第106話 往生際
バドグは瞬間的に
時空を歪めることの出来る力を持っていたのだ。
剣がいっせいに突かれたとき
足元の場を膨らませて
体を跳ね上げると同時に
投げつけた棍棒の行く先の空間を
自在に曲げてコントロールしていた。
混乱した状態を見て
状況不利と感じたチャラムは
二人を囲んでいる配下を一旦後ろに下がらせた。
「往生際の悪い奴らね。
いい加減に観念しなさいよ。」
筋肉むき出しの顔の奥に悔しさを隠して
チャラムは無表情に言おうとしたが、
それを隠すことは出来なかった。
「往生際が悪いのはどっちだ。
不利だと思えばコソコソ後ろに隠れやがって、
他人にやらせるな。
お前独りで来い。根性無し。」
ミヤナがあからさまに馬鹿にした言い方で挑発した。
チャラムは屈辱感で一気に怒りが爆発した。
真っ黒な煙がドッと噴き出したかと思うと、
引火したように炎が噴き上がった。
怒りを止めることはまったく出来ない。
いや止めようとすることすら思い浮かばないほど
感情が爆発して
一気に意識が怒りに支配されてしまうのだ。
あまりに怒りのエネルギーが強いため、
全身のエネルギーの流れが乱されて
体に震えが出てしまった。
「畜生、斬り殺しても、八つ裂きにしても足りない。
奴らを生け捕りにしてちょうだい。」
ブルブル体を震わせながら
チャラムは赤黒い炎の中にすっぽり包まれて
ヒステリックに叫んだ。
手下達は命令を受けると、
またもやジリジリ囲みを狭めて来た。
おやっ、と思った。
奴ら地面に沈み込んでねえか。
二人が思った途端、
すっ、すっ、すっ、と
次々地面の中へ吸い込まれて姿を消して行く。
なにっ、と気を取られた一瞬。
「あっ」「こん畜生」
二人が声を上げた。
見ると足首を地面から突き出た手首が握っていて、
身動き出来なくなっていた。