第103話 都
飯山と槍男を運んで行く集団は
鬼の角と牙が生え、
分厚い革の胴当てを着けた兵士で、
人数は十人。
実戦に明け暮れているせいか、
戦いには馴れていて、
始めから終わりまで
全員が自分の持ち場の仕事を
手際よくこなしていた。
どこへ向かっているのか。
飯山と槍男は
両手両足を縛られたその間に棒を通され、
兵士が前後で担いで、
狩られた猪のようにぶら下げられて、
左右に揺すられながら進んで行く。
暗く深い森の小道は草に埋もれ、
地面が荒れて足元が不安定だ。
おまけに木の上からは
蛭が狙いを定めて落ちて来る。
そのため飯山と槍男のむき出しの肌には
蛭がところ狭しとへばり付いて
蠢いている。
しばらく行くと山道が急に開け、
見晴らしが良くなった。
眼下に碁盤の目のような道路が
縦横に延びている薄汚れた暗い大きな町が見えて来た。
それは廃墟の都なのか。
兵士達はそこから長い坂道をだらだらと下って、
切り通しを抜けると町へ入って行った。
だんだんと村から町の様相を呈しては来たが、
相変わらず家と家の間隔は離れていて、
家の回りには容易に人が入れないように
厳重な囲いが巡らされている。
しかし家は荒れ放題、
土壁にはあちらこちら穴が開き、
屋根の瓦も至るところに落ちている。
外敵から身を守ることに精一杯で
家を修理するようなゆとりはないらしい。
しかしこのような町並みが存在しているということは
人々が力を合わせて
社会を成り立たせていた時代があったのだろうか。
それにしても規模の大きな都市だ。
道路はひび割れて轍のあとや、
さまざまな足あとで
でこぼこになっている。
街を徘徊している人々はずる賢く
相手の隙を窺っている
油断ならない目付きをして
遠くから兵士達を見ている。
他人は自分を傷つけ、殺し、奪う者という体験が
実感として蓄積し
常識となっていて
人を受け入れることが出来ないのだ。
体験から実感となってしまった意識から
抜けることは不可能に近い。
常に疑心暗鬼と恐怖の中で
気を抜くことが出来ない。
行く手に大きな屋敷が見えて来た。
兵士達は一糸乱れず進んで行く。
徘徊している者も兵士達が近付いていくと
慌てて物陰に隠れてやり過ごした。