第105話 チャラム様
地獄の世界では
このようなことは日常茶飯事として起こる。
「くそ、厳重に囲みやがって。」
ミヤナはどこを突破口にするかを
敵にさとられないように、
弱そうなところはどこかと観察した。
しかし
この意識の動きは当然読まれているだろう。
僧侶のように坊主頭のバドグは
立ったまま禅定でもしているかのように
半眼で大きな体を微動だもせず、
相変わらずこん棒をゆっくりと
手首で回している。
何を考えているのか。
意識の動きが掴みにくい男だ。
二人を囲んだ皮無し集団は
負けることがないことを確信したのか、
ニヤニヤ気味悪く笑った。
「我らがボス、
チャラム様のお力を知らぬとみえるな。
先ほどのは、ほんの余興。
これからが本番だ。」
取り囲んでいる後ろから声がした。
「なにっ」
振り向いたと同時に
囲んでいる集団が宙に浮いて回転し始めた。
「おおっ」
そして徐々に回転が上がって来ると
目で追うことが出来なくなって
一瞬グラっと目の前が揺いだ。
それを待っていたように、
その輪がサッと縮んだかと思うと、
いっせいに剣が突き出された。
「あっ」
二人は慌てて地面に転がりながら、
ミヤナが刀を横に払った。
手応えがあって
斬られた者が倒れたようだったが。
しかし間髪を入れず
次の剣が襲って来た。
しまった。
身体中に剣が突き刺さったか、
と思ったその時、
地面がボンと盛り上がって
二人が空中高く放り投げられた。
間一髪、
剣が空を斬った。
空中に上がったバドグは
半眼の目をカッと見開くと
持っているこん棒を
勢いよく敵に投げ落とした。
それは高速回転で
伸びたり縮んだりしながら、
曲線を描いて飛んで行く。
何事が起こったのかわからず
「何だ、何だ」
と下で騒いでいるが、
こん棒は意思を持っているのか、
皮無し達の頭を正確に打ち叩いて行く。
直撃だ。
バドグが操っているのだ。
こん棒はバドグの想う通りに飛んで行く。
相手は恐れをなして
円陣が組めなくなってしまった。
それを見たミヤナは
刀を上段に構えると
瞬間移動しながら
片っぱしから相手を斬り倒して行った。