ必死に抵抗していた。
チャラムは狂喜と興奮にうち震え、
ミヤナがもがけばもがくほど
残忍な恍惚感で夢中になっていた。
ゆっくり時間をかけて生皮を剥いで怨みを晴らす。
さあ、このナイフを一気に引くんだ。
そういう決意が伝わって来る。
「さあ行くわよ。」
チャラムの勝ち誇った腕に力が加わった。
「あー」
ミヤナが叫ぶ。
「叫んだって、何したってもうダメよ。
ただし、あたしの奴隷になるなら
心臓をえぐるのだけは勘弁してやるわ。
さあ奴隷になるってお言い。」
チャラムは玩ぶように言いながら
黒曜石のナイフに力を込めてスーッと肌に滑らせた。
「あ、あーっ」
ミヤナが恐怖の声を上げた。
ガツン。
突然鈍い音がした。
と思うとチャラムの姿が一瞬消えた。
見ると激しい勢いでふっ飛んでいた。
強烈な打撃を頭に受けたのだろう。
体が真横になって飛んで行く。
そして落下したところで
そのまま動かなくなってしまった。
すると二人が仰向けにされている地面が
ぷくーっと焼いて膨れた餅のように盛り上がって、
それが上へ上へと伸びて根元が縮まり、
中身が圧縮されてギリギリ締まっていく。
情け容赦のない力だ。
「あああー、」
中から苦悶の声が漏れて来た。
掴んでいる手が苦しさに堪えきれず、
腕から離れて空をつかんでもがき出した。
悲鳴がますます大きくなって、
そのうち静かになった。
全員気を失ってしまったのだろう。
チャラムは横たわったままピクリとも動かない。
頭がこん棒で割られて陥没していた。
バドグは念動力を駆使して
チャラムに気づかれないように、
こん棒を空中で大きく旋回させていたのだ。
旋回速度を上げて、
それをミサイルのように撃ち込めば、
その破壊力は尋常ではない。
チャラムはとんでもない重傷を負ってしまった。
あたりが静かになって、
盛り上がっていた地面が元に戻った。
バドグは目を開けると
飛び起きてミヤナのところへ駆け寄った。
「姉御大丈夫か。」
ミヤナはしばらく放心状態だったが、
帯を斬られて
前がむき出しになっていることに気づくと
慌てて着物の前を合わせた。
「ジロジロ見るんじゃない。」
バドグが裸体に釘づけになっているのを
ミヤナはばつが悪そうに睨み付けた。
胸に傷が残っているが大したことはなかった。




