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第10話 観音力

編集済みました。

「観音力とは何か。」



大烏が



静かに問いかけた。



何かと



問われても



わかるはずがない。



何だろう。



観音と言うのだから



観音の力だろう。



超能力か。



男はぼんやりした意識で思った。



突然、



空中から



激しく炎が噴き出して、



光りのラインに



縁取ふちどられた



腕が現れた。



そして



そのラインの内側に



無数の星々が



輝いている。



まるで



星が集まって



出来ているような腕だ。



これは、



いぶかった。



その途端、



その腕が



バッ



と拡大して



部屋全体を覆った。



そして



男はすっぽり、



その腕の中に



入り込んでしまった。



次元が



一瞬に変化して、



真っ暗な空間になった。



いままであった



建物も大地も



すべて失せ、



あっ



という間に



男は宇宙のまっただ中へ



ほうり出されてしまった。



砂つぶのような



星が隙間なく



びっしり



宇宙空間に



詰まっていて、



その無数の星の



かたまりに



自分が



吸い寄せられて行くような



感覚になってくる。



これは



いったい



どういうことなのか。



息を飲む



巨大な宇宙の迫力に



圧倒されて



声もなく



見入っていたが、



はたと考えた。



広大な宇宙にただ一人、



まわりに何もない



無重力の状態で



体を動かそうとしても



手足をばたつかせるだけで



移動すら来ない。



と言うことは



これからどうすればいいのだろう。



帰るに帰れない。



このまま



ずっと



ここにいなければならないのか。



助けてくれる者は



誰もいない。



太陽らしいものも



地球らしいものも



見あたらないところを見ると



太陽系以外の場所なのだろう。



こんなところで



野垂れ死にか。



一瞬



恐怖が湧きあがって、



意識は



パニックにおちいった。



しばらく



じたばたしていたが、



ふと



心の奥の



深いところに



何かを信じて



揺るぎなく



動じない部分が



あることに



気づいた。



その場所に想いを合わせた途端



ふわっ、



と安心感に満たされて、



心に冷静さが



よみがえった。



人間の中心には



不思議な領域が



あるのかも知れない。



冷静に考えることが



出来るようになって



あらためて



全体を見回す余裕が



出て来た。



砂粒のような



星屑が渦巻いて



密集したその中に



自分が埋もれている。



ふと



見ると、



いつの間にか



自分の体が



星屑のひとつのように



光りを放射して



輝いていることに



気づいた。



体の中心に



核融合が生じて



エネルギーを



放出し始めたのだろうか。



そして



砂粒のように



見えている



恒星のひとつひとつに



意識を向けると、



それらが



ワーッ



と拡大して



星が目の前に



迫って来る。



それは



太陽のように燃えている



巨大な星や



渦巻いている星雲、



濃厚なガス、



あらゆるものが



意識を向けただけで



拡大し、



それらの詳細な部分まで



一瞬にして



理解出来るようになっていた。



自分のエネルギーが



ますます



強さを増して



輝きは



頂点に達した。



音のない



無味乾燥な



宇宙空間だと



思っていたものが、



人間の



感じることの出来ない次元では



非常にエネルギッシュで、



にぎやかな場所であることを



感覚で悟った。



そのひとつひとつの星々は



懐かしそうに



男の意識に



何かを伝えようと



しているようだった。



宇宙は核融合炉の集合体であり、



高圧エネルギーが充満して、



それらが



集中拡散の



生成と消滅を



繰り返している



場所だったのだ。



宇宙自体が



もっているエネルギーは



どれほどすごいものなのか。



想像すら出来ないが、



しかし



男は自分の内側に、



この宇宙という



外側のエネルギー体の中に



充満しているエネルギーと



均衡を保つほどの



エネルギーが



存在していることを



感じ取った。



一個の星のように



光り輝いて、



宇宙と一体であったということを



この時



始めて理解した。



人間も宇宙に遍在するエネルギーで



出来ていたのだ。



それは言葉ではなく



感覚としてわかった。



男は今ここで



見て感じていることを



かつて



経験したことが



あったような想いが



感覚の中に



微かな記憶として



残っているような気がした。



過去世のどこかで、



このような体験が



あったのではないだろうか。



男はしばらく



夢想にふけっていた。



すると



突然、



天幕が引かれるように



おおっていた腕が



縮んで



元に戻ると、



部屋は



何事も無かったように



静まりかえったままだった。



男は



この強烈な体験の余韻に



呆然自失ぼうぜんじしつの状態のまま



動くことが出来ないでいた。



「少しわかったようだな。」



はっと



我に返った。



大烏が相変わらず



空中に浮いたまま



男を眺めていた。



いったい



この烏は何者で



何を伝えようとしているのだろうか。



男は



次々襲って来る出来事を



受け止めかねていた。



私に何を理解しろと



言うのだ。



男がそう思ったとき、



突然、



空中に浮いている腕の



手のひらの上に、



太陽が強い光りと



熱を放って現れた。



おおっ、



男は横になったまま、



ただ



目を見開いた。



すると



真っ黒な大烏の体のまわりが



淡い金色の光に包まれたか、



と思うと



ピカーッ



と強い光を放射して、



さっ、



とその太陽の中に



吸い込まれて行った。



太陽の中に入った大烏は



しばらく



寝袋の男を見ているようだったが、



無言のまま、



光り輝く手のひらとともに



スーッ



(あわ)いかすみのように



薄れていって、



ゆっくりと



消えた。



後は



何事もなかったように、



また



元の暗い部屋の中に



戻っていた。



「あの烏と腕は



いったい何だったのだろう。



観音力とは何か、



と言っただけで



何も教えてくれないまま



消えてしまったが、



何を伝えようとしていたのか。



次々、



訳のわからない出来事に襲われ、



頭が混乱して、



夢だったのか、



現実だったのか、



男は区別がつかなくなっていた。



しかし、



あらためて



自分の胸のあたりに



意識を向けると、



金色の蜘蛛が



巣の真ん中に、



じっと



張り付いているのが見える。



どうやら、



心眼(しんがん)を意識すると



あの世の存在が



見えるように



なってしまったのかも知れない。



放心状態のまま横になって、



あれこれ考えているうちに



寝てしまったらしい。



まぶしいくらいに



明るい朝日が



窓から差し込んで来て、



寝ている男の



眠りをさました。



空は抜けるような



快晴になっていた。






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